小咄
「……わかったよ」

 真砂がそのまま背を向けると、ぱ、と深成の顔が輝いた。
 鞄を下ろし、マフラーと帽子を掴む。

「待ってよ。いろいろ持っていく用意があるんだから~」

「何が必要なんだ。財布があればいいだろ。あ、お前は財布よりも、迷子用に携帯を忘れるなよ」

「わらわは女の子なんだからねーっ」

 女子は荷物が多いものだ。
 が、自分で言ってみたものの、よく考えれば確かに財布と携帯があればいい。
 深成はその二つを小さいバッグに入れると、急いで真砂の後を追った。

 外に出ると、雪がちらちら降っている。
 だが昨日ほどではない。
 ただ積もっている量は昨日よりも多いが。

「埋まるなよ」

「そんなに積もってない!」

 ぷんぷんと言いながら歩くものの、埋まりはしないが歩きにくい。
 よろよろしながら歩いていると、少し前を歩いていた真砂が、ちょい、と顎で自分の腕を示した。

「掴まれ」

 一瞬きょとんとした深成だが、すぐに、にぱっと笑って真砂の腕に飛びついた。

「えへへ。やっぱり頼れる人に引っ付いていたほうが安心だね」

「気を抜きすぎて転ぶなよ。俺まで巻き添えだ」

「課長が踏ん張ってよ」

「ちょっとは自分で努力しろ」

 相変わらずくだらない会話をしながら、二人は電車に乗ってカウントダウン会場である公園に向かった。



 六時からの映画を見、少し遅い夕食を食べると、すでに十時過ぎ。
 幸い公園内はいろんな店もあり、時間は十分に潰せる。
 イベントのために出ている屋台などを巡りながら、深成は子供のようにはしゃいだ。

「ああっ、良い匂いがすると思ったら、イカ焼きがある! わ、リンゴ飴だぁ。リンゴ飴ってさ、重いんだよね~。手がだるくなる」

「あんなもん食えるかよ。何でリンゴにわざわざ飴を塗りたくるんだ」

「え~? 食べたことないの? 結構美味しいんだよ? みかん飴とか、ぶどう飴とかもあってね」

「だから、何でそのまま食ったほうが美味いものに、余計なことをする必要があるんだ」

「もぅ課長。課長のそういうところ、さっきの映画の男の子みたい。無愛想でさ」

「無愛想なところだけだろ」

「あれ、自覚あるんだ?」

「愛想の良いほうだとは思ってない。お前に対しては、さして悪くも振る舞ってないつもりだがな」

 さらりと、少し気になることを言う。
 深成は、ちらりと真砂を見上げた。

「そろそろメイン会場のほうへ行くか」

 深成が何か言う前に、真砂はそう言って、足を速めた。
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