小咄
 一度気になりだすと、どんどん心配になる。
 そわそわしている深成の思考を読んだように、いきなりあきが、ぐっと声を潜めた。

「お見舞いに行けば?」

「んなっ!」

 いきなりなことに動揺し、指が変なところを押す。
 打っていた資料が、一瞬で消えた。

「ああっ!! ……も、もぅ。あきちゃん、変なこと言わないで」

 傍目にも明らかなほど狼狽えつつ、深成は資料を打ち直す。
 さりげなく周りの目から深成を隠しながら、あきは何でもないことのように続けた。

「あら、どこが変なこと? あたし、昨日捨吉くんのお見舞いに行ったわよ?」

 しれっと言う。
 え、と深成は、コピー機のところにいる捨吉に目をやった。

 そういえば、捨吉も昨日、休んでいた。
 もっとも一日で復活したので、インフルではなくただの風邪だったようだが、今もマスクをしている。

「そうなの?」

「うん。捨吉くんも一人だしね。ま、課長は捨吉くんと違って、一人でも何ら心配することはないと思うけど」

 言うだけ言って、あきは仕事に戻った。
 深成はしばし、あきを見ていたが、やがてPCに向き直る。

 かちゃかちゃとキーボードを打ち、仕事を進めるも、頭はあきに言われた『お見舞い』が渦巻いている。
 ぼんやりとPCに向かう深成を、あきはほくそ笑みながら横目で窺った。

---うふふ。あの年末の状況から、深成ちゃんが真砂課長と並々ならぬ関係だってことはわかったけど。でも二人とも、会社では全然そんな素振りないし。もうちょっとわかりやすくいちゃついてくれないと、あたしともあろう者が、うっかり二人の関係忘れちゃうわ。ま、会社であんまりいちゃいちゃされたら、千代姐さんが恐ろしいけど---

 それ以前に、社会人としてどうか、というところになる。
 元々真砂はそういったプライベートを見せない性質だ。
 他の女子から言わせると、そこがまたミステリアスということなのだが。

---とりあえず発破はかけたから、あとは深成ちゃん次第……。ふふふ、付き合ってるんだったら、家も知ってるだろうし。あたしでも捨吉くんのお見舞いに行ったって知れば、ちょっとは考えるでしょ---

 そんな邪(よこしま)な目を向けるあきの視線の先で、深成は一通り書類を印刷すると、それをまとめて二課のほうへと走って行った。
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