小咄
 そしてそれから五日後。
 朝、あきが出社すると、机に小さなサボテンが置かれていた。

 透明なセロファンで綺麗に包まれ、リボンがかかっている。
 よくよく見ると、『Happy Birthday』という小さな飾り札もついている。

「あ、あきちゃ~ん。今日お誕生日なんだってね? おめでとう~」

 はい、と深成がキャンディーポットを差し出す。

「ありがと。これ、深成ちゃんから?」

 飴玉を一つ取り出しながら、あきが机のサボテンを指す。
 深成は自分も飴玉を取り出しながら、ふるふると首を振った。

「ううん。それは、あんちゃんが。今日あきちゃんの誕生日だって、あんちゃんから聞いたし」

 え、とあきは前の席を見た。
 捨吉の姿はない。

「あんちゃん、それ置いてすぐに課長と出かけちゃった」

「そ、そうなんだ」

 あきはPCを立ち上げつつ、机に置かれたサボテンを見た。
 手の平大の丸っこいサボテンだ。

---可愛い。この前捨吉くんが課長に聞いてたのって、これを買うための相談? え、でも気になる子って言ってた……---

 仄かにあきの顔が赤くなる。

---ゆいちゃんじゃなかったんだ。あれ、でもゆいちゃん、多分自分の誕生日のために悩んでるって思ってるわ。どうするんだろう---

 ぐるぐる考えていると、真砂と一緒に捨吉が帰って来た。

「あ。こ、これ、捨吉くんから?」

 あきが言うと、捨吉はちょっと照れたように頷いた。

「うん。誕生日だよね? 花にしようかと思ったんだけど、会社で花束渡されても困るだろ? どうしようかと悩んだ結果が、それなんだけど」

 照れ照れ、と頭を掻きながら言う。

「ありがとう。でも、よくあたしの誕生日なんて知ってたわね」

「大分前だけどさ、ちらっとそういう話になったときに言ってたの、覚えてたんだ。どうでもいい子の情報だったら、すぐに忘れちゃうんだけどね」

 さらっと言われたことに、あきはまた赤くなった。
 これは期待してもいいのだろうか。
 照れ臭そうに言うものの、捨吉もはっきりとは告白しない。

---ま、まぁ今ここで言うわけにはいかないだろうけどさ---

 さて仕事にかかろう、とPCを打ち出したあきに、捨吉が、ちょっと身を乗り出した。

「あのさ。今日の夜は予定ある?」

「え、別にないけど」

「じゃあさ、ご飯行こうよ。清五郎課長みたいにいいところには行けないけど、俺、奢るよ」

「え、いいの?」

「うん。誕生日だし」

 うわぁ、とあきは顔を綻ばせた。
 その嬉しそうな表情に、捨吉も、ほっとした顔になった。
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