小咄
それからとりあえず、鍋に多めにお粥を作った。
別の鍋に味噌汁を作り、新たにジャーに、明日の夜の分の米を洗ってセットする。
「さて。これで明日、おかずを作ればいいか」
最後にキッチンを片付け、深成は荷物をまとめた。
明日はエプロンを持って来よう、と思いつつ、必要なものをチェックする。
---お野菜は今日の残りもあるし、元々あったものと合わせて十分あるね。明日のおかずは何にしようかな---
一通り冷蔵庫の中を見、深成は荷物を持って、玄関に向かった。
廊下に鞄を置き、寝室のドアをノックする。
「課長。じゃあわらわ、帰るから」
そろ、とドアを開け、中を覗くと、真砂が少しだけ頭を起こして、ああ、と答えた。
「ちゃんと寝ておいてね。ご飯はお粥とお味噌汁、作っておいたから。適当に、温めて食べておいて。お夕飯は明日また来るね」
「別に無理しないでいいぞ」
「無理じゃないよ。課長こそ、ゆっくり寝てなよ」
とことことベッドの横に行って、深成は真砂を見下ろした。
ちょっと楽になったら、すぐ起き出しそうだ。
「インフルなんだから、週末までちゃんと寝てなさい!」
何となく真砂を見下ろしている、という立場に嬉しくなり、深成はここぞとばかりにくどくどと言い聞かせる。
真砂が少しだけ、渋い顔をした。
「言われんでも、ちゃんと寝てるだろ」
「んでも熱が下がったら、すぐ起きそうだもん。駄目だよ、ちゃんと寝てないと」
「お前こそ、さっさと帰らないと、あんまり遅くなったら危ないぞ」
あれれ、心配してくれるの、とまた嬉しくなり、深成はこくりと頷くと、素直に従う。
部屋を出ようとすると、不意に真砂が声をかけた。
「靴箱の横の棚に、鍵があるだろ。あれ、持って帰れ。そうすりゃ別にインターホン鳴らさんでも入って来られるだろう」
「え、いいの?」
「ああ。いちいち呼び出すのも面倒だろ。別に知らせなくてもいいから、勝手に入ってこい」
「わかった。じゃあ借りていくね。ありがとう。おやすみなさい。また明日」
寝室を出ていく深成に、真砂は布団の中から、軽く手を振った。
「んと、これだね」
言われた棚から、鍵を取り出す。
それを持って家を出、外から施錠した。
エレベーターホールに向かいながら、しげしげと鍵を見る。
---課長、鍵なんて大事なもの、わらわに渡していいのかな---
まるで恋人同士だなぁ、と思いながら、鍵を大事に鞄にしまった。
そういえば、よく考えてみれば、十分真砂には告白めいたことを言われている。
年始には、プロポーズとも取れることまで言われているのだ。
---んでもっ! だからと言って課長、そのあと何にも言わないんだもん! 別にわらわの返事を要求するわけでもないしさっ---
しかし、そうは言っても、だったら答えを寄越せと言われたらどうだろう。
---う、う~ん。答えって? ていうか、何て言われるかによるよね? う~ん、あの課長のことだから……『お前は俺をどう思ってるんだ』とか? あ、そういやこれ、言われたな。わらわが答える前に、流れたけど---
エレベーターに乗り、玄関に向かう間も、そんなことを考える。
---でもまたそんな風に聞かれたら……。ど、どうしよう。考えたら、どう思ってるかって聞かれるのが一番難しいかも! 好いてるか? って聞かれたら好いてるけど。どうって? どう思ってるって、どう答えるのが正しいのっ?---
ぐるぐると慣れないことを考えていると、不意に眩暈を覚えた。
これ以上考えるのは身体に毒だ。
---とにかく、課長はわらわを気に入ってくれてる、と。んでわらわも課長のことは好きだから、課長が倒れたら看病だってするの。うん、それでいいじゃん---
今現在わかっていることで結論を出し、深成は納得すると、とっぷりと暮れた家路を急いだ。
