小咄
「課長。はい、わらわ起きるから、ベッド使って」

 ぽんぽん、と肩を叩くと、真砂はちらりと振り返った。

「お前のベッドを使っていいのか?」

「うん。だって机は必要だし。ちょっと小さいかもだけど」

「じゃ遠慮なく」

 ひょい、とベッドに上がって横になる真砂に、深成は毛布をかけた。
 そのまましばし、じ、と見る。

「……ねぇ課長」

 向こうを向いている真砂の背に、ぼそ、と声をかけてみる。

「昨日のあれ、どういうことなの?」

 しばらく沈黙が続いた後、真砂が目を閉じたまま、ぽつりと呟くように答えた。

「……何かしたっけ?」

 がく、と深成は膝を折った。
 ベッドの横に座り込み、ぼん、と布団を叩く。

「お、覚えてないのっ?」

「覚えてないことはないが……」

 相変わらず背を向けたまま言う真砂に、深成は微妙な顔になった。
 どういうことなのか、ますますわからない。
 真砂の記憶がどこまであるのかによって、こちらの心構えも変わってくるではないか。

「課長っ。わらわ、昨日課長に襲われそうになったんだからっ」

 覚えてないなら思い出させてやる、とばかりに、深成は直球で真砂に言った。
 が、真砂は変わらず背を向けたまま、うん、と呟く。

「そりゃ……お泊りって、そういうことだろ」

 何となく、言葉に力がない。
 すでに半分夢の中なのだ。
 だからこそ、素直なのかもしれないが。

「んでも前に課長、遊ぶための付き合いはしないって言ってたよね?」

「うん」

「前にわらわにキスしたのも、わらわだからなの?」

「うん、そう……」

「き、昨日課長、わらわのこと、好きって……」

 核心に近づき、どきどきしながら一番聞きたいことを聞こうとした深成だったが、ふと気付くと、真砂はすでに、本格的に寝入ってしまっていた。

「……」

 そのまま深成は、じぃ~~っと真砂の寝顔を凝視した。
 よっぽど眠かったのか、全然起きる気配はない。

 ここまでぐっすり寝られたら、先の質問の答えも怪しいものだ。
 ちゃんと答えていたときはともかく、最後のほうは、寝言と変わらないかもしれない。

「まぁいいや……」

 布団をかけなおすと、深成は、ててて、と洗面所に走った。
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