小咄
とある転校生の恋愛事情
【キャスト】
転校生:六郎 三年生:真砂 一年生:深成・あき
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
とある放課後。
深成は鞄を持って、正門の横の花壇に座っていた。
---今日は図書館に寄ろうかな。そしたら先輩と、ちょっと長くいられるし---
真砂を待ちながら、図書館で借りた『主婦ミラ子シリーズ』を読み返す。
真砂と付き合いだして二か月弱。
初デートの後は前にも増して順調だ。
電話はあまりないが、帰りにちょいちょい寄り道したり、小さなデートを重ねている。
休日を一日潰してのデートは真砂が受験生ということもあって、初デートを含めまだ二回しかしていないが、深成は帰り道での小さなデートでも満足だ。
今日も図書館デートを計画し、まだかな、と顔を上げた深成は、校舎から出てきた人物に目を見開いた。
「六郎兄ちゃん?」
出てきたのは深成の幼馴染だ。
六郎のほうが年上だが、家が隣同士だったことで小さい頃からよく遊んで貰っていた。
だが大分前に引っ越してしまっていたのだ。
「深成ちゃん!」
六郎も嬉しそうに駆け寄ってくる。
「どうしたの? 何でうちの学校に?」
「転校してきたんだ。今日から一緒の学校だよ」
「えっほんとに?」
きゃきゃきゃ、と嬉しそうに笑って、深成が六郎を見上げる。
そんな深成を、六郎は眩しそうに見た。
「深成ちゃん、変わらないねぇ」
「そんなことないよっ。わらわも十五歳なんだから」
「そっかぁ。大きくなったね」
「六郎兄ちゃんは三年だよね? だったらそうそう会えないかもね」
そんな話をしていると、真砂が歩いてきた。
今日来たばかりの転入生と親しげに話している深成を見、眉を顰める。
「あっ! せんぱぁ~い」
真砂の不機嫌さには全く気付かず、深成がぶんぶんと手を振る。
「あれっ」
六郎も振り向き、真砂を見た。
「確か同じクラスだよね」
深成と会えて機嫌のいい六郎が、笑顔で真砂に話しかける。
が、真砂は仏頂面のまま、ああ、と短く応えて、顎で深成を促した。
そのまま、とっとと歩いていく。
「あっ。じゃあね、六郎兄ちゃん。またね!」
慌てて深成が真砂を追う。
唖然と六郎が見送る前で、深成は真砂に追いつくと、何か彼に話しかけた。
一言二言言葉を交わし、真砂が深成の手を取る。
---えっ……---
そのまま手を繋いで駅のほうへ歩いていく二人を、六郎は驚いた顔で見つめた。
---み、深成ちゃんと手を繋いだ。何だ、あの男は---
今日転入したクラスにいた男だ。
周りの者と明らかに纏う空気が違ったので目立った。
恐ろしく整った外見だが、恐ろしく他人を寄せ付けない。
今日一日しか見ていないが、一度も笑顔を見なかった。
そんな男と深成の接点など想像もつかない。
---いや待て。深成ちゃんはまだ一年生だ。あの幼さだし、最上級生のあいつが送ることになっているのかも。そうだ、きっとそうに違いない---
小学六年生が一年生を送り迎えするようなものなのだろう、と気付き(高校生だっつーの)、六郎はとりあえず気持ちを落ち着けて、自分も校門をくぐった。
「あいつは何だ?」
図書館に向かう道すがら、真砂が深成に聞いた。
六郎のようにぐるぐる自分で考えない直球だ。
しかも不機嫌さも全開である。
「あいつ? ああ、六郎兄ちゃん? 転校してきたんだってね。あ! そういえば、先輩とおんなじクラスだって、さっき言ってた?」
「ああ。知り合いか?」
「うん。幼馴染なの。昔はお家が近くてね、よく一緒に遊んでたんだぁ」
にこにこと言う。
若干機嫌の直った真砂が、ふぅん、と呟いた。
「久しぶりだったなぁ。六郎兄ちゃん、結構大人しいから、先輩、仲良くしてあげてね」
「それはあいつ次第だな」
単なる幼馴染だろうが、深成にべたべたするようであれば、真砂にとっては敵である。
だが深成は意味がわからず、きょとんとした。
「次の休み、どっか行くか?」
「うん!」
先の疑問など真砂の誘いで一瞬のうちに掻き消え、深成は嬉しそうに大きく頷いた。
