小咄
とあるシェアハウスに渦巻く、微妙な色恋模様
【キャスト】
住人:真砂・深成・捨吉・千代・あき
客:六郎
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
すっきりと晴れた、ある朝。
深成は起きると、パジャマのまま部屋のドアに手をかけた。
そのまま、じっとドアの周辺を窺い、次いで、さっとドアを開けると同時に、素早くドアから離れる。
ばらばらと、深成の部屋の前の廊下に、がちゃがちゃマシーンのボールが落ちてきた。
「もぅ、性懲りも無く罠仕掛けるんだからっ」
ぶつぶつ言いながらリビングに出ると、真砂が冷蔵庫からリンゴを取り出しているところだった。
シャワーでも浴びていたのか、いつものハーフパンツ一枚で、肩にタオルをかけている。
「そうやって常に警戒しておけば、特に意識しなくても、罠を避けることが出来るだろ」
果物ナイフとリンゴを持ち、空いた片手でがしがしと濡れた髪を拭きながら、真砂はどさ、とソファに座ると、リンゴの皮を剥き出す。
器用にくるくるとリンゴを回しながら皮を剥いていく真砂の手元を、深成は、じっと見た。
不思議なのだが、何故か真砂が扱う食材は、その辺のものよりも美味しそうに見えるのだ。
今も深成は、熱い視線を真砂の持つリンゴに向けている。
ちろ、と真砂が深成を見た。
じいぃっと穴の開くほどリンゴを見つめる深成に、ふ、と口角を上げると、とん、と剥いたリンゴを二つに切った。
そして半分を、冷蔵庫の横の棚の上にある皿に置く。
「ほれ」
深成に向かって、顎でリンゴを示して見せる。
よし、と言われた犬のように、深成は、ぱぁっと顔を輝かせ、たたた、と棚に駆け寄った。
何故わざわざ棚の上にリンゴを置いたのかなどは考えない。
棚はそんなに高くもないが、小さい深成は背伸びしないと届かない。
棚の前で片手を伸ばす深成だったが、身体が棚に当たった瞬間、いきなりびゅっと、風を切る音がした。
「んにゃっ!!」
一瞬のうちに、棚の両サイドから飛び出した縄が、深成を棚に縛り付ける。
「まだまだだなぁ。お前は餌を目の前にしたら、注意力が格段に落ちる」
首だけ回して真砂を見れば、真砂はリンゴの片方を囓りながら、にやにやと深成を見ている。
「うもーっ! 何もあんたのリンゴを無理矢理奪おうとしたわけじゃなし! 取ってよぅ!」
ぎゃーすか喚く深成に小さく笑うと、真砂は自分が食べていたリンゴを、深成の口に押し込んだ。
そして、深成の身体に巻き付いている縄を解きにかかる。
「簡単に人から施しを受けるなと言ってるだろ」
言いつつ縄を解いた真砂は、背伸びしていたためよろけた深成を、後ろから抱き留めた。
真砂は上半身裸、深成はパジャマ一枚。
だが特にお互い何も慌てることなく、深成は咥えていたリンゴを、もぐもぐと頬張った。
その間に、真砂は棚の上に置いていた真新しいリンゴの半分を手に取る。
「それは、わらわのじゃないの?」
深成はその半分を取るために、罠にかかったのだが。
だが真砂は、当たり前のように、その半分を囓る。
「何故だ。お前は今食ってるだろうが」
「これは元々、真砂が食べてたやつじゃん」
「それをお前にやったんだ。大体、誰がこれをお前にやると言った。俺はこれを示しただけだ」
住人:真砂・深成・捨吉・千代・あき
客:六郎
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
すっきりと晴れた、ある朝。
深成は起きると、パジャマのまま部屋のドアに手をかけた。
そのまま、じっとドアの周辺を窺い、次いで、さっとドアを開けると同時に、素早くドアから離れる。
ばらばらと、深成の部屋の前の廊下に、がちゃがちゃマシーンのボールが落ちてきた。
「もぅ、性懲りも無く罠仕掛けるんだからっ」
ぶつぶつ言いながらリビングに出ると、真砂が冷蔵庫からリンゴを取り出しているところだった。
シャワーでも浴びていたのか、いつものハーフパンツ一枚で、肩にタオルをかけている。
「そうやって常に警戒しておけば、特に意識しなくても、罠を避けることが出来るだろ」
果物ナイフとリンゴを持ち、空いた片手でがしがしと濡れた髪を拭きながら、真砂はどさ、とソファに座ると、リンゴの皮を剥き出す。
器用にくるくるとリンゴを回しながら皮を剥いていく真砂の手元を、深成は、じっと見た。
不思議なのだが、何故か真砂が扱う食材は、その辺のものよりも美味しそうに見えるのだ。
今も深成は、熱い視線を真砂の持つリンゴに向けている。
ちろ、と真砂が深成を見た。
じいぃっと穴の開くほどリンゴを見つめる深成に、ふ、と口角を上げると、とん、と剥いたリンゴを二つに切った。
そして半分を、冷蔵庫の横の棚の上にある皿に置く。
「ほれ」
深成に向かって、顎でリンゴを示して見せる。
よし、と言われた犬のように、深成は、ぱぁっと顔を輝かせ、たたた、と棚に駆け寄った。
何故わざわざ棚の上にリンゴを置いたのかなどは考えない。
棚はそんなに高くもないが、小さい深成は背伸びしないと届かない。
棚の前で片手を伸ばす深成だったが、身体が棚に当たった瞬間、いきなりびゅっと、風を切る音がした。
「んにゃっ!!」
一瞬のうちに、棚の両サイドから飛び出した縄が、深成を棚に縛り付ける。
「まだまだだなぁ。お前は餌を目の前にしたら、注意力が格段に落ちる」
首だけ回して真砂を見れば、真砂はリンゴの片方を囓りながら、にやにやと深成を見ている。
「うもーっ! 何もあんたのリンゴを無理矢理奪おうとしたわけじゃなし! 取ってよぅ!」
ぎゃーすか喚く深成に小さく笑うと、真砂は自分が食べていたリンゴを、深成の口に押し込んだ。
そして、深成の身体に巻き付いている縄を解きにかかる。
「簡単に人から施しを受けるなと言ってるだろ」
言いつつ縄を解いた真砂は、背伸びしていたためよろけた深成を、後ろから抱き留めた。
真砂は上半身裸、深成はパジャマ一枚。
だが特にお互い何も慌てることなく、深成は咥えていたリンゴを、もぐもぐと頬張った。
その間に、真砂は棚の上に置いていた真新しいリンゴの半分を手に取る。
「それは、わらわのじゃないの?」
深成はその半分を取るために、罠にかかったのだが。
だが真砂は、当たり前のように、その半分を囓る。
「何故だ。お前は今食ってるだろうが」
「これは元々、真砂が食べてたやつじゃん」
「それをお前にやったんだ。大体、誰がこれをお前にやると言った。俺はこれを示しただけだ」