小咄
---あれは……誰?---

 あきの目が胡乱になる。
 真砂の横にいるのは、もこもこのコートに帽子を被っているようで、何だかぬいぐるみのようだ。

---人間……よね。女の子……? 何か、やけに小さい。子供?---

 親戚の子供とかだろうか、と思っていると、いきなり会場が明るくなった。

『はっぴぃにゅ~いや~~!!』

 司会者の声と共に、花火が打ち上がる。
 わあぁぁ、と歓声が上がった。
 そのとき、真砂の横のぬいぐるみが、諸手を挙げてジャンプした。

---あっ!!---

 手を挙げた瞬間に、ぬいぐるみの帽子が取れたのだ。

---深成ちゃん!!---

 真砂の横で、深成は嬉しそうにぴょこんぴょこんと飛んでいる。
 もっとも小さいので、飛び上がったところで目立たないが。
 真砂は深成の帽子が地に落ちる前に取り、そのまま、ぼす、と深成の頭に乗せる。

---何あの態度。真砂課長と深成ちゃんて、そういう関係だったの? えっ意外!---

 目を見開いて凝視するあきの視線の先で、真砂と深成は何か言葉を交わした。
 そして、くるりと背を向ける真砂を、深成が追う。

 初めは何か文句を言っていたような深成だったが、すぐに真砂に追いつくと、横に並んで歩き出す。
 再び何か言葉を交わし、深成が真砂の腕にくっついた。

「!!!」

 あきは息を呑んだ。

「あきちゃん、どうしたの?」

 あまりに驚いたので、息を呑んだだけでも音が出てしまったらしい。
 捨吉が、あきを覗き込んだ。

「う、ううん……」

 あまりの衝撃に、心臓がばくばく言っている。
 あきは胸を押さえて深呼吸した。

「ど、どうしたの。気分でも悪い?」

「う、うん。ちょっと……。人に酔っちゃったみたい」

「え、大丈夫? ちょっと休む? 送ろうか?」

 捨吉が、人混みからあきを助け出しながら言う。
 普通のカップルはこれからも、一緒に過ごすのだろうが、このままでは一日中上の空だ。
 それではあまりに捨吉に申し訳ない。

「ごめんね」

 あきも、何事もなければ普通に捨吉とのデートを楽しんだはずだ。
 捨吉に誘われたときは、素直に嬉しかったのだから。
 しょぼん、と言うあきに、捨吉は笑った。

「いいよ。無理しても、楽しくないだろ? カウントダウンは見れたんだし」

 行こう、と再び捨吉が、あきの手を取る。
 二人で歩きながら、あきはちらりと捨吉を見た。

---捨吉くんは優しいな。結局ゆいちゃんとはどうだったんだろう。ゆいちゃんは、本気で捨吉くんのことが好きなのかな---

 酔っ払ったときには、あきにも絡むが、素面のときは、捨吉はあまりあきには絡まない。
 ちらりと、あきは振り返った。
 真砂と清五郎を探すが、もう見えない。

---そう考えると、誰もはっきりと気持ちのわかる人もいないかもね---

 自分の気持ちも、よくわからない。
 でも、と、あきは繋いだ手を、きゅ、と握った。

「今日は無理だけど、三が日のうちに、一緒に初詣に行かない?」

 気持ちが浮ついて、捨吉との時間を楽しめないのを残念に思うのは事実だ。
 どうでもいいわけではないのだから、大事にしなければ。

 あきが言うと、捨吉は、ちょっと驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうに笑った。

「うん! じゃ、今日の夜、電話するよ」

 捨吉の嬉しそうな顔を見ていると、うっかりあきの妄想も解けて行くのであった。
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