小咄
 それから二か月経ったある日。
 捨吉は訪問先のお客さんから、たまたま旅行のお土産を貰った。
 箱を開けると、可愛いパッケージの小包が五つ入っている。

「わぁ、珍しい。丁度五つだから、一つづつ分けよう」

 そう言って、いそいそと捨吉は真砂・深成・あき・千代に小包を渡した。

「わぁ、可愛い。これだけで立派なプレゼントだね」

 深成が嬉しそうに言って、いそいそと鞄にしまう。

「俺はいらんぞ」

 真砂が捨吉を遮る。

「え~、だったら一つ余るじゃないですか」

 そんなやり取りをしていると、二課のほうからゆいがやって来た。

「捨吉くぅ~ん。今日何の日か知ってるぅ?」

 上目遣いで言う。
 捨吉は思い切り首を傾げた。

「もぅ、すっとぼけてぇ。あたしの誕生日~」

「あっ、そうなんだ。おめでとう」

 それだけ言って、捨吉はさっさとPCに向き直る。

「ええ~? それだけぇ? プレゼントはぁ? あ、もしかして、ここじゃ渡せない?」

 にやにやしながら、つんつんと捨吉をつつく。
 ゆいはてっきりプレゼントを貰えるものと思っているが、当然ここの誰もそんなものの用意はない。
 何でこんなに貰えること前提で喋ってるんだろう、と疑問に思い、捨吉は不思議そうにゆいを見上げた。

「何のこと? 俺、ゆいさんの誕生日なんて、今知ったし」

「ええ?」

 一瞬ゆいの手が止まった。
 が、すぐにばしんと捨吉の背を叩く。

「もぅ、照れ屋さんなんだからぁ。二か月前からリサーチしてたくせにぃ」

 さりげなく叩かれた背中を庇いながら、捨吉は首を傾げた。
 何のことだかさっぱりわからない。

 だがこれ以上ゆいの相手をするのも面倒だ。
 捨吉は、折良く一つ余ったお客さんからのお土産を、ゆいに渡した。

「はい、じゃあこれ。おめでとう」

 そう言って、とっととPCに向き直る。
 こそりと、あきも千代も、先程貰った自分の分のお土産を、ゆいの目から隠した。

「え、これ?」

 ゆいが、押し付けられた小さな包みを見て言う。
 確かに二か月も前からリサーチしていたにしては、しょぼいものだろう。
 どう見てもお菓子の類だ。

「あ、そっか。ね、今日はどこに行くの?」

 これはあくまでプレゼントの一部であって、本当のお祝いは、この後どこかに連れて行ってくれるのだろうと、ゆいは考えた。
 なかなかそういう話を切り出さないのも、照れ屋だからなのだと、自分から話を振る。

「今日? ああ、今日はこれから真砂課長と外出で、そのまま直帰だけど」

 ゆいを見ることもなく、ばさばさと用意をすると、PCを閉じる。
 真砂が上座で立ち上がり、行くぞ、と声をかけた。

「じゃあね」

 にこりと笑って、呆然とするゆいを残し、捨吉はさっさとフロアを出て行った。

「なっ何なの? あたしのためじゃなかったら、あの二か月前のリサーチは何だったのよ!」

 きぃっと憤慨するゆいが、苛々したように、あきを振り返った。

「あき! あんた、今日付き合いなさいよ!」

「ええ?」

「あたしの誕生日だっつってんでしょ! 祝ってくれないの?」

「祝ってあげたいのは山々だけど、飲む前からそんな荒れてるゆいちゃんは嫌だわ」

 ずばりとあきが言う。
 かっと、ゆいの顔が赤くなった。

「あんたもねぇ、ちょっとはその性格、何とかしなよ。可愛げないったら」

 ほとほと呆れたように、千代が言う。
 そして、きゅ、と唇を引き結んだゆいを慰めるように立ち上がって、ぽん、と肩を叩いた。

「あきは今日、私らと食事に行くんだよ。しょうがないな、あんたもおいで」

 え、とあきと深成が顔を上げる。
 今日は千代とあきと深成で食事に行く予定なのだ。

 深成は元々ゆいが苦手だし、あきもこんな状態のゆいの相手はしたくない。
 何故千代はゆいを誘ったりするんだか。
 が、千代は二人に目を移すと、軽く、良いだろ? と聞いた。

「……いいけど。ゆいちゃん、深成ちゃんを苛めたら承知しないわよ」

 しぶしぶ、あきが承諾する。
 深成は嫌だろうが、千代がいれば、ゆいもそうそう深成に手出しは出来ないだろう。
 深成も、ちらりと千代を見、こくりと頷いた。

「よし。じゃあ今日の女子会は、ゆいの誕生祝いを兼ねようか。ほら、元気出しな」

 再度ぽん、と肩を叩かれ、やっとゆいの表情は和らいだ。
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