小咄
 真砂が目を覚ましたのは、お昼を少し過ぎてからだった。
 その頃にはおせちも出来、お昼はおせちの残りとお餅で済ます。
 結局片付けなどが全て終わり、一段落ついたのは、夕方になってからだった。

「課長。体力回復した?」

「ああ」

 すっかり回復した真砂は、すっかりいつもの通りだ。
 深成は炬燵の上に、一枚のチラシを出した。

「ね、折角だし、これ行かない?」

 チラシは町の中央部にある大きな公園でのカウントダウンイベントだ。
 公園といっても大きな池や観覧車もあり、ちょっとしたレジャー施設になっている。
 真砂は窓の外を見た。

「まだ雪降ってるじゃないか。外に出ないために、昨日のうちから一緒だったんじゃないのか」

「そうだけど。んでも初詣は行きたいじゃん。今日は大晦日だから、電車も終電ないでしょ。わらわ、こういうイベント行ったことないから見てみたいんだ~」

 うきうきと言う深成に、真砂はスマホで列車状況を調べた。

「う~ん、ダイヤはあってないようなもんだな。でも止まってるわけでもないし、行けないこともないか」

 昨日からの雪で乱れまくってはいるが、今日は各地でイベントがあるし、臨時運行もするだろう。

「確かに家にいても、やることもないしな」

 呟いて、真砂はチラシを手に取った。
 次いで時計に目をやる。

「イベント自体は一日中やってるみたいだな。でもカウントダウンまでとなると、まだまだ時間があるし……」

「わらわ、映画も見たい」

「アニメか?」

「何でよっ。これこれ。失恋した女の子が画家志望の男の子に出会ってね、惹かれるんだけど、何か男の子には拭いきれない影があってね。これ、この絵が鍵なんだよ」

 プレイガイドの映画の欄を指して、深成が言う。
 真砂はさらにスマホを操作して、しばらくしてから立ち上がった。

「行くぞ。映画は六時からだから、丁度いいだろ」

 言うなり、さっさと上着を着る。

「え、ちょっと待ってよ。でもその時間に入れるとは限らないでしょ?」

「もう予約した」

 上映時間を調べただけだと思っていたが、どうやらすでに予約までしたらしい。
 早! と思いつつ、深成は慌てて昨日のもこもこコートを羽織った。

「あ、課長。荷物持って帰っちゃわないでね。また家に帰ってくるんだから」

 持ってきた鞄に真砂が手をかける前に、深成が、ささっと鞄を取り上げた。

「何でだよ。そうなのか?」

「だって、おせち作ったもん。折角作ったんだから、明日一緒に食べようよ。課長のために、ちゃんとお神酒も買ったんだから」

「お神酒じゃなくて、お屠蘇だろ」

「お屠蘇は美味しくないから、お神酒なの」

 真砂のスポーツバッグを両手で抱えて、じりじりと後ずさる。
 無理やり鞄を取ろうとすると、シャアァッと牙を剥きそうだ。
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