小咄
さて時間は少し遡って同日。
捨吉も勝負に出ていた。
朝のうちにあきに連絡をし、デートの約束を取り付けた。
約束の六時に待ち合わせ場所に行くと、すでにあきの姿が。
「あ、ごめんね。待った?」
「ううん。さっき来たところ」
相変わらず学生のようなやり取りをし、予約していた店へ向かう。
「凄いわねぇ。こんなところ、初めて」
「そうだね。チケットでもないと来られないよね」
高級イタリアンのコース料理に、捨吉はワインをつけた。
「ハーフボトルだったら、二人で飲めるよね」
ワインで乾杯して、食事に取り掛かる。
「そういえば、今日会うんだったら、何も金曜日に慌ててチョコ渡さなくても良かったわね。もうちょっと、ちゃんとしたものあげることも出来たのに」
あきが言うと、捨吉はワインを飲みつつ、少し首を傾げる。
「貰ったものだって、ちゃんとしたものだったよ?」
「うん。でも、やっぱり手作りのほうがいいかな、と思うし」
どうしても、ゆいのことが頭にある。
今までの行動からしても、あきよりゆいのほうが傍目にも本気に見える。
今回のことなど、決定打ではないだろうか。
捨吉は、どう思ったのだろう。
---でも捨吉くんは、このチケットに一緒に行くのはあたしだって決めてくれてたって言ってた。あたしがチョコあげようとしたのと捨吉くんがこれに誘ってくれようとしたのは同時だったし、てことは、あたしがチョコあげなくても、捨吉くんはこれに誘ってくれたってことかな。お返しじゃない、みたいなことも言ってたし……---
う~ん、と考えつつ、捨吉を見る。
そこで、あれ、とあきは横に置いてあるワインのボトルに目をやった。
いつの間にやら、随分なくなっている。
「捨吉くん。今日は随分ペースが早いね。大丈夫?」
あきはまだ一杯目も空いていないが、捨吉はすでに三杯目だ。
そろそろボトルが空きそうである。
「ん、うん。やっぱりちょっとは、お酒の力を借りないと」
「?」
そういえば、何か今日の捨吉は口数も少ない。
「どうしたの? 風邪でも引いてる?」
バレンタインに合わすために、無理をしたのではなかろうか、と思ったあきだったが、捨吉は、いやいや、と手を振った。
そのままぽつぽつ当たり障りない会話をしながら食事をし、最後のデザートになった。
「美味しかったわね。このスフレも、すっごいふわふわ」
「さすがだよね。綿菓子みたいだ」
「あはは。やっぱり捨吉くんの表現は面白い」
楽しそうに笑うあきに、捨吉が手を止めた。
スプーンを置いて、姿勢を正す。
「あきちゃん」
「ん?」
美味しいスフレにすっかり気を取られていたあきは、思わぬ捨吉の固い表情に動きを止めた。
自然とあきも姿勢を正して捨吉を見る。
「あ、あの。あのさ。あきちゃんは、俺の気持ち、わかってくれてる?」
「……えっ」
「俺、結構はっきり、あきちゃんのことが好きだって言ってるよね」
「えっ……えっとぉ……」
言われてみれば、昨日もそんなことを言われた。
でもあまりにさらっとし過ぎていて、本気なんだか冗談なんだかわからない。
「だ、だって。いっつも捨吉くん、気付かないぐらいにしか言わないじゃない。別に返事を求めることもしないしさ。あたしだって、どうしていいのかわかんないわよ」
何故か不満をぶつける形になり、あきは慌てた。
折角良い雰囲気なのに、ここで喧嘩してどうする。
捨吉は一旦口を噤み、ぽりぽりと頭を掻いた。
「ま、まぁそうかもね。うん、俺もいきなり告白する勇気は、ちょっとなくて。ちょいちょい小出しにして、あきちゃんの反応を窺ってたかも」
「ひどーい。そういうことは、きっぱりはっきり言って欲しいわ」
「わかった」
そう言うと、捨吉は改めてあきを見た。
大きく息を吸い込み、がばっと頭を下げる。
「俺と、付き合ってください」
TV番組のようだな~、と思いつつ、あきは捨吉のつむじを見た。
単なる告白でこれなら、プロポーズなどどうなることやら、などと考え、一人赤くなる。
あきが勝手にいろいろ考えていると、捨吉が、ちら、と視線を上げた。
「あ、ととと。えっと、何て答えればいいのかな。うん、ありがとう」
はい、というのも何か恥ずかしい。
どこまでも固くなってしまう。
それこそプロポーズのようだ。
とりあえず、あきは笑顔を捨吉に向けた。
