小咄
 次の日のお昼、深成はコンビニで買ったサンドイッチを頬張った。

「あれ深成ちゃん、珍しいね。お弁当じゃないんだ?」

 一緒にご飯を食べているあきが、深成の手元を見て言う。

「あ、うん。昨日は作れなくてさ」

 深成はいつもお弁当だが、昨日は真砂のところで夕飯を食べたので残り物がなかったのだ。
 今日の夕飯は何にしようかな、と考えつつもしゃもしゃとサンドイッチを食べていると、前のあきが、じ、と深成を見た。

「ね、課長、どうだった?」

 ぐ、と深成がサンドイッチを喉に詰まらす。
 目を白黒させて、どんどんと胸を叩く深成にペットボトルを差し出しながら、あきは目を細めた。

「な、何? ど、どうだったも何も、課長、休んでるじゃん」

 昨日深成が真砂の家に行ったことは、特に誰にも言っていない。
 あきとも一緒に帰ったわけではないので、知らないはずだ。
 だがいかにも深成が真砂のお見舞いに行ったかのようなあきの物言いに狼狽えつつも、深成はすっとぼけた。

「……深成ちゃん、お見舞いに行ってないの?」

 意外そうに、あきの目が見開かれる。
 えええ? とますます慌て、深成は怪しく視線を彷徨わせた。

「なな、何言ってるの。な、何でわらわが……」

「だって深成ちゃん、課長と仲良しじゃない。あたしはてっきり、昨日深成ちゃんは課長のお見舞いに行ってると思ってたけど」

「あ、あきちゃんっ」

 わたわたと慌てる深成を眺めつつ、あきの目尻はぐぐっと下がる。

「ま、そうだとしても、大っぴらには言えないわよね。派遣と上司だものね。うん、でも大丈夫よ。相手はあの真砂課長だもの。少なくとも会社内では、そんな態度出さないだろうからバレないわ」

 ぽんぽんと深成の肩を叩き、こくこくと頷く。
 わざと一人で暴走しているように見せて、かなり的を射た意見だ。

 年末の真砂と深成のデートを目撃しているあきは、二人の関係に気付いている。
 あきのレーダーは優秀なのだ。
 そこに好意のない情報はキャッチしない。

「確かに社内にバレたら、仕事やりにくくなるかもだし、うん、内緒にしとくに越したことはないわ。大丈夫、誰にも言わないから」

 だって、あたしだけの楽しみだもの、という言葉は心の中で留めておく。
 相変わらずおろおろと狼狽える深成ににこりと笑いかけ、あきは食事に戻った。
< 246 / 497 >

この作品をシェア

pagetop