小咄
「遅くなっちゃった~」
鍵を開け、息を切らせて、深成は真砂の家の玄関に飛び込んだ。
靴を脱ぎながら顔を上げると、奥のリビングに灯りが点いている。
急いで奥に進むと、リビングのソファに真砂の姿があった。
「ちょっと課長! 何してるの!」
「遅かったな」
ぷんすかと怒る深成などさらっと無視し、真砂が振り向く。
PCが開いている。
仕事をしていたようだ。
「もーっ! お仕事なんてしちゃ駄目だって!」
「メールのチェックだけだよ。三日も見ないと恐ろしいことになるからな」
ソファに駆け寄り、きゃんきゃんと叱る深成を軽く流し、真砂は深成を見上げた。
「残業だったのか?」
「あ、うん。今日はちょっと、大変だった。お腹空いた? すぐご飯作るね」
はた、と時計を見、深成はててて、とキッチンに走った。
ご飯は炊いてある。
深成は手早く、おかずを作っていった。
そして約三十分後。
出来たご飯をテーブルに並べて、二人は夕飯にありついた。
「お前も結構、短時間で料理出来るじゃないか」
初めて真砂の家にお邪魔したとき、三十分でご飯を作った真砂にやたらと感動していたので、てっきり料理は出来ないものだと思っていた。
だが深成だって、三十分でちゃんとした夕飯を作ることが出来るようだ。
「ん、でもこれは、前日に下ごしらえとかしてるもん。簡単なものしか出来ないしさ」
「それでも限られた時間で段取りよく出来るってのは、大したもんだぜ」
ぱくぱくと箸を動かしながら言う真砂に、深成はぽりぽりと頬を掻いた。
真砂に褒められるのは無条件に嬉しい。
滅多にないことだからだろうが。
「あ、そだ。課長、今日はもうお風呂入った?」
「いや。下手に入って、また風呂場に飛び込んで来られても困るし」
「お風呂には飛び込んでないでしょっ」
「一緒だろうが。こっちは裸だぞ」
あれ、そうだったっけ、と首を捻る深成だったが、はた、と思い出す。
「課長こそっ! この前思いっきりわらわがお風呂に入ってるところに入ってきたじゃん」
ここだけを聞いたら、あきなど出血多量になろう。
が、今度は真砂が、そうだっけ、と首を捻った。
「……ああ、そういえば。つか、あれはお前がいきなり泣き出すからだろうが」
何でもないことのように言う。
よくよく考えれば、実はすでに真砂には裸を見られているのだが。
一番初めに真砂の家にお邪魔した夜、思い切りベッドでシャツを脱がされている。
だが通常なら信じられないことに、その時深成はすでに寝入っていたので知らないのだ。
無防備も、ここに極まれり。
「だからお互い様なんだよっ」
そのまとめ方はどうかと思うが、深成は一人で納得し、うん、と頷いた。
「まだだったら、今日もお風呂洗って帰るね」
「いいよ、別に。自分でやるし」
「駄目! まだ安静にしてなさい」
安静って……と苦笑いする真砂をちらりと見、深成はこれまた嬉しくなる。
課長もこんなにいろんな表情するんだ、とほのぼのしつつ、食べ終わった食器を片付けた。
「明日は何時ごろに来ようかな。おでん作らないとだし、早めに来てもいい? あ、お洗濯もあるし、お掃除もしなきゃ」
「別にいつ来てもいいが。一日で全部やらんでもいいだろう」
「そだけどさ。お洗濯は、シーツとかも洗いたいから、土曜と日曜に分けようと思うし。変わんないよ」
言いながらお皿を洗う深成を見、真砂はおもむろに口を開く。
「いちいち帰るのも面倒だろ。週末は泊まればどうだ?」
ん、と深成が顔を上げる。
そして、じっと真砂を見た。
「……そうしよっかな」
確かに夕飯後に帰ってお風呂に入って、というのは、結構面倒くさい。
もう風邪も良くなってるだろうし、と思い、深成は呟いた。
