小咄
「課長~~」
『何だ、どうしたんだ』
一方こちらはマンション前まで送られてしまったので、真砂のところに行きそびれてしまった深成。
特に約束はしていなかったが、何となく週末一緒に過ごすのは恒例化しているし、先程会ったわりには全く喋ることも出来なかったので、変に寂しくなってしまった。
「課長、お家にいるよね?」
『当たり前だろ。お前よりも先についてる』
「今週は明日かなぁ」
明日会ったところで、二日ある。
金曜の夜からも明日の朝からも、そう変わらないといえば変わらないが。
『……今すぐ会いたいか?』
ちょっと笑いを含んだ低い声が耳に届く。
きっと意地悪そうな笑みを浮かべてるんだ、と思うのだが、そんなことない、とか意地を張ると、あっさり電話を切られそうだ。
結局深成は、素直に、うん、と答えた。
「今から行ってもいい?」
深成は帰って来たところなので、またそのまま出ればいいだけだ。
着替えも真砂のところに置いてあるので、用意もない。
が、電話の向こうで何やら動く音がした。
『お前のマンション、駅から遠いだろうが。こんな夜中に出歩くな』
「大丈夫だよ。走って行くから」
『転ぶぞ』
「ちょっと」
ぶーたれると、ははは、という笑い声と共に、電話の向こうで、かちゃん、と音がした。
『俺がそっちに行ってやる』
「え」
『待ってろ』
ぷつ、と通話が切れる。
深成はしばし携帯を眺めていたが、やがて、いそいそとその辺りを片付け、お風呂の用意をした。
そして二十分後に携帯が鳴り、深成が玄関を開けると真砂が入ってくる。
「わざわざ電話して来なくても、チャイム鳴らしてくれればいいよ?」
「いや……。あんまり他の家に知られたらまずいだろ」
入ってくるときも素早い。
きょとんとしていると、真砂は後ろ手で施錠しながら深成を見た。
「男を連れ込んでるのは、よろしくないんじゃないか」
「連れ込んでるって……。課長しか来ることないじゃん」
いろんな人が来るわけじゃないもん、と口を尖らす深成だが、真砂は微妙な表情だ。
「世間的には、男が出入りするってだけで、印象は良くないだろ。ましてここは結構古いし。変な噂が立ったら、お前が困るだろう」
まぁお前のことだから、親戚とかぐらいにしか見られない可能性が高いがな、と呟き、真砂は奥の部屋に入った。
真砂のことはそう見られても、この古い建物だと、部屋で妙なことをすると、隣の部屋に物音が筒抜けのような気もする。
「課長。お風呂まだ? 丁度さっきお湯入ったから、まだだったらお先にどうぞ」
「ああ」
もちろんそんなことは一切気にせず、深成が風呂を勧める。
何も出来ない、というのは、ある意味いいことなのかもな、と思いつつ、真砂は風呂を頂くことにした。
「そろそろ本当に、俺の家に引っ越せばどうよ」
敷かれた布団に寝転がって、真砂が言う。
今は真冬でもないので、年末にあった炬燵はしまわれている。
真砂が風呂に入っている間に、そこに布団が敷かれていたのだが。
「う~ん……。そうだなぁ~……」
少し高いベッドに、深成が寝転んでいる。
真砂からは深成が見えるが、深成からは眼下になるので真砂は見えない。
ころりと、深成がベッド際に転がって、真砂を見下ろした。
「課長は、それでもいいの?」
ベッドの縁にうつぶせになって、深成が言う。
「いいよ。そっちのほうが、お前だって家賃が浮くだろ」
「そうだけど……」
うむむ、と考えつつ、深成は顔を枕に埋めた。
出来ることなら、常に一緒にいたい。
こんな夜にわざわざ来て貰わなくても、どうせ毎週一緒に過ごしているなら、もう一緒に住んでしまえばいいことだ。
だが。
---だ、だって課長……。一緒に住むようになったら、遠慮なくやるって言ってたし---
というか、むしろ何度もお泊りしたことのあるれっきとした恋人同士なのに、まだやってないほうがおかしいのだが。
そこは深成ではわからない。
やってないとはいえ、最終的に最後までなかっただけで、何度かはそういう雰囲気になってきたのだ。
---でも結局せずに済ませてくれたってことは、課長、相当我慢してるのかな---
男の人が我慢するのが、どの程度辛いのかはわからない。
毎週のように泊まりに行っていても、手出しさせなかったのは、もしかして相当酷なことだったのだろうか。
---でも、我慢出来なくなったら、無理やりでもやるって言ってたし……---
ということは、そこまでではない、ということだろうか。
それに、深成が会いたい、と言えば、わざわざ泊まりに来てくれる。
