小咄
 次の日は、朝から海水浴。
 起きるなり、深成はいそいそと水着に着替える。

「深成ちゃん。もう着替えるの?」

「だってすぐに海行くでしょ? また着替えるのは面倒だもん」

 嬉しそうに言い、水着の上にパーカーを羽織る。
 そしてそのまま、下に降りて行った。

「課長たち~。おはよう~」

「おや、おはよう派遣ちゃん。つか、もう着替えたのか」

 キッチンで朝食を作っていた清五郎が、少し驚いたように声をかける。

「あれ、早いですね~。もうご飯作ってたんだ」

「おっさんは朝が早いのさ」

 笑いながらウインナーを炒める。
 おっさんというわりには、相変わらず朝から爽やかだ。

「あれ、課長は?」

「真砂はシャワーだよ」

 女子陣はまとめてお風呂に入ることに、そう抵抗はないが、男同士だとさすがに嫌らしい。
 広いとはいえ、温泉ではないのだ。
 一人ずつ入っていると時間がかかるので、真砂は朝にしたらしい。

「あんちゃ~ん。起きなさ~い」

 ててて、と深成が、まだ布団に寝転んでいる捨吉のほうに走って行く。
 が、フローリングの上に敷いた布団で滑ってしまう。

「うにゃんっ!」

 深成は派手に、捨吉の上にダイブした。

「うげっ! み、深成~。何いきなり突っ込んできてるんだよ」

「ご、ごめ~ん。滑っちゃったんだよぅ」

 ダイブしたので、当然深成は捨吉の上だ。
 が、そんなこと気にもしないで、捨吉はわしわしと深成の頭を撫でる。

「起こすなら、もっと優しく起こしてよね」

「そのつもりだったんだけど、転んじゃったんだって」

 まるで兄と妹である。
 ここまでくっついていても違和感がない。

 が、そんな二人の横では、同じく騒ぎで起きた羽月が微妙な顔で見ており、ロフトからは殺気を含んだ鋭い視線が注がれている。
 そして。

「捨吉くぅ~ん、おっはよ~」

 どたどたどた、とコテージを揺るがせて、ゆいがロフトから駆け下りる。
 そのまま深成と同じように、捨吉に飛び込もうとするが。

「あ、おはよう、ゆいさん」

 言い様、ぱっと捨吉が深成と共に横に避け、布団を蹴ってゆいの前に盛り上げる。
 その布団に、ゆいは頭から突っ込んだ。

「危ないよ。気を付けないと」

 にこりと笑って、さっさとキッチンに向かう。
 布団を被ったまま呆然とするゆいを、ロフトの上から千代とあきが、呆れたような目で見た。



 晴天の下、昨日の子供組プラス千代が、水飛沫を上げて遊んでいる。

「ほんっと、あいつらは無駄に元気だな」

 砂浜のパラソルの下で、寝転んでいる真砂が言う。
 清五郎も足を投げ出し、はしゃぐ部下らを見た。

「けどまぁ、目の保養だぜ」

 何気にセクハラ発言だが、爽やか清五郎は結構何を言ってもいやらしくない。
 とはいえ目の保養と言えるのは一名だけかもしれない。

 あきはラッシュガードだし、深成はセパレート水着なのに色気は皆無だ。
 ちょっと小さいTシャツと短パンにしか見えない。

 ゆいと千代がビキニだ。
 が、差は一目瞭然。
 千代はさすがに男の目を惹くが、ゆいは違う意味で誰の目をも引く。

「千代姐さん。日焼け、気にならないんですか?」

 ビーチボールを飛ばしながら、あきが千代に言う。
 女のあきでさえ、千代のビキニ姿は圧倒される。
 出るところは徹底的に出、引っ込むところはきゅっとしまっている。
 ビキニを着るためにあるような身体だ。

「日焼け止めは塗ってるよ。でもやっぱり焼けちゃうだろ。変に焼けるよりは、下着っぽく残ったほうが、後がマシかな、と思って」

「なるほど。ところでゆいちゃん。その水着、小さくないの?」

 あきはゆいの水着が気になっていた。
 また凄い格好をするのかも、とは思っていたが、想像を超えていたのだ。
 ある意味いつでも期待を裏切らない。

 ゆいはにやりと笑うと、つつ、とあきに近付いた。

「馬鹿ね。水着は小さめのほうがいいのよ」

 こそっと言う。
 あきが疑問符を浮かべると、ゆいは、ふふっと笑って胸を突き出した。

「ほら。小さめだと、胸が強調されるでしょ。グラビアアイドルだって小さめの水着を着てるのよ」

「……へー、そう」

 冷めた目で、あきはゆいから視線を切り、改めて千代を見た。
 そんな小細工をしなくても、美しいものは美しいものなのだな、としみじみ思う。
 確かにビキニが食い込んで色っぽいかもしれないが、ゆいは胸に食い込む量よりも、腹に食い込む量のほうが多いのだ。

「あんたも、そんな露出のないような水着じゃ、悩殺出来ないわよ」

「そうかもね。まぁ頑張ってね」

 そのお目当ての捨吉は、千代と深成と一緒にサメの浮き輪で遊んでいる。
 羽月は千代の水着姿を正視出来ないようで、さらに深成のことも気になり、遠慮がちにしている。

「あきちゃ~ん! ボール貸して~っ」

 不意に深成が、てててーっと駆けて来た。
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