小咄
「へーっ! 課長も酔っ払うことあるんだねぇ。わぁ、それは貴重なものが見られるかも」

 楽しそうに、深成が言う。
 そして瓶のアルコール度数を眺める真砂に、グラスを差し出した。

「飲み方はどうする? 割ると言っても、水かお湯かサイダーしかないけど」

「ブランデーはストレートだろ」

「そうなんだ? え、そんなのそのまま飲んで大丈夫なの?」

 驚く深成に冷たい目を向け、真砂はグラスにブランデーを注いだ。
 琥珀色の液体から、香りが立つ。
 くん、と深成が鼻を動かした。

「ん~……。悪い匂いではないんだけど、きつそう~~。わらわ、これだけで頭がぽぅっとする」

「お前の頭がぼーっとしてるのは、いつものことだろ」

 ぎ、と睨む深成を無視し、真砂はくい、とグラスに口を付けた。

「課長は何しても絵になるよね」

 悔しいが、確かにそうなのだ。
 仕事をしていても食事をしていても、ただそこにいるだけで絵になる。
 意地悪を言うことすら絵になるのだ。

「でも今日は、そんな課長が壊れるかもしれないもんね」

 にやりと、深成は悪魔の笑みを浮かべる。
 多分この真砂のことだから、酔って暴れるということはないだろう。
 あんまり変わらない、というのが予想ではあるが、もしかしたら意外な一面が出るかもしれない。

---超甘えん坊になったりして! そうだ、いつも滅茶苦茶Sなんだから、真逆のドMになるかもしれない! うわっちょっと引くなぁ、それは---

 とりあえず夕飯の片付けをしながら、ぶつぶつ考える。

---いや、ドSに拍車がかかったらどうしよう。Mよりは引かないかもだけど、でも今でも大概なのに、あれ以上の意地悪って、最早悪魔じゃん---

 そうなっても、千代は喜びそうだ、と、深成の思考は関係のないところまで飛ぶ。

---そうか、千代はMなんだ。そうだよね、ドSな課長が好きなんだもんね。……いや、わらわも課長のことは好きだけど、別にMじゃないよ? おや? よく考えると、課長、ドSか? 意地悪っても、そんな嫌なことはしないよね。冷たいけど、う~む……---

 よくよく考えていくと、真砂はその冷たさが魅力のような。
 だが優しくないだけで、相手を痛めつけるわけではない。

 そんなことは、性格的にやらなそうだ。
 何と言っても、『面倒臭い』。

---そうだよね。課長はただ、面倒くさがりなだけだもん。逆に滅茶苦茶優しい課長なんて、魅力ないよ。たまに優しいけど、それだって世間的な優しさじゃないもんね。あくまで『課長にしては優しい』だけだし---

 何気に結構失礼なことを思っていると、片付ける前に入れていたお風呂が沸いたようだ。

「課長。お風呂入ったよ。酔っ払っちゃう前に、入っちゃって」

「……そうだな。いいのか?」

 かた、とグラスを置いて、真砂が振り向く。
 全く酔っている感じはない。
 まだご飯が終わってすぐだし、そうハイペースで飲む酒でもないのであまり飲んでいないが、弱い深成からすると、驚異的な強さだ。

「うん。バスタオルは出しておくね。上がってくるまでに、おつまみ用意しておくから」

「じゃあ先に借りるぞ」

 着替えを持って、真砂が風呂場に消える。
 深成はバスタオルを用意してから、部屋を軽く片付けた。

---さて、お布団はどうしようか。まだ敷かなくていいかな。まだ飲むしね---

 一組だけあるお客さん用の布団を出そうかと思ったが、それを敷くには炬燵をのけないといけない。
 まだ寝るわけではないので、炬燵がないのは寒い。
 寝る直前に出せばいいか、と、深成はおつまみを用意して、炬燵に入った。
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