別の鍋に味噌汁を作り、新たにジャーに、明日の夜の分の米を洗ってセットする。
「さて。これで明日、おかずを作ればいいか」
最後にキッチンを片付け、深成は荷物をまとめた。
明日はエプロンを持って来よう、と思いつつ、必要なものをチェックする。
---お野菜は今日の残りもあるし、元々あったものと合わせて十分あるね。明日のおかずは何にしようかな---
一通り冷蔵庫の中を見、深成は荷物を持って、玄関に向かった。
廊下に鞄を置き、寝室のドアをノックする。
「課長。じゃあわらわ、帰るから」
そろ、とドアを開け、中を覗くと、真砂が少しだけ頭を起こして、ああ、と答えた。
「ちゃんと寝ておいてね。ご飯はお粥とお味噌汁、作っておいたから。適当に、温めて食べておいて。お夕飯は明日また来るね」
「別に無理しないでいいぞ」
「無理じゃないよ。課長こそ、ゆっくり寝てなよ」
とことことベッドの横に行って、深成は真砂を見下ろした。
ちょっと楽になったら、すぐ起き出しそうだ。
「インフルなんだから、週末までちゃんと寝てなさい!」
何となく真砂を見下ろしている、という立場に嬉しくなり、深成はここぞとばかりにくどくどと言い聞かせる。
真砂が少しだけ、渋い顔をした。
「言われんでも、ちゃんと寝てるだろ」
「んでも熱が下がったら、すぐ起きそうだもん。駄目だよ、ちゃんと寝てないと」
「お前こそ、さっさと帰らないと、あんまり遅くなったら危ないぞ」
あれれ、心配してくれるの、とまた嬉しくなり、深成はこくりと頷くと、素直に従う。
部屋を出ようとすると、不意に真砂が声をかけた。
「靴箱の横の棚に、鍵があるだろ。あれ、持って帰れ。そうすりゃ別にインターホン鳴らさんでも入って来られるだろう」
「え、いいの?」
「ああ。いちいち呼び出すのも面倒だろ。別に知らせなくてもいいから、勝手に入ってこい」
「わかった。じゃあ借りていくね。ありがとう。おやすみなさい。また明日」
寝室を出ていく深成に、真砂は布団の中から、軽く手を振った。
「んと、これだね」
言われた棚から、鍵を取り出す。
それを持って家を出、外から施錠した。
エレベーターホールに向かいながら、しげしげと鍵を見る。
---課長、鍵なんて大事なもの、わらわに渡していいのかな---
まるで恋人同士だなぁ、と思いながら、鍵を大事に鞄にしまった。
そういえば、よく考えてみれば、十分真砂には告白めいたことを言われている。
年始には、プロポーズとも取れることまで言われているのだ。
---んでもっ! だからと言って課長、そのあと何にも言わないんだもん! 別にわらわの返事を要求するわけでもないしさっ---
しかし、そうは言っても、だったら答えを寄越せと言われたらどうだろう。
---う、う~ん。答えって? ていうか、何て言われるかによるよね? う~ん、あの課長のことだから……『お前は俺をどう思ってるんだ』とか? あ、そういやこれ、言われたな。わらわが答える前に、流れたけど---
エレベーターに乗り、玄関に向かう間も、そんなことを考える。
---でもまたそんな風に聞かれたら……。ど、どうしよう。考えたら、どう思ってるかって聞かれるのが一番難しいかも! 好いてるか? って聞かれたら好いてるけど。どうって? どう思ってるって、どう答えるのが正しいのっ?---
ぐるぐると慣れないことを考えていると、不意に眩暈を覚えた。
これ以上考えるのは身体に毒だ。
---とにかく、課長はわらわを気に入ってくれてる、と。んでわらわも課長のことは好きだから、課長が倒れたら看病だってするの。うん、それでいいじゃん---
今現在わかっていることで結論を出し、深成は納得すると、とっぷりと暮れた家路を急いだ。