鍵を開け、息を切らせて、深成は真砂の家の玄関に飛び込んだ。
靴を脱ぎながら顔を上げると、奥のリビングに灯りが点いている。
急いで奥に進むと、リビングのソファに真砂の姿があった。
「ちょっと課長! 何してるの!」
「遅かったな」
ぷんすかと怒る深成などさらっと無視し、真砂が振り向く。
PCが開いている。
仕事をしていたようだ。
「もーっ! お仕事なんてしちゃ駄目だって!」
「メールのチェックだけだよ。三日も見ないと恐ろしいことになるからな」
ソファに駆け寄り、きゃんきゃんと叱る深成を軽く流し、真砂は深成を見上げた。
「残業だったのか?」
「あ、うん。今日はちょっと、大変だった。お腹空いた? すぐご飯作るね」
はた、と時計を見、深成はててて、とキッチンに走った。
ご飯は炊いてある。
深成は手早く、おかずを作っていった。
そして約三十分後。
出来たご飯をテーブルに並べて、二人は夕飯にありついた。
「お前も結構、短時間で料理出来るじゃないか」
初めて真砂の家にお邪魔したとき、三十分でご飯を作った真砂にやたらと感動していたので、てっきり料理は出来ないものだと思っていた。
だが深成だって、三十分でちゃんとした夕飯を作ることが出来るようだ。
「ん、でもこれは、前日に下ごしらえとかしてるもん。簡単なものしか出来ないしさ」
「それでも限られた時間で段取りよく出来るってのは、大したもんだぜ」
ぱくぱくと箸を動かしながら言う真砂に、深成はぽりぽりと頬を掻いた。
真砂に褒められるのは無条件に嬉しい。
滅多にないことだからだろうが。
「あ、そだ。課長、今日はもうお風呂入った?」
「いや。下手に入って、また風呂場に飛び込んで来られても困るし」
「お風呂には飛び込んでないでしょっ」
「一緒だろうが。こっちは裸だぞ」
あれ、そうだったっけ、と首を捻る深成だったが、はた、と思い出す。
「課長こそっ! この前思いっきりわらわがお風呂に入ってるところに入ってきたじゃん」
ここだけを聞いたら、あきなど出血多量になろう。
が、今度は真砂が、そうだっけ、と首を捻った。
「……ああ、そういえば。つか、あれはお前がいきなり泣き出すからだろうが」
何でもないことのように言う。
よくよく考えれば、実はすでに真砂には裸を見られているのだが。
一番初めに真砂の家にお邪魔した夜、思い切りベッドでシャツを脱がされている。
だが通常なら信じられないことに、その時深成はすでに寝入っていたので知らないのだ。
無防備も、ここに極まれり。
「だからお互い様なんだよっ」
そのまとめ方はどうかと思うが、深成は一人で納得し、うん、と頷いた。
「まだだったら、今日もお風呂洗って帰るね」
「いいよ、別に。自分でやるし」
「駄目! まだ安静にしてなさい」
安静って……と苦笑いする真砂をちらりと見、深成はこれまた嬉しくなる。
課長もこんなにいろんな表情するんだ、とほのぼのしつつ、食べ終わった食器を片付けた。
「明日は何時ごろに来ようかな。おでん作らないとだし、早めに来てもいい? あ、お洗濯もあるし、お掃除もしなきゃ」
「別にいつ来てもいいが。一日で全部やらんでもいいだろう」
「そだけどさ。お洗濯は、シーツとかも洗いたいから、土曜と日曜に分けようと思うし。変わんないよ」
言いながらお皿を洗う深成を見、真砂はおもむろに口を開く。
「いちいち帰るのも面倒だろ。週末は泊まればどうだ?」
ん、と深成が顔を上げる。
そして、じっと真砂を見た。
「……そうしよっかな」
確かに夕飯後に帰ってお風呂に入って、というのは、結構面倒くさい。
もう風邪も良くなってるだろうし、と思い、深成は呟いた。