小咄
そんな日々がしばらく続き、いよいよ明日は実力テスト当日という日。
図書館の閉館のメロディーを聞きながら、深成は勉強道具を片付けた。
「いよいよ明日ですね~。でも先輩のお蔭で、ちょっと自信出て来た」
真砂の教え方は上手だった。
初めこそどきどきしてなかなか頭に入らなかったが、毎日隣で教えて貰っているうちに、それにも慣れた。
「結果が楽しみだな」
「うん。先輩も、今回も一位目指して頑張ってくださいね」
言いつつ、二人で図書館を出る。
ふと、深成は寂しくなった。
今日で真砂と二人で放課後会えるのも最後だ。
---まさかテストのたびにお勉強見て貰うわけにもいかないし---
真砂だって受験生だ。
そうそう深成に構ってはいられないだろう。
---ていうか、何で先輩は、わらわの勉強見てくれたんだろう……---
真砂が前から深成を知っていたとは思えない。
初めに図書館で会ったときの反応から、真砂が深成を知ったのは、その日学校の廊下でぶつかったときだろう。
---そういえば、何で真砂先輩には彼女がいないんだろう。こんなに格好良いのに---
もっとも深成はまだ一年生だ。
深成が入学する前のことは知らないが。
何となく、さっさと別れたくないこともあり、深成は真砂に聞いてみた。
「ねぇ先輩。先輩って、何で誰とも付き合わないの?」
ゆるゆる歩きながら、真砂が深成を見た。
「あんなに人気あるのにさ。わらわ、最近みんなに凄いいろいろ聞かれるし」
「……お前のほうが迷惑被ってるじゃないか」
「う、でも、それは仕方ないよ。もしあきちゃんが先輩にお勉強教えて貰ってるって知ったら、わらわもお話聞きたいし」
「何を聞きたいんだよ。そんなん知ってどうするんだ」
「先輩、人気者だもん。でも彼女もいないし結構謎だもん」
「彼女なんて面倒臭い。ちょっと放っておいたら怒るしよ。毎晩毎晩喋ることなんてねぇっての」
吐き捨てるように言う。
やはり、今まで誰とも付き合ったことがないわけではないようだ。
だが長続きはしないのだろう。
「それはさぁ、先輩、大して好きじゃないんでしょ。告白されたから、とりあえず付き合ってみました、て感じじゃないの?」
「普通はそうじゃないのか?」
「違うよぅ。だってこっちは好きだから告白するんだよ。で、応えてくれたら好かれてるって思うじゃん」
「そんなもん、あり得ないだろ。告白された時点でお互いに好きってことじゃないか」
う、と深成が口を噤む。
確かにそうだが、そんな風に考えたことはなかった。
十代とは思えない、恐ろしいほどの現実主義だ。
なるほど、この性格なら彼女がいないのも頷けるかも、と何気に失礼なことを思っていると、真砂が駅前広場で足を止めた。
「例えば俺が、お前と付き合いたいと言ったらどうする?」
「うええぇぇっ?」
いきなりな告白に、深成は瞬間的に真っ赤になった。
幸い外は暗いのでわからないだろうが。
「そそそ、それは誠にありがたくお受けしたいところですがっ!」
真っ赤になりながらも深成が言うと、真砂は意外そうな顔をした。
「そうなのか? だってお前、俺の事そんなに知らないだろ。なのに何でありがたいとか思うんだよ」
例え今初めて真砂を見たのであっても、この外見の良さであれば一目惚れ必至だ。
断ることなど欠片も頭にないが、真砂にはそれがわからないらしい。
「お前だって、告白されたらとりあえず付き合ってみるってことだろ」
「違います! 好きでもない人に告白されたって嬉しくないもん。ていうか先輩のそれとは、多分感覚が違いますよ。先輩、付き合ったって相手のこと考えて行動しないでしょ。自分の今までの行動、変えたりしないんじゃないですか?」
何となくわかるのだ。
確かに世間の人間も、告白されたらとりあえず付き合うことはあろう。
だが付き合ってから相手を知ろうとするだろうし、それによって徐々に相手を好きになっていくのではないか。
それが、真砂には感じられない。
とりあえず付き合った相手のことは、本当にいつまでも『とりあえず』の位置なのだ。
興味も持たなければ知ろうともしない。
故に平気で放っておける。
そしてその態度を隠そうともしない。
だから長続きしないのだ。
「何で好きでもない奴のことを考えて、自分の行動を変えないといかんのだ」
「そう思うのなら、何で好きでもない人と付き合ったりするんですか」
真砂の冷たさが悲しくなり、深成は責めるように訴えた。
「先輩、女の子のこと考えなさすぎ。告白するのだって勇気がいるんですよ。一大決心して告白してOK貰ったら、それはそれは嬉しいものなんです。なのにいざ付き合ったら、ちっとも好いてくれないなんて、酷いじゃないですか」
「俺のことを大して知りもしないくせに、えらいこき下ろしてくれるじゃないか。俺がぺろっと付き合いたいと言ったらとりあえずOKするお前と、どう違うんだよ」
さすがに真砂も気を悪くしたようだ。
少し声が荒くなる。
だが深成も腹が立ち、同時に涙がせり上がる。
「違うもんっ! わらわは先輩のこと好きだもん! だから告白してくれたら嬉しいんだもんっ! わらわは先輩とぶつかるずっと前から先輩のことは知ってたもん! ずっと好きだったんだもんっ!」
どこかのゆるキャラのような言葉遣いだと気付くこともなく、あまりの剣幕に真砂が怯む。
深成はぼろぼろと涙を流しながら一気に言うと、キッと真砂を睨んだ。
「でも、そんな先輩は嫌い!」