---辛いんだったら、わざわざ来てくれないよね---
そう思い、深成はごそごそとベッドの上から手を伸ばした。
真砂の顔の前でひらひらすると、ちょっと訝しげな顔で、真砂が深成の手を取った。
「手、繋いで寝る」
「何でだよ」
「だってわらわのとこからは、課長見えないもの。課長のお家のベッドみたいに広くないから、一緒に寝られないし」
またこいつは、と内心頭を抱えた真砂だが、深成の手を握り直すと、目を閉じた。
「落ちてくるなよ」
「わらわはともかく、うさちゃんとかくまさんとかが、課長と寝たいって降りるかも」
「それはお前が落としてるんだろうがっ」
「大丈夫だよ、軽いから」
にこにこと言い、きゅ、と繋いだ手に力を入れると、深成は、おやすみ、と呟いて目を閉じた。
やれやれ、とため息をつき、真砂は繋いだ手を引っ張って降ろしてやろうかと思いつつも、やはり結局は何もせずに、夜を過ごすのだった。
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
え~、捨吉とあきちゃんの恋愛をがっつり……というリクエストだったような気がしますが、う~~む。
あの~、書いてつくづく思ったのが、左近は本当、恋愛ジャンルが苦手やな、と。
というのもね、捨吉とあきのような、言うてしまえば普通~なカップルって、何をどうすれば盛り上がるのかがさっぱりわからんのですよ。
多分、捨吉とあきの性格によるところも大きいんだと思うんですけど。
性格も、この二人普通~なんで。
いや、あきちゃんの妄想癖は尋常じゃないですが。
それは自分以外に発揮されるところだし。
捨吉と自分の恋愛には発揮されないんですな。
となると、全く普通の子になってしまって、いまいち押しの弱い捨吉とでは仲もなかなか進展せず。
ライバルゆいを投入してみたところで、これといった動きもありませんでした、と。
そしてこの不完全燃焼な空気は、やはり真砂と深成の強烈カップルに払拭して貰おうと、この二人のエピソード投入。
やっぱ書きやすいわ( ̄▽ ̄)
んでも今回はあくまで『捨吉の恋愛事情』なので、メインでない間はやらせません( ̄▽ ̄)
真砂、またお預けというね。
2015/09/13 藤堂 左近
『何だ、どうしたんだ』
一方こちらはマンション前まで送られてしまったので、真砂のところに行きそびれてしまった深成。
特に約束はしていなかったが、何となく週末一緒に過ごすのは恒例化しているし、先程会ったわりには全く喋ることも出来なかったので、変に寂しくなってしまった。
「課長、お家にいるよね?」
『当たり前だろ。お前よりも先についてる』
「今週は明日かなぁ」
明日会ったところで、二日ある。
金曜の夜からも明日の朝からも、そう変わらないといえば変わらないが。
『……今すぐ会いたいか?』
ちょっと笑いを含んだ低い声が耳に届く。
きっと意地悪そうな笑みを浮かべてるんだ、と思うのだが、そんなことない、とか意地を張ると、あっさり電話を切られそうだ。
結局深成は、素直に、うん、と答えた。
「今から行ってもいい?」
深成は帰って来たところなので、またそのまま出ればいいだけだ。
着替えも真砂のところに置いてあるので、用意もない。
が、電話の向こうで何やら動く音がした。
『お前のマンション、駅から遠いだろうが。こんな夜中に出歩くな』
「大丈夫だよ。走って行くから」
『転ぶぞ』
「ちょっと」
ぶーたれると、ははは、という笑い声と共に、電話の向こうで、かちゃん、と音がした。
『俺がそっちに行ってやる』
「え」
『待ってろ』
ぷつ、と通話が切れる。
深成はしばし携帯を眺めていたが、やがて、いそいそとその辺りを片付け、お風呂の用意をした。
そして二十分後に携帯が鳴り、深成が玄関を開けると真砂が入ってくる。
「わざわざ電話して来なくても、チャイム鳴らしてくれればいいよ?」
「いや……。あんまり他の家に知られたらまずいだろ」
入ってくるときも素早い。
きょとんとしていると、真砂は後ろ手で施錠しながら深成を見た。
「男を連れ込んでるのは、よろしくないんじゃないか」
「連れ込んでるって……。課長しか来ることないじゃん」
いろんな人が来るわけじゃないもん、と口を尖らす深成だが、真砂は微妙な表情だ。
「世間的には、男が出入りするってだけで、印象は良くないだろ。ましてここは結構古いし。変な噂が立ったら、お前が困るだろう」
まぁお前のことだから、親戚とかぐらいにしか見られない可能性が高いがな、と呟き、真砂は奥の部屋に入った。
