小咄
土曜日の十時前。
待ち合わせ場所で、深成はどきどきしながら真砂を待っていた。
朝早く起き出し、散々迷った末に選んだのはシンプルなミニワンピ。
あまり気合を入れ過ぎて引かれても困るので、髪もゆるくハーフアップにまとめた。
あとは小さい斜め掛けバッグをかけている。
ちらりと時計を見ると、もうすぐ待ち合わせ時間。
---そういや先輩の私服ってどんなんだろ。髪型とかも変わってたりするの? 緊張するなぁ---
何しろ初デートだ。
どきどきと落ち着きなく周りを見ていると、向こうのほうから歩いてくる真砂が目に入った。
ジーンズに黒いTシャツ。
その上にチェックのシャツを羽織ってる。
思い切り手ぶらだ。
髪型もいつもと同じ、少し長めの髪を、そのまま自然に降ろしているだけ。
至ってシンプルな格好だが、すれ違う人は皆目を奪われていく。
そんな周りの目は全く気にせず、真砂は深成を見つけると、軽く片手を挙げた。
「先輩っ」
てててっと深成が駆け寄ると、真砂はごく自然に彼女の手を取った。
「結構な人だなぁ。映画は二時からだから、軽くその辺を回って、早めに飯食うか」
「うん」
繋がれた手に、またどきどきしながら、深成は大人しく真砂について行った。
映画は白うさぎなのにお腹だけが黒い、鈍臭いうさぎが、悪者のおおかみの脅威から魔法とかげと共に仲間を守り、一躍ヒーローになる、という物語だ。
「……腹黒って、そういう意味か……」
映画の冒頭で、真砂がぼそっと呆れたように呟いた。
他にも何故相棒がとかげなのかとか、いろいろ突っ込み処はあったと思われるが。
映画の終盤で、うさぎがいよいよおおかみと対峙する。
わくわくと密かに拳を握りしめてスクリーンに食い入っていた深成は、ふと右肩に重みを感じた。
ちろ、と見ると、真砂の頭が目に入る。
「!!」
瞬間的に、深成の心拍数が跳ね上がる。
真砂のほうが当然背が高いので、深成の肩に頭が乗るようなことにはなっていないが、肩が深成にもたれている。
真砂の頭は、深成の頬に触れそうだ。
---ひゃああぁぁぁ---
どきどきしながらも、深成は少しだけ首を動かして、真砂を見た。
---意外とまつ毛長いんだ……。髪も柔らかい。先輩を上から見るなんてこと出来ないもんね---
寝ているのをいいことに、深成はまじまじと真砂を観察した。
「先輩、よく寝てたねぇ」
映画の後でベンチに座り、クレープを頬張りながら深成が言う。
「つまんなかった?」
「いや、意外と面白かった。まぁ初めのほうしか覚えてないけど」
ペットボトルに口を付け、真砂はちら、と深成を見た。
「寝ないようにと思ってたんだけどな。やっぱり何となく寝不足だったか」
「え、もしかして、やっぱりお勉強が忙しい?」
やはりデートなどしている場合ではなかったかと、深成が焦る。
「ごめんなさい。やっぱり先輩、受験生だし遊んでられないよね」
しょぼん、と項垂れる深成に、今度は真砂が焦ったようだ。
「そんなことじゃない。そんな勉強ばっかりしてるわけじゃないしな。俺だって今日は楽しみだったんだ」
え、と深成が顔を上げると、真砂は、ぱっと視線を外す。
そして照れ臭そうに頭を掻いた。
「俺も、もっとお前と会いたいと思ってた。いい加減どっか遊びに行こうかと思ってたんだ。誰かと遊びに行くのがこんなに楽しみなのは初めてで……」
ここまで言って、真砂は、ごほんと一つ咳払いをした。
珍しく、顔が赤い。
「……実は昨夜、あんまり寝られなかったんだ」
視線を外したまま、小さく言う。
深成は不思議なものを見るような目で、じっと真砂を見た。
「だって先輩。何もわらわが初めての彼女じゃないでしょ?」
わらわは初めての彼氏だけど、と思いつつ深成が言うと、真砂はちょっと渋い顔になった。
「俺がちゃんと好きだと思ったのはお前だけだ」
よくよく考えると、えらい酷いことを言っていると思うのだが、深成は、へにゃ、と笑顔になった。
いそいそと真砂との間を詰めると、ぴたりと横に引っ付いて、きゅ、と手を握る。
「えへへ。わらわも先輩、大好き」
にこ、と笑う深成に、やはり真砂は咳払いをしつつ視線を逸らすのであった。
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
学生バージョン初デート編。初々し~~( ̄д ̄).。oO
真砂も結構子供っぽいかも。とても照れ屋さんです。
でも言うことは言う。
最近の若者はやたらと荷物が多いように思いますが、男は手ぶらが基本だろ。
てことで真砂も手ぶら。財布と携帯inポッケ。
いいですね、学生の手繋ぎデート。
そしてこの映画、きっと最後は皆で踊るのでしょうね。
『舞踏会』だからね(忘れていたともいう)。
このバージョンでは、季節は冬ではないと思ってください。
さすがに冬に受験生が遊んではいられないでしょ。
それにしても結構いつでも深成に「大好き」と言って貰える真砂は幸せですね。
いつでもかなり自分勝手な俺様なのにね(-_-;)
2016/01/08 藤堂 左近