捨吉も勝負に出ていた。
朝のうちにあきに連絡をし、デートの約束を取り付けた。
約束の六時に待ち合わせ場所に行くと、すでにあきの姿が。
「あ、ごめんね。待った?」
「ううん。さっき来たところ」
相変わらず学生のようなやり取りをし、予約していた店へ向かう。
「凄いわねぇ。こんなところ、初めて」
「そうだね。チケットでもないと来られないよね」
高級イタリアンのコース料理に、捨吉はワインをつけた。
「ハーフボトルだったら、二人で飲めるよね」
ワインで乾杯して、食事に取り掛かる。
「そういえば、今日会うんだったら、何も金曜日に慌ててチョコ渡さなくても良かったわね。もうちょっと、ちゃんとしたものあげることも出来たのに」
あきが言うと、捨吉はワインを飲みつつ、少し首を傾げる。
「貰ったものだって、ちゃんとしたものだったよ?」
「うん。でも、やっぱり手作りのほうがいいかな、と思うし」
どうしても、ゆいのことが頭にある。
今までの行動からしても、あきよりゆいのほうが傍目にも本気に見える。
今回のことなど、決定打ではないだろうか。
捨吉は、どう思ったのだろう。
---でも捨吉くんは、このチケットに一緒に行くのはあたしだって決めてくれてたって言ってた。あたしがチョコあげようとしたのと捨吉くんがこれに誘ってくれようとしたのは同時だったし、てことは、あたしがチョコあげなくても、捨吉くんはこれに誘ってくれたってことかな。お返しじゃない、みたいなことも言ってたし……---
う~ん、と考えつつ、捨吉を見る。
そこで、あれ、とあきは横に置いてあるワインのボトルに目をやった。
いつの間にやら、随分なくなっている。
「捨吉くん。今日は随分ペースが早いね。大丈夫?」
あきはまだ一杯目も空いていないが、捨吉はすでに三杯目だ。
そろそろボトルが空きそうである。
「ん、うん。やっぱりちょっとは、お酒の力を借りないと」
「?」
そういえば、何か今日の捨吉は口数も少ない。
「どうしたの? 風邪でも引いてる?」
バレンタインに合わすために、無理をしたのではなかろうか、と思ったあきだったが、捨吉は、いやいや、と手を振った。
そのままぽつぽつ当たり障りない会話をしながら食事をし、最後のデザートになった。
「美味しかったわね。このスフレも、すっごいふわふわ」
「さすがだよね。綿菓子みたいだ」
「あはは。やっぱり捨吉くんの表現は面白い」
楽しそうに笑うあきに、捨吉が手を止めた。
スプーンを置いて、姿勢を正す。
「あきちゃん」
「ん?」
美味しいスフレにすっかり気を取られていたあきは、思わぬ捨吉の固い表情に動きを止めた。
自然とあきも姿勢を正して捨吉を見る。
「あ、あの。あのさ。あきちゃんは、俺の気持ち、わかってくれてる?」
「……えっ」
「俺、結構はっきり、あきちゃんのことが好きだって言ってるよね」
「えっ……えっとぉ……」
言われてみれば、昨日もそんなことを言われた。
でもあまりにさらっとし過ぎていて、本気なんだか冗談なんだかわからない。
「だ、だって。いっつも捨吉くん、気付かないぐらいにしか言わないじゃない。別に返事を求めることもしないしさ。あたしだって、どうしていいのかわかんないわよ」
何故か不満をぶつける形になり、あきは慌てた。
折角良い雰囲気なのに、ここで喧嘩してどうする。
捨吉は一旦口を噤み、ぽりぽりと頭を掻いた。
「ま、まぁそうかもね。うん、俺もいきなり告白する勇気は、ちょっとなくて。ちょいちょい小出しにして、あきちゃんの反応を窺ってたかも」
「ひどーい。そういうことは、きっぱりはっきり言って欲しいわ」
「わかった」
そう言うと、捨吉は改めてあきを見た。
大きく息を吸い込み、がばっと頭を下げる。
「俺と、付き合ってください」
TV番組のようだな~、と思いつつ、あきは捨吉のつむじを見た。
単なる告白でこれなら、プロポーズなどどうなることやら、などと考え、一人赤くなる。
あきが勝手にいろいろ考えていると、捨吉が、ちら、と視線を上げた。
「あ、ととと。えっと、何て答えればいいのかな。うん、ありがとう」
はい、というのも何か恥ずかしい。
どこまでも固くなってしまう。
それこそプロポーズのようだ。
とりあえず、あきは笑顔を捨吉に向けた。