小咄
「俺を誰だと思ってる。付け焼き刃の色気で落ちるほど、初心い男と思うのか?」

 馬鹿にしたように言い、真砂は深成に顔を寄せる。
 恥ずかしさと悔しさで、深成は、キッと真砂を睨んだ。

「そんなこと言って! 真砂、わらわの胸元に慌ててたじゃんっ。結局アフターも誘ったくせにさ!」

 噛み付くように言う深成だったが、真砂は面白そうに目を細めた。

「そらぁ慌てるさ。俺の知ってる深成は、あんな巨乳じゃなかった。瓜二つの別人かと思ったぜ。別人にゃ、興味ないんでね」

 言いつつ、真砂の片手は深成の胸を包んだ。
 バスローブの上からだが、少し深成の身体が強張る。

「それに、アフターに誘ったのは、お前の格好のせいだ。あんな格好のお前を、他の男の目があるところに置いておくわけにはいかんだろ」

「……」

 深成は涙の溜まった目で、真砂を見た。
 至近距離で、真砂がちょっと意地悪そうに口角を上げる。

「だが、確かにお前からのお祝いは足りないな」

「だ、だから、アフターでいっぱいお祝いしてあげようって……」

「何をしてくれるんだ?」

「真砂の……喜ぶことを……」

 依然真砂の手は、深成の胸にある。
 体重をかけられ、深成は真砂の背に手を回して、倒れそうになる上体を支えていた。
 が、それだと真砂がベッドに倒れ込んでしまえば、深成も一緒に倒れることになる。

 案の定、真砂はそのまま、身体を倒した。

「俺の喜ぶことなら、何でもしてくれるのか?」

「ん……。真砂、何が欲しいの?」

 『何でもする』と言って、妙な行為をさせられたら困る。
 変なところで理性が働き、深成は何気に言い方を変えた。

 が、そっちのほうが、真砂にとっては都合が良かったようだ。
 にやりと笑うと、真砂は深成のバスローブの帯に手をかけた。
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