小咄
「いっ……てててぇ」

 朝、真砂は思い切り顔をしかめて、目を開けた。
 薄目を開けて周りを見ながら、首の後ろを揉む。
 炬燵に入ったまま、妙な体勢で寝てしまったようだ。

 痛む首を押さえながら身体を起こすと、かけてあった毛布が膝に落ちた。
 後ろを振り向くと、ベッドで深成が寝ている。
 そういえば、こいつの家に泊まったんだったな、と思い出し、真砂は首を回した。

「あっつぅ……」

 固まった首筋は、首を回すたびに痺れるような痛みが走る。
 ついでに酒もまだ残っているようだ。

 ちゃんと寝られてもいないのだろう。
 身体がだるい。

 とりあえず固まった身体をほぐしていると、深成がごそりと動いた。

「あ、課長。大丈夫?」

 ベッドの上から見下ろしてくる。

「あんまり大丈夫じゃない。……結局あのまま寝ちまったのか」

 いててて、と言いながら首を回す真砂を、深成はじっと見た。
 昨日の真砂の行動は、どう捉えたらいいのだろう。

 酔っ払った、と自分では言っていたが、深成から見ると、そんな酔っていたようにも見えなかった。
 確かにいつもの真砂とは違ったが……。

「課長。ご飯食べる?」

 ごそごそとベッドから降りながら聞くと、真砂は少し考えて首を振った。

「あんまりすっきりしてないからいい。でも喉が渇いた。水くれ」

「そ、そっか。さすがにあの体勢だったら眠れないよね」

 ててて、とキッチンに走り、深成は水を真砂に渡した。
 それを一気に飲むと、真砂は、ふぅ、と息をつく。

「ね、わらわはおせち作るからさ、課長は寝てなよ。寝られてないでしょ? 身体の調子崩しちゃうよ」

「うん……」

 立てた膝に額をつけて項垂れていた真砂が、だるそうに言う。
 調子の悪い真砂を初めて見、ちょっと深成は新鮮に思った。

---何か、弱ってると一気に可愛くなるなぁ。『うん』だって。意外にくまさん毛布も似合いそうだけど---

 そういえば、座ったまま寝るんだったら、それこそ着る毛布を着せてしまえば良かった、とぶつぶつ思い、深成は、よいしょ、とベッドの上からうさぎをのけた。
 他にもわらわらいるが、とりあえず大きな子はこれだけだ。
< 219 / 497 >

この作品をシェア

pagetop