転校生:六郎 三年生:真砂 一年生:深成・あき
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
とある放課後。
深成は鞄を持って、正門の横の花壇に座っていた。
---今日は図書館に寄ろうかな。そしたら先輩と、ちょっと長くいられるし---
真砂を待ちながら、図書館で借りた『主婦ミラ子シリーズ』を読み返す。
真砂と付き合いだして二か月弱。
初デートの後は前にも増して順調だ。
電話はあまりないが、帰りにちょいちょい寄り道したり、小さなデートを重ねている。
休日を一日潰してのデートは真砂が受験生ということもあって、初デートを含めまだ二回しかしていないが、深成は帰り道での小さなデートでも満足だ。
今日も図書館デートを計画し、まだかな、と顔を上げた深成は、校舎から出てきた人物に目を見開いた。
「六郎兄ちゃん?」
出てきたのは深成の幼馴染だ。
六郎のほうが年上だが、家が隣同士だったことで小さい頃からよく遊んで貰っていた。
だが大分前に引っ越してしまっていたのだ。
「深成ちゃん!」
六郎も嬉しそうに駆け寄ってくる。
「どうしたの? 何でうちの学校に?」
「転校してきたんだ。今日から一緒の学校だよ」
「えっほんとに?」
きゃきゃきゃ、と嬉しそうに笑って、深成が六郎を見上げる。
そんな深成を、六郎は眩しそうに見た。
「深成ちゃん、変わらないねぇ」
「そんなことないよっ。わらわも十五歳なんだから」
「そっかぁ。大きくなったね」
「六郎兄ちゃんは三年だよね? だったらそうそう会えないかもね」
そんな話をしていると、真砂が歩いてきた。
今日来たばかりの転入生と親しげに話している深成を見、眉を顰める。
「あっ! せんぱぁ~い」
真砂の不機嫌さには全く気付かず、深成がぶんぶんと手を振る。
「あれっ」
六郎も振り向き、真砂を見た。
「確か同じクラスだよね」
深成と会えて機嫌のいい六郎が、笑顔で真砂に話しかける。
が、真砂は仏頂面のまま、ああ、と短く応えて、顎で深成を促した。
そのまま、とっとと歩いていく。
「あっ。じゃあね、六郎兄ちゃん。またね!」
慌てて深成が真砂を追う。
唖然と六郎が見送る前で、深成は真砂に追いつくと、何か彼に話しかけた。
一言二言言葉を交わし、真砂が深成の手を取る。
---えっ……---
そのまま手を繋いで駅のほうへ歩いていく二人を、六郎は驚いた顔で見つめた。
---み、深成ちゃんと手を繋いだ。何だ、あの男は---
今日転入したクラスにいた男だ。
周りの者と明らかに纏う空気が違ったので目立った。
恐ろしく整った外見だが、恐ろしく他人を寄せ付けない。
今日一日しか見ていないが、一度も笑顔を見なかった。
そんな男と深成の接点など想像もつかない。
---いや待て。深成ちゃんはまだ一年生だ。あの幼さだし、最上級生のあいつが送ることになっているのかも。そうだ、きっとそうに違いない---
小学六年生が一年生を送り迎えするようなものなのだろう、と気付き(高校生だっつーの)、六郎はとりあえず気持ちを落ち着けて、自分も校門をくぐった。
「あいつは何だ?」
図書館に向かう道すがら、真砂が深成に聞いた。
六郎のようにぐるぐる自分で考えない直球だ。
しかも不機嫌さも全開である。
「あいつ? ああ、六郎兄ちゃん? 転校してきたんだってね。あ! そういえば、先輩とおんなじクラスだって、さっき言ってた?」
「ああ。知り合いか?」
「うん。幼馴染なの。昔はお家が近くてね、よく一緒に遊んでたんだぁ」
にこにこと言う。
若干機嫌の直った真砂が、ふぅん、と呟いた。
「久しぶりだったなぁ。六郎兄ちゃん、結構大人しいから、先輩、仲良くしてあげてね」
「それはあいつ次第だな」
単なる幼馴染だろうが、深成にべたべたするようであれば、真砂にとっては敵である。
だが深成は意味がわからず、きょとんとした。
「次の休み、どっか行くか?」
「うん!」
先の疑問など真砂の誘いで一瞬のうちに掻き消え、深成は嬉しそうに大きく頷いた。