小咄
とある新人作家・あきの執筆事情
【キャスト】
担当編集者:真砂 新人作家:あき
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
「彼女が期待の新人、あきさんだ。この若さで高山賞を受賞したほどの実力者だよ」
ラテ出版社の会議室で、新人作家としてデビューしたばかりのあきは、自分の担当となる編集者に引き合わされた。
「よ、よろしくお願いします!」
がばっと頭を下げる。
ラテ出版社一の凄腕と噂の編集者は、あきが想像していたよりも、随分若かった。
しかも。
---す、すっっごいイケメン……!!!---
一目見た瞬間、あきの心はその担当者で占められるほどの美形だ。
---これは何てツイてるのかしら! 担当者ってことは、お家に籠もってアドバイスとかしてくれるのよね。しかも何日間も二人っきりで……。そのうち恋が芽生えたって、おかしくないわ!---
頭を下げたまま、あきは今後のことを想像し、ばくばくと心臓を高鳴らせた。
「真砂君は、我が社一の編集者だ。彼に任せておけば、何も心配いらないよ。指導力も半端ないからね。じゃあ真砂君、後は頼んだよ」
編集長はそう言って、部屋を出ていった。
あきはしばらく閉まった扉を眺めていたが、やがてそろそろと、顔を戻した。
真砂は立ったまま、手に持った本に目を落としている。
高山賞を受賞した、あきの作品だ。
しばらくページをめくってから、真砂は、ぱん、と本を閉じた。
そして真っ直ぐあきを見る。
途端に再び、あきの心臓が跳ね上がった。
「高山賞を受賞するとは、大したもんだな。あれはなかなか厳しい審査だ」
理想通りの低い声。
目も耳もやられてしまう。
ぼぉっと見惚れていると、真砂の眉間に、僅かに皺が寄った。
「……何だ?」
「あっ! いえ! あのっ、これからよろしくお願いします。次回作も、すでに大半が出来ていて……」
「ほぅ。結構なことだ」
無表情のまま言い、真砂は壁にかけてあるカレンダーに目をやる。
「では初めの締め切りは、今週末としようか」
「こ、今週?」
今日はすでに水曜日である。
半分が経過している。
「大半が出来ているんだろう?」
「で、ですが」
「俺は、あまりだらだらやるのは好きじゃない。長い時間かけたって、出来ない奴は出来ないからな。むしろ短期間で追い詰められたほうが、人は良いものが出てくるもんだ」
そう言って、内ポケットから出した手帳に、何やら書き付ける。
「土曜日の十時に、確認することにする。場所は……そうだな」
少し考える真砂に、あきはすかさず身を乗り出した。
「あのっ。あ、あたし、まだこの辺わかんないんです。家の近くもよく知らないし」
編集者というのは、作家の家まで来てくれるものではないのか。
自分のワンルームに、この真砂と二人っきりで籠もることを思うと、今から嬉しくて頬が緩む。
だが。
「知ったことかよ。この辺を知るにも丁度良い機会だ。このビルの南通りを少し下ったところに、小さい喫茶店がある。そこに十時だ」
素っ気なく言う。
そして名刺を取り出し、店の名前と時間を書き付けると、それをあきに押しつけた。
担当編集者:真砂 新人作家:あき
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
「彼女が期待の新人、あきさんだ。この若さで高山賞を受賞したほどの実力者だよ」
ラテ出版社の会議室で、新人作家としてデビューしたばかりのあきは、自分の担当となる編集者に引き合わされた。
「よ、よろしくお願いします!」
がばっと頭を下げる。
ラテ出版社一の凄腕と噂の編集者は、あきが想像していたよりも、随分若かった。
しかも。
---す、すっっごいイケメン……!!!---
一目見た瞬間、あきの心はその担当者で占められるほどの美形だ。
---これは何てツイてるのかしら! 担当者ってことは、お家に籠もってアドバイスとかしてくれるのよね。しかも何日間も二人っきりで……。そのうち恋が芽生えたって、おかしくないわ!---
頭を下げたまま、あきは今後のことを想像し、ばくばくと心臓を高鳴らせた。
「真砂君は、我が社一の編集者だ。彼に任せておけば、何も心配いらないよ。指導力も半端ないからね。じゃあ真砂君、後は頼んだよ」
編集長はそう言って、部屋を出ていった。
あきはしばらく閉まった扉を眺めていたが、やがてそろそろと、顔を戻した。
真砂は立ったまま、手に持った本に目を落としている。
高山賞を受賞した、あきの作品だ。
しばらくページをめくってから、真砂は、ぱん、と本を閉じた。
そして真っ直ぐあきを見る。
途端に再び、あきの心臓が跳ね上がった。
「高山賞を受賞するとは、大したもんだな。あれはなかなか厳しい審査だ」
理想通りの低い声。
目も耳もやられてしまう。
ぼぉっと見惚れていると、真砂の眉間に、僅かに皺が寄った。
「……何だ?」
「あっ! いえ! あのっ、これからよろしくお願いします。次回作も、すでに大半が出来ていて……」
「ほぅ。結構なことだ」
無表情のまま言い、真砂は壁にかけてあるカレンダーに目をやる。
「では初めの締め切りは、今週末としようか」
「こ、今週?」
今日はすでに水曜日である。
半分が経過している。
「大半が出来ているんだろう?」
「で、ですが」
「俺は、あまりだらだらやるのは好きじゃない。長い時間かけたって、出来ない奴は出来ないからな。むしろ短期間で追い詰められたほうが、人は良いものが出てくるもんだ」
そう言って、内ポケットから出した手帳に、何やら書き付ける。
「土曜日の十時に、確認することにする。場所は……そうだな」
少し考える真砂に、あきはすかさず身を乗り出した。
「あのっ。あ、あたし、まだこの辺わかんないんです。家の近くもよく知らないし」
編集者というのは、作家の家まで来てくれるものではないのか。
自分のワンルームに、この真砂と二人っきりで籠もることを思うと、今から嬉しくて頬が緩む。
だが。
「知ったことかよ。この辺を知るにも丁度良い機会だ。このビルの南通りを少し下ったところに、小さい喫茶店がある。そこに十時だ」
素っ気なく言う。
そして名刺を取り出し、店の名前と時間を書き付けると、それをあきに押しつけた。