噛みつくように言うと、深成は身を翻して、だーっと駆けて行った。
図書館の閉館のメロディーを聞きながら、深成は勉強道具を片付けた。
「いよいよ明日ですね~。でも先輩のお蔭で、ちょっと自信出て来た」
真砂の教え方は上手だった。
初めこそどきどきしてなかなか頭に入らなかったが、毎日隣で教えて貰っているうちに、それにも慣れた。
「結果が楽しみだな」
「うん。先輩も、今回も一位目指して頑張ってくださいね」
言いつつ、二人で図書館を出る。
ふと、深成は寂しくなった。
今日で真砂と二人で放課後会えるのも最後だ。
---まさかテストのたびにお勉強見て貰うわけにもいかないし---
真砂だって受験生だ。
そうそう深成に構ってはいられないだろう。
---ていうか、何で先輩は、わらわの勉強見てくれたんだろう……---
真砂が前から深成を知っていたとは思えない。
初めに図書館で会ったときの反応から、真砂が深成を知ったのは、その日学校の廊下でぶつかったときだろう。
---そういえば、何で真砂先輩には彼女がいないんだろう。こんなに格好良いのに---
もっとも深成はまだ一年生だ。
深成が入学する前のことは知らないが。
何となく、さっさと別れたくないこともあり、深成は真砂に聞いてみた。
「ねぇ先輩。先輩って、何で誰とも付き合わないの?」
ゆるゆる歩きながら、真砂が深成を見た。
「あんなに人気あるのにさ。わらわ、最近みんなに凄いいろいろ聞かれるし」
「……お前のほうが迷惑被ってるじゃないか」
「う、でも、それは仕方ないよ。もしあきちゃんが先輩にお勉強教えて貰ってるって知ったら、わらわもお話聞きたいし」
「何を聞きたいんだよ。そんなん知ってどうするんだ」
「先輩、人気者だもん。でも彼女もいないし結構謎だもん」
「彼女なんて面倒臭い。ちょっと放っておいたら怒るしよ。毎晩毎晩喋ることなんてねぇっての」
吐き捨てるように言う。
やはり、今まで誰とも付き合ったことがないわけではないようだ。
だが長続きはしないのだろう。
「それはさぁ、先輩、大して好きじゃないんでしょ。告白されたから、とりあえず付き合ってみました、て感じじゃないの?」
「普通はそうじゃないのか?」
「違うよぅ。だってこっちは好きだから告白するんだよ。で、応えてくれたら好かれてるって思うじゃん」
「そんなもん、あり得ないだろ。告白された時点でお互いに好きってことじゃないか」
う、と深成が口を噤む。
確かにそうだが、そんな風に考えたことはなかった。
十代とは思えない、恐ろしいほどの現実主義だ。
なるほど、この性格なら彼女がいないのも頷けるかも、と何気に失礼なことを思っていると、真砂が駅前広場で足を止めた。
「例えば俺が、お前と付き合いたいと言ったらどうする?」
「うええぇぇっ?」
いきなりな告白に、深成は瞬間的に真っ赤になった。
幸い外は暗いのでわからないだろうが。
「そそそ、それは誠にありがたくお受けしたいところですがっ!」
真っ赤になりながらも深成が言うと、真砂は意外そうな顔をした。
「そうなのか? だってお前、俺の事そんなに知らないだろ。なのに何でありがたいとか思うんだよ」
例え今初めて真砂を見たのであっても、この外見の良さであれば一目惚れ必至だ。
断ることなど欠片も頭にないが、真砂にはそれがわからないらしい。
「お前だって、告白されたらとりあえず付き合ってみるってことだろ」
「違います! 好きでもない人に告白されたって嬉しくないもん。ていうか先輩のそれとは、多分感覚が違いますよ。先輩、付き合ったって相手のこと考えて行動しないでしょ。自分の今までの行動、変えたりしないんじゃないですか?」
何となくわかるのだ。
確かに世間の人間も、告白されたらとりあえず付き合うことはあろう。
だが付き合ってから相手を知ろうとするだろうし、それによって徐々に相手を好きになっていくのではないか。
それが、真砂には感じられない。
とりあえず付き合った相手のことは、本当にいつまでも『とりあえず』の位置なのだ。
興味も持たなければ知ろうともしない。
故に平気で放っておける。
そしてその態度を隠そうともしない。
だから長続きしないのだ。
「何で好きでもない奴のことを考えて、自分の行動を変えないといかんのだ」
「そう思うのなら、何で好きでもない人と付き合ったりするんですか」
真砂の冷たさが悲しくなり、深成は責めるように訴えた。
「先輩、女の子のこと考えなさすぎ。告白するのだって勇気がいるんですよ。一大決心して告白してOK貰ったら、それはそれは嬉しいものなんです。なのにいざ付き合ったら、ちっとも好いてくれないなんて、酷いじゃないですか」
「俺のことを大して知りもしないくせに、えらいこき下ろしてくれるじゃないか。俺がぺろっと付き合いたいと言ったらとりあえずOKするお前と、どう違うんだよ」
さすがに真砂も気を悪くしたようだ。
少し声が荒くなる。
だが深成も腹が立ち、同時に涙がせり上がる。
「違うもんっ! わらわは先輩のこと好きだもん! だから告白してくれたら嬉しいんだもんっ! わらわは先輩とぶつかるずっと前から先輩のことは知ってたもん! ずっと好きだったんだもんっ!」
どこかのゆるキャラのような言葉遣いだと気付くこともなく、あまりの剣幕に真砂が怯む。
深成はぼろぼろと涙を流しながら一気に言うと、キッと真砂を睨んだ。
「でも、そんな先輩は嫌い!」
噛みつくように言うと、深成は身を翻して、だーっと駆けて行った。