小咄

とあるシェアハウスでの、一夜の出来事

【キャスト】
住人:真砂・深成・あき 客:六郎
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆

 その日、深成は六郎に呼び出されて町に出ていた。
 が、折から接近していた台風で、どんよりとした日和だ。
 夕方になって、とうとう雨が降りだしてきてしまった。

「ああ~。降ってきちゃったね」

 カフェででっかいパフェを食べながら、深成が外を見て言った。

「やっぱり台風来てたんだね。風は凄かったけど、お天気は大丈夫かなって思ってたんだけど」

「そうだね。ちょっと寒いしね」

 前でコーヒーを飲んでいる六郎は、こちらでの用事を済ませて、今日帰るのだそうだ。
 その前に、再び深成に会いに来たということなのだが。

 会ったときから、ちょっと六郎は体調が思わしくないようだった。
 こんこんと、軽く咳をしている。

「大丈夫? 風邪引いちゃってるのに、無理して寄ってくれなくても良かったのに」

「いや。前はあんまりちゃんと話せなかったし。やっぱりこっちに出てきたら、深成ちゃんに会っておかないとね」

 にこ、と笑って言うが、顔色もあまり良くない。
 そんな状態なのに、帰りにわざわざ深成に会いに来たのは、心配だったからだ。

 前に会いに来たときに、深成にやたらちょっかいを出していた男。
 同じシェアハウスの仲間だそうだが、奴は深成に興味があるようなのだ。

 シェアハウスにはもう一人、深成よりも少し年上の男の子がいたが、この子にも宣戦布告されている。
 だがそれより何より、もう一人の男のほうが気になるのだ。

「ねぇ深成ちゃん。あの後、あの人とは何かあった?」

「ん? 誰?」

 んしょんしょと、パフェグラスの下のほうに落ちてしまったチェリーをスプーンでほじくりながら、深成が聞く。

「ほら、あの……。意地悪な男の人だよ。苛められてない?」

 ようやく取れたチェリーをぱくりと口に入れ、深成はちょっと考えた。

「ああ、真砂? 大丈夫だよ~。意地悪っても、可愛いもんだよ」

「で、でも。あの人、深成ちゃんにばっかり構うじゃないか」

「そう? それはわらわが、一番年下だからでしょ。やっぱり子供扱いは直らないしさ」

 ぷぅ、と膨れて、深成は再びスプーンをパフェグラスに突っ込む。

 この真砂というのが、六郎の心配の種なのだ。
 真砂はシェアハウスでは一番の年長者だ。
 とはいえ多分六郎より、少し下であろう。

 だが、醸し出す雰囲気が、他の者とはまるで違う。
 近寄りがたい雰囲気のくせに、誰の目をも奪わずにはおれない、というのだろうか。
 姿かたちが、物凄く良いのだ。
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