小咄
 次の日の朝、家を出るなり深成は六郎に捕まった。

「深成ちゃん! 深成ちゃん、もしかして苛められてるんじゃないのか?」

 険しい顔で詰め寄る。

「え? ……え~と……何の話?」

「昨日のあいつは何だ! 大人しい深成ちゃんに目をつけて、自分の良いように弄んでるんじゃないか?」

「え、あ、あの。えっと、真砂先輩のこと……だよね? え、六郎兄ちゃん、おんなじクラスでしょ? 先輩、そんなことする人じゃないってわかるよね?」

 いきなり怒り顔の六郎にぐいぐい言われ、引きながら深成が言う。
 幼い深成を守らねばと思った矢先に、早々と己の目の前から攫われてしまった。
 六郎は悔しくて仕方ない。

「ごめんよ、深成ちゃん。深成ちゃんのことを心配だって言っておいて、あんな乱暴な奴に、目の前で連れ去られるなんて。自分が情けないよ」

 いかにもやり切れない、という風に、六郎が頭を振る。
 どうも昨日の帰り、目の前で深成が真砂に連れて行かれたのがショックだったようだ。
 が、深成にはさっぱりわけがわからない。

「……あの、六郎兄ちゃん? 何言ってるの?」

 心底困ったように言うが、六郎はまた、ぶんぶんと頭を振った。

「いいんだよ。言わなくても、私にはわかってるから。思えば私が深成ちゃんの傍に帰って来たのも、深成ちゃんを守りなさいっていう天の声なのかもしれない。任せておいて。今度こそ、絶対に守るから」

 がしっと深成の両肩を掴んで、強く言う。

「あいつが苛めっ子なんだろ? 私が今日、ばしっと言ってあげるよ。それで事態が悪くなっても、絶対に守るから!」

 高校生に『苛めっ子』もないだろうに。
 六郎は拳を握りしめると、ぎゅ、と深成の手を掴んで、学校へ向かった。

「六郎兄ちゃん~~。離してよぅ~~」

 学校が近付くにつれて、深成の足が重くなる。
 深成としては、六郎と手を繋いで登校するわけにはいかないからなのだが、六郎はそうは思わない。
 深成には自分がいる、ということを知らしめないと、彼女を守れない、という熱い想いがあるのだ。

 学校の正門が見えてくると、もう二人は注目の的だ。
 深成は泣きたくなった。

「離してよぅ~~。せんぱぁ~~い~~」

 このままじゃ真砂先輩に振られちゃう~、と心の中で叫び、深成は泣き声を上げた。

「泣くことないよ、大丈夫。私の存在をアピールしたほうが、深成ちゃんに手出し出来なくなるだろ? もし奴が私をターゲットにしても、私は平気だから!」

「せ、先輩が手出し出来なくなるって何! そんなのやだ~~!!」

 うわぁん、と泣き叫ぶ深成に、さすがに六郎も、あれ? と首を傾げた。
 何故先程から深成は、苛めっ子である真砂を呼ぶのだ?

 そのとき。

「……おいお前」

 少し後ろから、低い声がした。
 その声に、ぱっと深成が振り向く。
 そして、ぱぁっと顔を輝かせた。

「せんぱぁいっ!!」

 六郎の手を振りほどこうと、深成が少し暴れた。
 が、六郎は握った手に力を入れ、ぐい、と深成を自分の後ろに回す。

「い、痛いよぅ」

 手を強く掴まれた上に引っ張られ、深成の顔が歪む。
 それに反応したのは真砂のほうが早かった。
 足早に六郎に近付き、彼の肩を掴む。

「離せよ」

 六郎を射殺す勢いの鋭い視線で言う。
 ちょっと怯みながらも、六郎は真砂を睨み返した。

「そ、それは出来ん! 私は深成ちゃんを守る」

「何言ってるんだか。そいつが痛がってるだろ。痛めつけておいて、何が守るだ」

 馬鹿にしたように言う真砂に、ぐ、と言葉を詰まらせ、とりあえず六郎は深成の手を離した。

「おいで」

 真砂が言うと、またもぱぁっと嬉しそうな顔になって、深成が六郎の後ろから駆け出そうとする。
 深成の嬉しそうな顔に、密かに打ちのめされた六郎だが、はた、と我に返り、慌てて深成の腕を掴んで引き戻す。

「駄目だよ! 彼に苛められてるんだろ?」

「何言ってるの。先輩は、わらわの彼氏なんだから」

 ずばりと深成が言う。
 ぴき、と六郎の動きが止まった。

「わらわは先輩が大好きなの。入学してからずーっと好きだったの。先輩、格好良いから凄く人気あるんだけど、何とそんな先輩のほうから、わらわに告白してくれたんだよ。凄いでしょ? わらわ、すっごく幸せ」

 えへへへ、と笑う深成に、最早六郎は言葉も出ない。
 真砂は満足そうに口角を上げ、再び深成に片手を差し出した。

「おいで」

 もう一度言うと、深成は満面の笑みで真砂のほうに駆け寄り、彼の腕に飛びついた。
 ぺとりと引っ付く深成を連れて、真砂は六郎に思いっきり馬鹿にした目を向けると、勝ち誇ったように、ふふんと鼻を鳴らしてその場を去った。

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 学生バージョン転入生編。
 六郎……相変わらず壊れてます( ̄▽ ̄)
 一歩間違えればストーカーのような。

 六郎は元から深成を守るためにいるキャラでしたしね。
 それが現代では空回りしております。

 つか、六郎も人の話を聞かなさ過ぎなんですよ。
 思い込みが激し過ぎるんですね。

 最後に真砂は深成に向かって「おいで」と言ってます。
 通常であれば「来い」でしょうが、深成が泣いているので優しくしてみました。
 でも何か、犬に言ってるみたい( ̄▽ ̄;)

2016/01/23 藤堂 左近
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