小咄
---さて、どんな女子なんだか---

 上様自ら奥に推挙した、というからには、それなりに目を惹く女子なのだろうと、千代は鋭い目を小さな影に向けた。
 煙がもぅもぅと立ち込めているからだろうか、何だかやけに小さいような。

 どれ、もっと近くで見てやろう、と、千代は糠袋を持って湯殿の奥に進んだ。

「あっあのっ……」

 煙の中から現れたのは、いかにも幼い女子だった。
 少女の域を出ない。
 その少女は、怯えたような目で千代を見た。

「……あ、あんたが、清五郎様の娘って女か?」

 思いっきり眉間に皺を寄せて、千代は深成をじろじろと見た。
 身体付きも、まだ幼い。
 肌は白く綺麗だが、胸も全然小さいし、腰回りだって色気の欠片もない。

---こっこんな女が……。何でこんなガキがいいんだ! このガキの、どこが私に勝ってるって言うんだっ!!---

 いきなり千代の身体の奥から、怒りが沸き起こる。
 それなりの女子であったほうが、張り合い甲斐があるのだ。

 それに、一晩であっても、閨を取られるわけである。
 この美しい己から上様を奪うとなれば、それなりに納得出来る美女でないと、千代だってやり切れない。

「ちょいと! 本当に、あんた、清五郎様の娘なんだろうね? 替え玉か?」

 ぐい、と深成の腕を引っ張る。

「み、深成と申します。確かに清五郎様には、養子縁組をしていただきましたが」

 町娘が奥に仕えるときに、よく使う手だ。
 一旦身分ある者の養子になる。
 それは珍しいことではない。

「上様が、お前を見初めたって? 本当に上様にお会いしたんだろうね?」

「は、はい。確かにお会いしましたが……。でも一度だけで……」

 泣き出しそうな顔で、深成が言う。
 その言葉に、また千代は逆上した。

---一度だけ、だって? 一目であの上様が、こんなガキを見初めたってのか?---

 怒りに任せ、千代は糠袋を握りしめると、深成に向かって乱暴に湯をぶっかけた。

「う、上様に粗相があったら、手討ちにされるからね! 徹底的に磨いてくれる!!」

 がっしがっしと、深成の身体を糠袋で力任せに擦りあげる。
 お蔭で深成の白い肌は、あっという間に真っ赤になった。
< 183 / 497 >

この作品をシェア

pagetop