真砂のことはそう見られても、この古い建物だと、部屋で妙なことをすると、隣の部屋に物音が筒抜けのような気もする。
「課長。お風呂まだ? 丁度さっきお湯入ったから、まだだったらお先にどうぞ」
「ああ」
もちろんそんなことは一切気にせず、深成が風呂を勧める。
何も出来ない、というのは、ある意味いいことなのかもな、と思いつつ、真砂は風呂を頂くことにした。
「そろそろ本当に、俺の家に引っ越せばどうよ」
敷かれた布団に寝転がって、真砂が言う。
今は真冬でもないので、年末にあった炬燵はしまわれている。
真砂が風呂に入っている間に、そこに布団が敷かれていたのだが。
「う~ん……。そうだなぁ~……」
少し高いベッドに、深成が寝転んでいる。
真砂からは深成が見えるが、深成からは眼下になるので真砂は見えない。
ころりと、深成がベッド際に転がって、真砂を見下ろした。
「課長は、それでもいいの?」
ベッドの縁にうつぶせになって、深成が言う。
「いいよ。そっちのほうが、お前だって家賃が浮くだろ」
「そうだけど……」
うむむ、と考えつつ、深成は顔を枕に埋めた。
出来ることなら、常に一緒にいたい。
こんな夜にわざわざ来て貰わなくても、どうせ毎週一緒に過ごしているなら、もう一緒に住んでしまえばいいことだ。
だが。
---だ、だって課長……。一緒に住むようになったら、遠慮なくやるって言ってたし---
というか、むしろ何度もお泊りしたことのあるれっきとした恋人同士なのに、まだやってないほうがおかしいのだが。
そこは深成ではわからない。
やってないとはいえ、最終的に最後までなかっただけで、何度かはそういう雰囲気になってきたのだ。
---でも結局せずに済ませてくれたってことは、課長、相当我慢してるのかな---
男の人が我慢するのが、どの程度辛いのかはわからない。
毎週のように泊まりに行っていても、手出しさせなかったのは、もしかして相当酷なことだったのだろうか。
---でも、我慢出来なくなったら、無理やりでもやるって言ってたし……---
ということは、そこまでではない、ということだろうか。
それに、深成が会いたい、と言えば、わざわざ泊まりに来てくれる。
---辛いんだったら、わざわざ来てくれないよね---
そう思い、深成はごそごそとベッドの上から手を伸ばした。
真砂の顔の前でひらひらすると、ちょっと訝しげな顔で、真砂が深成の手を取った。
「手、繋いで寝る」
「何でだよ」
「だってわらわのとこからは、課長見えないもの。課長のお家のベッドみたいに広くないから、一緒に寝られないし」
またこいつは、と内心頭を抱えた真砂だが、深成の手を握り直すと、目を閉じた。
「落ちてくるなよ」
「わらわはともかく、うさちゃんとかくまさんとかが、課長と寝たいって降りるかも」
「それはお前が落としてるんだろうがっ」
「大丈夫だよ、軽いから」
にこにこと言い、きゅ、と繋いだ手に力を入れると、深成は、おやすみ、と呟いて目を閉じた。
やれやれ、とため息をつき、真砂は繋いだ手を引っ張って降ろしてやろうかと思いつつも、やはり結局は何もせずに、夜を過ごすのだった。
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
え~、捨吉とあきちゃんの恋愛をがっつり……というリクエストだったような気がしますが、う~~む。
あの~、書いてつくづく思ったのが、左近は本当、恋愛ジャンルが苦手やな、と。
というのもね、捨吉とあきのような、言うてしまえば普通~なカップルって、何をどうすれば盛り上がるのかがさっぱりわからんのですよ。
多分、捨吉とあきの性格によるところも大きいんだと思うんですけど。
性格も、この二人普通~なんで。
いや、あきちゃんの妄想癖は尋常じゃないですが。
それは自分以外に発揮されるところだし。
捨吉と自分の恋愛には発揮されないんですな。
となると、全く普通の子になってしまって、いまいち押しの弱い捨吉とでは仲もなかなか進展せず。
ライバルゆいを投入してみたところで、これといった動きもありませんでした、と。
そしてこの不完全燃焼な空気は、やはり真砂と深成の強烈カップルに払拭して貰おうと、この二人のエピソード投入。
やっぱ書きやすいわ( ̄▽ ̄)
んでも今回はあくまで『捨吉の恋愛事情』なので、メインでない間はやらせません( ̄▽ ̄)
真砂、またお預けというね。
2015/09/13 藤堂 左近