小咄
 シャワーを浴びながら、深成はえっくえっくとしゃくり上げていた。
 折角真砂のために頑張ったことを、他でもない真砂本人に全否定されたのだ。
 あの機嫌の悪さも、あまりに深成が似合わないことをしていたから気分が悪かったのかと思うと、涙が止まらない。

 ひとしきり泣いた後で、ようやく深成は身体を洗って浴室を出た。
 ホテルのバスローブを着て出ていくと、入れ替わりに真砂がさっさと浴室に消えた。

 深成は窓辺に寄って、外の景色を眺めた。
 気付くと随分、身体が楽だ。

 胸を締め付けていた矯正下着とパッドを取った胸は、元の貧弱さを取り戻している。
 深成はバスローブの胸元を覗き込み、ため息をついた。

---やっぱりNo.1ホストの真砂には、似合わないよね---

 改めて落ち込んでいると、真砂が浴室から出てきた。
 バスローブを羽織っただけで、濡れた髪を拭きながら、ふらふらとベッドに歩み寄る。

「水くれ」

 仰向けにベッドに倒れ込みながら言う真砂に、深成はきょろ、と部屋を見渡した。
 冷蔵庫の上にあるポットのミネラルウォーターをコップに入れ、真砂に渡す。

 上体を起こして一気に水を飲んだ真砂は、ふぅ、と息をつくと、ちらりと深成を見た。
 そして、ぽんと己の横を叩く。
 深成が促されるまま横に座ると、真砂は深成の肩に手を回した。

「何をそんなに落ち込んでるんだよ」

 深成に体重をかけながら、真砂が言う。

「だって……。折角真砂に喜んで貰おうと思って、この一週間、頑張ってきたのに」

「一体何を、そんなに頑張ってきたんだ?」

 深成は俯いて、きゅ、と拳を握り締めた。
 思い出しただけで、また涙が浮かぶ。

「だって……、だってわらわ、真砂にいっぱい助けて貰ってるから、いっぱいお祝いしてあげたくて。でもきっと、真砂はお店でイベントがあるから遅くなるだろうし、そしたら時間もなくなっちゃうもん。アフターでいっぱいお祝いしてあげようって思っても、真砂、いっつもさっさと帰っちゃうじゃん。だから、真砂がわらわをアフターに誘いたいって思えるように、良い女になろうと思ったんだもん」

「はぁ〜ん。だからあんな似合わない格好してたわけか」

 遠慮なくそう言い、真砂は、くい、と深成のバスローブの胸元を引っ張った。

「よくもまぁ、こんだけしかない胸をあれだけ盛ったもんだな。ばればれだぜ」

 かっと深成が赤くなり、同時に涙がぼろぼろとこぼれる。
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