小咄
「ははっ! すぐに!」
慌ててさがっていく。
「あの……。何故この子のことで、喧嘩が?」
深成からすると、大奥の女中は皆いじめっ子だった。
唯一普通に接してくれるのはあきだけで、だからうさぎを隠した犯人など、容疑者が多すぎて見当もつかない。
深成を苛めることで結託はしても、何故喧嘩が起こるのだろう。
「どうやら、ゆいが隠していたそれを、小姓に命じて捨てようとしていたようだ。それを、千代が見つけたらしい。千代がゆいの小姓を叱りつけて取り上げたことで、ゆいが怒ったようだな」
どうも軽い喧嘩ではなく、取っ組み合いの大喧嘩だったらしい。
かなり大事(おおごと)になったので、真砂の耳にも入ったのだろう。
その喧嘩の元となったうさぎのぬいぐるみが深成のものだったことで、真砂が直々に二人を呼んで詰問したのだ。
ゆいは小姓が勝手にやったことだと認めなかったが、どちらにしろ自分の管理不行き届きだ。
それなりの罰は受けるだろう。
それでなくても、この恐ろしい真砂の怒りを買ったわけだ。
それだけで十分、肝は冷える。
「千代は、そういう嫌がらせはしないからな」
千代は嫌がらせよりは、直接相手に言うタイプだ。
怒りはそのままぶつけるため、一回目のような、明らかな仕打ちをする。
そしてそれによって、真砂にこっぴどく怒られたので、懲りているのだ。
積極的に仲良くはしてくれないが、陰湿な苛めを無視するようなこともしない。
気付けば助けてくれる。
ただやるほうも巧妙だし、千代も別に進んで手を差し伸べてくれるわけではないので、味方というわけでもないのだが。
「辛いか?」
真砂が、深成を覗き込むように言う。
深成はまた、きゅ、と唇を噛んだ。
だが我慢出来ず、涙があふれてしまう。
真砂は深成の髪を、優しく撫でた。
「帰してやろうにも、手を付けてしまったからな。今回の里下がりも、慣例を破っている。それに、今更お前を帰す気は、俺にはないし……」
大奥に迎えずに、ここで会ったときに、そのまま手を付けてしまえば良かったか。
その後もその状態で、野駆けのたびに通うという手も、あるにはあった。
が、そうすると、会いたいときに会えないのだ。
曲がりなりにも、真砂は将軍である。
野駆けだって、そうそう毎日行ってられない。
ここだって近いわけではないのだ。
それに何より、ここに置いたままでは、他の男の手が付くかもしれないではないか。
「あきに警護を頼んでいるが。やはり一番いいのは、一刻も早く子を生すことだ」
言いつつ、真砂は少し深成に顔を寄せた。
唇と唇が触れそうになったとき。
「お待たせいたしました」
捨吉が、膳を持って入って来、だが二人を目にした瞬間、動きを止めた。
「……すっすみません!!」
「……構わん。落とさないうちに持って来い」
若干眉間に皺を刻んだ真砂が振り向き、捨吉を呼ぶ。
折角作った膳を落とされたら、また作り直しだ。
捨吉は赤い顔のまま、そろそろと部屋に入り、深成の前に膳を置いた。
すぐ後に、清五郎が真砂に茶を運んでくる。
慌ててさがっていく。
「あの……。何故この子のことで、喧嘩が?」
深成からすると、大奥の女中は皆いじめっ子だった。
唯一普通に接してくれるのはあきだけで、だからうさぎを隠した犯人など、容疑者が多すぎて見当もつかない。
深成を苛めることで結託はしても、何故喧嘩が起こるのだろう。
「どうやら、ゆいが隠していたそれを、小姓に命じて捨てようとしていたようだ。それを、千代が見つけたらしい。千代がゆいの小姓を叱りつけて取り上げたことで、ゆいが怒ったようだな」
どうも軽い喧嘩ではなく、取っ組み合いの大喧嘩だったらしい。
かなり大事(おおごと)になったので、真砂の耳にも入ったのだろう。
その喧嘩の元となったうさぎのぬいぐるみが深成のものだったことで、真砂が直々に二人を呼んで詰問したのだ。
ゆいは小姓が勝手にやったことだと認めなかったが、どちらにしろ自分の管理不行き届きだ。
それなりの罰は受けるだろう。
それでなくても、この恐ろしい真砂の怒りを買ったわけだ。
それだけで十分、肝は冷える。
「千代は、そういう嫌がらせはしないからな」
千代は嫌がらせよりは、直接相手に言うタイプだ。
怒りはそのままぶつけるため、一回目のような、明らかな仕打ちをする。
そしてそれによって、真砂にこっぴどく怒られたので、懲りているのだ。
積極的に仲良くはしてくれないが、陰湿な苛めを無視するようなこともしない。
気付けば助けてくれる。
ただやるほうも巧妙だし、千代も別に進んで手を差し伸べてくれるわけではないので、味方というわけでもないのだが。
「辛いか?」
真砂が、深成を覗き込むように言う。
深成はまた、きゅ、と唇を噛んだ。
だが我慢出来ず、涙があふれてしまう。
真砂は深成の髪を、優しく撫でた。
「帰してやろうにも、手を付けてしまったからな。今回の里下がりも、慣例を破っている。それに、今更お前を帰す気は、俺にはないし……」
大奥に迎えずに、ここで会ったときに、そのまま手を付けてしまえば良かったか。
その後もその状態で、野駆けのたびに通うという手も、あるにはあった。
が、そうすると、会いたいときに会えないのだ。
曲がりなりにも、真砂は将軍である。
野駆けだって、そうそう毎日行ってられない。
ここだって近いわけではないのだ。
それに何より、ここに置いたままでは、他の男の手が付くかもしれないではないか。
「あきに警護を頼んでいるが。やはり一番いいのは、一刻も早く子を生すことだ」
言いつつ、真砂は少し深成に顔を寄せた。
唇と唇が触れそうになったとき。
「お待たせいたしました」
捨吉が、膳を持って入って来、だが二人を目にした瞬間、動きを止めた。
「……すっすみません!!」
「……構わん。落とさないうちに持って来い」
若干眉間に皺を刻んだ真砂が振り向き、捨吉を呼ぶ。
折角作った膳を落とされたら、また作り直しだ。
捨吉は赤い顔のまま、そろそろと部屋に入り、深成の前に膳を置いた。
すぐ後に、清五郎が真砂に茶を運んでくる。