待ち合わせ場所で、深成はどきどきしながら真砂を待っていた。
朝早く起き出し、散々迷った末に選んだのはシンプルなミニワンピ。
あまり気合を入れ過ぎて引かれても困るので、髪もゆるくハーフアップにまとめた。
あとは小さい斜め掛けバッグをかけている。
ちらりと時計を見ると、もうすぐ待ち合わせ時間。
---そういや先輩の私服ってどんなんだろ。髪型とかも変わってたりするの? 緊張するなぁ---
何しろ初デートだ。
どきどきと落ち着きなく周りを見ていると、向こうのほうから歩いてくる真砂が目に入った。
ジーンズに黒いTシャツ。
その上にチェックのシャツを羽織ってる。
思い切り手ぶらだ。
髪型もいつもと同じ、少し長めの髪を、そのまま自然に降ろしているだけ。
至ってシンプルな格好だが、すれ違う人は皆目を奪われていく。
そんな周りの目は全く気にせず、真砂は深成を見つけると、軽く片手を挙げた。
「先輩っ」
てててっと深成が駆け寄ると、真砂はごく自然に彼女の手を取った。
「結構な人だなぁ。映画は二時からだから、軽くその辺を回って、早めに飯食うか」
「うん」
繋がれた手に、またどきどきしながら、深成は大人しく真砂について行った。
映画は白うさぎなのにお腹だけが黒い、鈍臭いうさぎが、悪者のおおかみの脅威から魔法とかげと共に仲間を守り、一躍ヒーローになる、という物語だ。
「……腹黒って、そういう意味か……」
映画の冒頭で、真砂がぼそっと呆れたように呟いた。
他にも何故相棒がとかげなのかとか、いろいろ突っ込み処はあったと思われるが。
映画の終盤で、うさぎがいよいよおおかみと対峙する。
わくわくと密かに拳を握りしめてスクリーンに食い入っていた深成は、ふと右肩に重みを感じた。
ちろ、と見ると、真砂の頭が目に入る。
「!!」
瞬間的に、深成の心拍数が跳ね上がる。
真砂のほうが当然背が高いので、深成の肩に頭が乗るようなことにはなっていないが、肩が深成にもたれている。
真砂の頭は、深成の頬に触れそうだ。
---ひゃああぁぁぁ---
どきどきしながらも、深成は少しだけ首を動かして、真砂を見た。
---意外とまつ毛長いんだ……。髪も柔らかい。先輩を上から見るなんてこと出来ないもんね---
寝ているのをいいことに、深成はまじまじと真砂を観察した。
「先輩、よく寝てたねぇ」
映画の後でベンチに座り、クレープを頬張りながら深成が言う。
「つまんなかった?」
「いや、意外と面白かった。まぁ初めのほうしか覚えてないけど」
ペットボトルに口を付け、真砂はちら、と深成を見た。
「寝ないようにと思ってたんだけどな。やっぱり何となく寝不足だったか」
「え、もしかして、やっぱりお勉強が忙しい?」
やはりデートなどしている場合ではなかったかと、深成が焦る。
「ごめんなさい。やっぱり先輩、受験生だし遊んでられないよね」
しょぼん、と項垂れる深成に、今度は真砂が焦ったようだ。
「そんなことじゃない。そんな勉強ばっかりしてるわけじゃないしな。俺だって今日は楽しみだったんだ」
え、と深成が顔を上げると、真砂は、ぱっと視線を外す。
そして照れ臭そうに頭を掻いた。
「俺も、もっとお前と会いたいと思ってた。いい加減どっか遊びに行こうかと思ってたんだ。誰かと遊びに行くのがこんなに楽しみなのは初めてで……」
ここまで言って、真砂は、ごほんと一つ咳払いをした。
珍しく、顔が赤い。
「……実は昨夜、あんまり寝られなかったんだ」
視線を外したまま、小さく言う。
深成は不思議なものを見るような目で、じっと真砂を見た。
「だって先輩。何もわらわが初めての彼女じゃないでしょ?」
わらわは初めての彼氏だけど、と思いつつ深成が言うと、真砂はちょっと渋い顔になった。
「俺がちゃんと好きだと思ったのはお前だけだ」
よくよく考えると、えらい酷いことを言っていると思うのだが、深成は、へにゃ、と笑顔になった。
いそいそと真砂との間を詰めると、ぴたりと横に引っ付いて、きゅ、と手を握る。
「えへへ。わらわも先輩、大好き」
にこ、と笑う深成に、やはり真砂は咳払いをしつつ視線を逸らすのであった。
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
学生バージョン初デート編。初々し~~( ̄д ̄).。oO
真砂も結構子供っぽいかも。とても照れ屋さんです。
でも言うことは言う。
最近の若者はやたらと荷物が多いように思いますが、男は手ぶらが基本だろ。
てことで真砂も手ぶら。財布と携帯inポッケ。
いいですね、学生の手繋ぎデート。
そしてこの映画、きっと最後は皆で踊るのでしょうね。
『舞踏会』だからね(忘れていたともいう)。
このバージョンでは、季節は冬ではないと思ってください。
さすがに冬に受験生が遊んではいられないでしょ。
それにしても結構いつでも深成に「大好き」と言って貰える真砂は幸せですね。
いつでもかなり自分勝手な俺様なのにね(-_-;)
2016/01/08 藤堂 左近