小咄
---でも何だかんだで、千代姐さんも清五郎課長と、まんざらでもないんじゃない? 結構めかしこんでるし、今日のお洒落は清五郎課長のためでしょ?---

 にやにやと二人を見ているあきは、すでに捨吉のことなど頭にない。
 が、捨吉のほうは握られたままの手を、どうしたもんかと一人汗を流していた。

「あ、あきちゃん」

「え? あ」

 捨吉に呼ばれ、ようやくあきは、捨吉の手を握っていたことに気付いた。
 ぱ、と離す。

「ごめんごめん。ちょっと急いじゃった。凄い人だし、はぐれそうね」

 あはは、と言い訳するが、照れ隠しにも見える。
 捨吉は、今度は自分からあきの手を取った。

「そうだね。はぐれたら駄目だから」

 そう言って、きゅ、と手を繋ぐ。
 さすがにあきも、ちょっと赤くなった。

 だが。
 いいムードになりかけたところに、あきのレーダーが反応する。
 がばっと顔を上げると、先程とは反対側に視線をやった。

---ええええっ!!---

 もうカウントダウンが始まる。
 故に、周りは人も凄い。

 ステージの上からは、司会者が『三十秒前~~!!』と叫んで、盛り上がりも最高潮だ。
 物凄い喧噪の中で、あきは目を見開いた。

---真砂課長……!---

 清五郎らと反対側に、真砂の姿を見つけたのだ。
 しかも。

---真砂課長が、女といる!---

 横にちらっと、小さな影が寄り添っているのが見えた。
 あきは鼻息荒く、そちらに移動する。

---これはスクープだわ! 真砂課長のお相手は……---

 わくわくと、あきは真砂の横を確かめようとした。
 人の多さもさることながら、ざわめきも半端ない。
 皆ステージのほうに神経が向いているので、多少妙な動きをしていても気付かれないのだが。

 何故か真砂の横が、なかなか見えない。
 それに、いくら皆違う方向を向いているとはいえ、あまりに違う方向ばかり見ていては、捨吉に気付かれる。

---あたしだって、一応デート中なんだし---

 やっと自分の立場を思い出す。
 と同時に、握られた手が熱くなる。
 ちろ、と捨吉を見ると、案の定怪訝な表情の彼と目が合った。

「あ……。す、すっごい人ねぇ。これじゃ、花火見えるかしら」

 折角誘ってくれた捨吉に、不快な思いはさせたくない。
 いくら他に気になることがあっても、そこはちゃんとわきまえているあきなのだった。

「そ、そうだね。あきちゃん、意外と小さいんだね。こっちにおいでよ」

 先までのあきの妙な行動は、花火をより良く見るための場所選びだったのかと理解し、捨吉は、ほ、と息をついた。
 そして、自分と場所を換わる。

「何か、こっちのほうが、少し坂になってるみたい。もうちょっとあっちに行ければいいんだけど」

「あ、でも。こっちに来ただけで、さっきよりも見えるわ」

 にこ、と笑いかける。
 捨吉が、照れたように笑った。
 そしてステージに目をやる。

 あきも視線をステージに向け、だがすぐに、ちら、と元の位置を見てみた。

---あ! 丁度見えるわ! 捨吉くん、感謝!!---

 やはりあきの中では、花火よりも真砂の相手のほうが大事だ。
 再度わくわくと、捨吉にバレないように、真砂を窺った。
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