小咄
「ね~む~い~……」

 午前一時半。
 深成はふらふらと、雪の積もった道を、真砂に掴まりながら、よろよろと歩いていた。

 このまま初詣に行く予定だったのだが、電車の中で深成が爆睡してしまった。
 駅に着いても半分夢の中で、とてもこのまま出歩くなど無理だと判断した真砂が、深成を連れて帰路についたわけだ。

「ほれ、とっとと歩け。あんだけ電車で爆睡したんだから、ちょっとは目を覚ませよ」

「そんなに寝てないもん~。ていうか、変に寝ちゃったから、余計眠い~」

「ったく、肩凝りそうだぜ」

 電車の中でも真砂の肩を枕にぐーすか眠り、今もほとんど真砂の腕にぶら下がっている。
 お蔭で肩がだるい。

「課長~。おんぶ~」

「馬鹿。お前、俺が負ぶったら見事に熟睡するだろうが。この前は距離も短かったし、道も普通だったから良かったが、今は雪道なんだから、転ぶかもだぞ。家まで頑張れ」

「うう、わかった~。急ぐ~」

 言うなり深成は、真砂の手を離して、だっと駆け出した。

「あっおい!」

 真砂が追おうとした途端、思った通り、すてーんと転ぶ。

「……痛い~」

 雪まみれでへたり込む深成に駆け寄り、真砂は後ろから深成を助け起こした。

「言わんこっちゃない。だから掴まっておけと言ってるだろ」

「うう。何で課長は転ばないのさ」

 ぶつぶつ言いながら、深成が再度真砂の腕に掴まる。

「お風呂入りたいけど、きっとこれじゃ、お風呂の中で寝ちゃうパターンだね」

「危険だな。危ないから、一緒に入ってやろうか?」

「う~ん、そうして貰うと安心……て、何言わすの。さすがにその状況では、目も覚めるよ」

「丁度いいじゃないか。まぁその前に、風呂が沸くまで待てないだろうがな」

「そうなんだよね。絶対無理」

 何気に凄いことを言われたが、話の流れでさっさと忘れてしまう。
 相変わらず足元に気を付けているうちに、マンションに着いた。

「あ~寒いっ! でもいっぱい着ておいて良かった。こけたけど、中は全然大丈夫だもん。怪我もしてないし」

 コートと帽子を取り、深成はいそいそと炬燵に入る。

「課長。お風呂入りたかったら、入っちゃってもいいよ」

「一度に入ったほうが経済的だろ。朝でいい」

 真砂が炬燵に入る頃には、すでに深成は半目状態だ。
 早、と思っていると、ずるずると炬燵に沈みながら、深成が真砂にもたれてきた。

「おい」

「ん~、課長、もうちょっと沈んでよ。ちょっと高いよぅ」

 ぐいぐいと、真砂を倒す。

「冷えちゃってるから、今日はおこたで寝る。課長も、ほら」

 ぐいぐいと引っ張られ、真砂も炬燵に沈む。
 ほとんど横になったところで、深成が、はい、とクッションを渡した。
 そして自分は、ぽてんと真砂の胸に頭を乗せる。

「……」

 真砂はクッションを受け取ったまま、しばし様子を見た。
 ほとんど真砂の上に乗った状態で、深成は寝に入っている。

 少しの間、じぃ、と深成を見下ろしていた真砂が、ふ、と息をついた。
 そして頭の下に、クッションを入れる。

「やれやれ」

 昨夜と逆だな、と思いつつ、真砂は胸の上で寝息を立てる深成の髪を、そっと撫でた。



*****ちょっと深成Side*****
 課長が、わらわの頭を撫でた。
 前にも頭を撫でられたことはあるけど、いつもは髪の毛をくしゃくしゃするっぽく手荒なのに、今日は優しい。

 課長の鼓動が聞こえる。
 体温も感じる。

 課長のおっきい手が、わらわの頭に置かれてると、何だろう、胸が、きゅっとなる。
 ずっと、こうしてたいな……。
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