小咄

とあるmira商社 課長・清五郎宅での鍋パーティー

【キャスト】
mira商社 課長:真砂・清五郎 派遣事務員:深成
社員:あき・千代・捨吉・羽月・ゆい
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆

 それは真砂たちが北海道出張から帰って来た次の週の週末。
 どかんと真砂宅に、どでかい発泡スチロールが届いた。
 差出人はミラ子社長。

 要冷蔵の中身は、立派なカニがごろごろと。
 緩衝材代わりか、隙間には所狭しと、おそらくマサ社長&秘書見立ての道産子スイーツが詰まっている。

「……」

 一旦開けた箱の蓋を閉じ、真砂は額を押さえた。
 しかし要冷蔵なので、このままでは腐ってしまう。
 とりあえず、真砂は携帯を取り、深成に電話した。

『もしも~し』

「お待ちかねの北海道スイーツが届いたぞ。食いに来るか?」

『ほんとっ? うん! 行く!』

 物凄い食いつきようで、深成の声が弾む。
 表情が目に見えるようだ。

『じゃ、すぐに行っていい? あ、課長、お昼はどうする?』

 今は十一時だ。
 真砂の家に着いたら、丁度お昼時。
 真砂は立ち上がると、財布と車のキーを掴んだ。

「迎えに行ってやる。ついでにどっかで飯食おう」

『うん、わかった。じゃ用意して待ってる』

「泊まるか?」

『……うん』

「じゃ、マンションの前に着いたら電話する」

『はぁ~い』

 ぷつ、と通話を切り、真砂はジャケットを羽織った。
 家を出てエレベーターに乗ったところで、携帯が鳴る。
 見ると清五郎だ。

「どうしたんだ」

『ああ、社長から荷物、届いたか?』

「ああ。どうするよ、あの大量のカニ」

 真砂も清五郎も、お互い独身の一人暮らしだ。

『それなんだが、折角だしカニ鍋でもしようや。どうせ一人二人じゃ食い切れん。捨吉たちを呼んで、皆で食わないか?』

「そうだな。じゃあ週明けに誘うか」

 カニは鍋にすることに決めて、真砂は深成の家に向かった。



 深成のマンションの前で電話すると、すぐに深成が部屋から出てきた。
 この前とは違い、やたらと荷物が多い。

「何だよ、その大量の荷物は」

 後部座席に紙袋を置き、深成はいそいそと助手席に乗り込んだ。

「課長ん家に、わらわの着替えを置いておこうと思って」

「着替えはいいんだがな……」

 ちらりと、真砂の視線が紙袋から見えている白くまに注がれる。
 却下される前に、深成はささっと紙袋から白くまを取り出して抱き締めた。

「だってこの子、お気に入りなんだもん。厳選してこの子だけにしたんだから」

「悩むぐらいなら、持ってこないという選択肢もあるんじゃないか?」

「ない」

 きっぱりと言う深成に渋い顔をしつつも、真砂はそのまま、車を発進させた。



 適当なところでお昼を食べ、少しぶらぶらしてから真砂の家に戻ったときには、すでに夕方になっていた。

「うわぉ。すごーい! 美味しそう~~」

 箱の中身を覗き込み、深成はきらきらと目を輝かせた。

「それとカニが大量に来たから、冷凍庫はカニに占領されとる。冷凍してた肉とかは冷蔵庫に追いやられてるから、それ使ってくれ」

「うん」

 エプロンをつけながら、深成は冷凍庫を開けてみた。
 言われた通り、カニが冷凍庫いっぱいに詰まっている。

「凄い! 美味しそうだけど、これはどうするの?」

「清五郎のところにも届いてるから、あいつが鍋しようって言って来た。こっちからはお前とあきと……まぁいつものメンバーだな」

「そっか。楽しみだね~」

 うきうきと言いながら、深成は夕飯を作った。



 真砂が風呂から上がると、先に入った深成がリビングのソファで小さくなっている。

