小咄
「はい。シャワーを浴びようと思うぐらいだったら、大分元気になってきたってことだよね。お腹も空いたでしょ? 昨日からお粥ばっかだし」

 茶碗にご飯をよそいながら、深成が言う。
 今日は昨日よりちゃんとしたご飯だ。

「今日はお魚。お刺身にしようかな、と思ったんだけど、生ものはどうだろうと思って、煮付けにしました」

 テーブルの上には、サラダに魚の煮付け、ジャガイモの煮っ転がし。

「和風だな」

「わらわ、和食が好きなんだよね」

 はい、と茶碗を真砂に渡し、深成も席に着く。

「そろそろ揚げ物とかも食べたい? 明日は何にしよう?」

「元々揚げ物は好きじゃない。別に嫌いでもないけどな」

「歳だね~」

「元々だ」

 もぐもぐとご飯を食べながら、深成はぐるりと家の中を見渡した。

「週末には、お掃除してあげるね。お洗濯もあるだろうし。今日はお風呂洗って帰るから、明日はちゃんと温もらないと駄目だよ」

「もう大丈夫だよ。お前は何ともないのか?」

「わらわは大丈夫! 課長も、治ったからって油断しちゃ駄目だよ。歳なんだから」

「確かにお前よりは、大分大人だけどな」

 ちろりと深成は真砂を見た。
 確か真砂は、深成よりも九つ年上だった。

「課長って、見かけは若いけど、考え方は古いよね」

「そうか?」

「考え方ってか、喋り方。じじくさい」

「悪かったな」

「でも似合ってるけど」

「……褒められてるのかね」

 くだらない会話をしているうちに、食事が終わった。
 深成が食器を下げていると、真砂が薬を飲んでリビングに行った。

「こらっ。何座ってるの。ご飯食べたら寝ないと駄目だよっ」

 ててて、と真砂に駆け寄り、深成が言う。

「もう大丈夫だって。そんなに寝てられるかよ」

「もーっ! だから言ったじゃんっ! 熱が下がったら、すぐに起き出しちゃうんだから。だから課長は心配なんだよ。わらわ、泊まり込んじゃうよっ」

 ぐいぐいと真砂を引っ張りながら、きゃんきゃん言う。

「凄いこと言うな。つか、泊まり込んだらそれこそ伝染るだろうが」

「そうだよ。だから我慢してんの。ほんとだったら、ずっと泊まり込んで見張っておきたいところなんだからねっ」

 くどくどと言い、ぐいぐいと引っ張る深成に負け、真砂は立ち上がって寝室に向かった。

 真砂を寝室に追いやってから、洗い物を済ませた深成は、次にお風呂場に行った。
 浴槽を洗いながら、洗濯物を確かめる。

---ふむ、前と大して変わんないね。ちょっと着替えが多くなってるだろうけど、ま、週末まで待ってたら、やっぱり五日分。そうだ、明日、来たらまずお洗濯して、最後に干して帰ろうかな。で、週末にシーツとかも洗っちゃおう---

 うん、と計画を立て、お風呂場を洗うと、深成はいそいそとキッチンに戻り、荷物をまとめた。
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