小咄
「大体、君の動機は何なんだ。深成ちゃんを気に入っているから、彼女を狙うんだろう!」

 おおっ! とあきが、柵の外側から身を乗り出す。
 このようなことを生徒の前で言う六郎もどうかと思うが、そこは特殊な学校だけに、周りの生徒も気にしない。
 核心をついた六郎に、あきは、わくわくと目を輝かせたが、真砂はこの上なく冷たい視線を六郎に浴びせた。

「それはお前だろう。俺があいつを狙うのは、何のことはない、あの幼児体型のほうが担ぎやすいから。それだけだ」

 小さいから軽いしな、と付け足し、馬鹿にしたように笑う。
 そんな真砂に、遠くに逃げていた深成が駆け寄ってきた。

「ちょっと! 何てこと言うの! わらわのどこが、幼児体型だっていうのさ!!」

「その凹凸のない身体の、どこが幼児体型でないと言えるんだ」

「知らないくせにーっ!」

「見ればわかる。それとも、触ると違うのか?」

 言うなり真砂は、がばっと深成を担ぎ上げた。

「にゃーーっ!」

「ほれ見ろ。担ぎやすいことこの上ない」

 けけけっと笑ながら、真砂は手早く深成の太ももに鉢巻を括り付けた。
 ぎょ、と六郎が目を剥く。

 抱え上げてから足に鉢巻を巻いたので、深成は自分で真砂にしがみ付かないと、頭から落ちそうなほど、真砂の背中側に身体が出ている。
 なので、真砂の顔のすぐ横に、深成の太ももがある状態だ。
 このまま走れば、振動で深成の太ももが真砂の頬に当たることもあろう。

---そそそ、そんなことが許せるものか……! し、しかし……!!---

 だからと言って、今の真砂を自分に置き換えると、考えただけでくらくらする。
 己の頬が、深成の太ももに当たるなど、とても平静を保てない。

 しかも、深成にしがみ付かれるのだ。
 ちょっと考えただけで、ふらりと六郎の足がよろめいた。

「そんじゃな。お先」

 にやりと馬鹿にした笑みを残し、真砂は柵を出て行った。
 は、と我に返れば、柵の中には六郎と千代だけだ。

 どうやら言い争っているうちに、他の先生方と羊たちは先に進んでしまったようだ。
 慌てて競技の行方を見ると、真砂が先を走る先生を、どんどん抜いているところだった。
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