小咄
 その日の夕飯は、深成の手作りおでん。

「お前な、どんだけ食うんだよ」

 炬燵の上に、でんと置かれたどでかい土鍋に、真砂の目が胡乱になる。
 土鍋自体も、そう小さくないのに、中の具材で蓋が閉まらない。

 確かこれは昨日のうちから作っていたと言っていた。
 そのときはまだ、真砂が泊まる話は出ていなかったはずだ。

 が、この量はどう見ても一人分ではない。
 何なら二人分でも多いぐらいだ。

「いくら何でも、これは一食分じゃないよ。お正月に、おせちと一緒に食べる用に作ったんだもん。お正月ってさ、動きたくないじゃん」

 ぷん、と言いつつ、深成がコンロで温めた土鍋の蓋を取る。
 もわ、と湯気と共に、良い匂いが広がった。

「うん、良い匂い」

 くんかくんかと満足そうに匂いを嗅ぎ、深成はいそいそと器に具材を取り分けた。

「はい、どうぞ」

「……いただきます」

 深成から器を受け取り、真砂が箸を取った。
 具材は意外といい色だ。
 もっとも味のわかる大根を、真砂はぱくりと食べた。

「美味しい?」

 ずい、と深成が身を乗り出す。

「……美味い……」

 心底驚いたような表情で、真砂が言う。
 そこまで驚かなくても、と思わないでもないが、深成は諸手を挙げて喜んだ。

「えへ。わらわ、結構お料理上手なんだよ」

「そうだな。かなり意外だ」

 遠慮なく言いながらも、真砂の箸は進む。

 あ、と深成が、箸を置いてキッチンに走った。
 そして、ブランデーの瓶を持ってきた。

「そうだ。これ、飲んじゃってくれない?」

 とん、と真砂の前に置く。

「お菓子にでも使おうかと思ったんだけど、瓶開けただけで酔っちゃいそうでさ。どうしようか困ってたんだ」

 瓶といっても小さなものだ。
 200ccもないだろうが、アルコール度数は高い。

「おでんとブランデーかよ。合わないなぁ」

「お菓子はいっぱいあるから、大丈夫だよ」

 わらわが作ったクッキーもあるよ~と言いながら、わさわさと傍の籠からお菓子を出す。

「お前と付き合ってると、太りそうだな」

「大丈夫だよ~。わらわだって、そんなに太ってないでしょ」

「そういや意外にお前は細っこいな。あんなに菓子ばっかり食ってるくせに。胃袋もお子様なのかな」

「そういう体質なのっ。課長だって、多分ご飯とか不規則だろうに、お腹も出てないじゃん」

 言いつつ深成は、むに、と真砂のお腹を押す。
 お腹を触るなど、そうそう出来ることではないのだが。

「何その硬さ。贅肉どころか、お肉あるの? ちゃんと食べてる?」

「人を飢えてるみたいに言うな」

 深成の行動自体には特に突っ込まず、真砂はブランデーの瓶を見た。
 少し考える。

「飲んでもいいが……。さすがにこれを全部飲んだら、酔っ払わん保証はないぞ」
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