「どうした?」

「ん~……。鍋パーティーって、誰が来るの?」

 白くまを抱っこしたまま、深成が真砂を見る。

「いつもと同じだろ。捨吉と、千代とあきと……。清五郎のところは、羽月とゆいかな」

「怖いなぁ」

「えらいゆいを恐れてるな」

「だって苦手だもん」

「だから、俺の傍にいろって」

 どさ、と深成の横に座り、真砂は深成の肩に腕を回した。
 少し、深成が真砂に身体を寄せる。

「まぁ羽月も必死に庇うだろうけどな」

「そしたら余計喧嘩になっちゃいそうだし。わらわ、課長に守って欲しい」

 少し、甘やかな雰囲気が漂う。
 真砂が、深成の肩を抱く手に力を入れた。
 ちろ、と深成が真砂を見上げると、ゆっくりと顔が近づいてくる。

「……」

 唇が触れあった。
 軽く触れただけで、すぐに離れたが、至近距離で見つめ合ったままだ。

 再び真砂が、深成にキスをした。
 先程よりも深い。

 さらに、真砂は深成の肩を支えつつ、ソファにゆっくりと倒れ込んだ。
 真砂の下で、深成は小さくなっている。

 もう一度キスをしながら、真砂の片手は深成の胸に。
 だが、真砂の手に触れたのは、ふかふかの白くまだった。
 深成が抱っこしたままなのだ。

「全く、いいところでぶち壊してくれるな」

 真砂が白くまを取り上げようとすると、深成が慌ててそれを阻止した。

「だ、駄目っ。ここで取り上げちゃったら、床にぽいって捨てるでしょっ」

「捨てるわけじゃない。置くだけだ」

「床は可哀想じゃんっ」

 ぎゅうっと白くまを抱き締める。
 そんなに可愛がってくれるのは、買って来た者としてはありがたいのだが、今はそういう場合ではないのだが。

「そんじゃあベッドに行こう」

 そう言って、真砂は深成を白くまごと抱き上げた。

「えっ……。あ、あの、課長っ……」

 わたわたと焦っているうちに、さっさと真砂は寝室に入る。
 そして、どさ、と深成をベッドに投げ出した。
 すぐに自分も覆い被さるように、深成を押さえつける。

「ベッドなら、横に置いておけばいいだろ」

 言いつつ深成から白くまを取り、枕元に置く。
 そしてすぐに唇を重ねてきた。

「……っ……ん……」

 深成がちょっと暴れても、真砂は唇を離さない。
 舌が、深成の舌を絡め取る。

 深成がくらくらしている間に、真砂の手はするすると、深成の着ているシャツのボタンを外した。
 いつものようにシャツ一枚だったので、あっという間に深成は下着だけになった。

「か、課長っ……。ちょ、ちょっと待って」

「嫌だね」

 慌てて真砂から逃れようとするが、身体が言うことをきかない。
 嫌なわけではなく、怖いだけなので、そう激しく拒否する気も起らない。
 だが余計パニックになる。

「か、課長っ。やだっ……怖い……」

 そう言って深成は、ぱっと起き上がろうと手を付いたが、そこにベッドはなかった。
 いつの間にか、端っこまで移動していたらしい。
 がくん、と深成の身体が傾いだ。

「あっ……あにゃーーーっ!!」

「おいっ」

 どたーん、と深成がベッドから落下した。

「大丈夫かっ?」

 驚いた真砂が、深成の腕を掴んで助け起こす。
 深成の家のベッドよりは高いとはいえ、人の背丈もあるわけではない。
 落ちたところで、そう大事ないだろうが。

「う、うえぇ~~ん」

 しくしくと、深成が泣き出す。
 とりあえずベッドに引き上げ、真砂はよしよしと深成の頭を撫でた。

 先程までの甘やかな雰囲気は吹き飛んでしまった。
 ふぅ、と息をつくと、真砂は深成を抱き寄せて、ごろりと横になった。
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