小咄
そして放課後。
てこてこと、深成は教室を出て正門に向かっていた。
今日も真砂はいない。
一昨日の模試の結果を貰いに行く、と聞いていた。
その真砂は、相変わらずチョコを持ってくる女子たちを蹴散らしながら、教室を出ようとしているところだった。
そこへ、六郎が立ちはだかる。
「ちょっと待ちたまえ。君のその態度は何なんだ」
思いっきり胡乱な目で、真砂が六郎を見る。
が、六郎は深成までも傷つけた(と思い込んでいる)ことが許せない上に、その深成からチョコを貰ったことで、パワーが漲っているので怯まない。
「他の子に対してはともかく、深成ちゃんにまで同じ態度をとるのはおかしいではないか。やはり付き合っているとかいって、実は彼女を弄んでいるだけなのか」
「はぁ? 何を言っている」
眉間に皺を寄せて、真砂が六郎を睨む。
「君がそのつもりなら、やはり深成ちゃんは私が貰い受ける。いい加減深成ちゃんも、大事にしてくれないような奴よりも、ちゃんと自分を見てくれる私のほうがいいと思ったことだろう。深成ちゃんのチョコは、私が貰ったし」
「何だと?」
ただただ鬱陶しそうなだけだった真砂の表情が一変した。
鋭い視線には、殺気さえ含まれている。
「君が怒る資格はない。深成ちゃんのチョコを他の子と同じように、気遣いなく断ったのだろう? 可哀想に、泣いていたぞ」
「何のことだ。俺は一昨日から、あいつに会っていない」
僅かに六郎が、驚いた顔をした。
だが六郎の怒りは別の方向へ向く。
「だとしても! この時期だ。チョコを用意していることぐらいわかるだろう! 何でそんな時期に放っておくんだ! 受け取る気がないなら、前もって言ってやればいいではないか」
「受け取る気がないなど、誰が言った! 大体何故お前がそんなことに口を出すんだ! あいつと俺の問題だろう!」
「今まではそうだったかもしれん。だが今回のことで、深成ちゃんも君には愛想が尽きただろう。だから私にチョコをくれたのではないかな」
珍しく六郎が、ふふん、と鼻を鳴らした。
ぎっと六郎を睨むと、真砂は、ぱっと窓の外を見た。
ぽてぽてと正門を出ていく深成が目に入る。
真砂はリュックを引っ掴むと、教室を飛び出そうとした。
「待ちたまえ! 深成ちゃんは、もう私がいただくと言ったはずだ!」
「あいつは俺のものだ! 貴様なんぞにやるものか!」
思い切り六郎の手を振り払い、真砂は怒鳴ると、廊下を走っていった。
図書館に寄ろうかな、どうしようかな、と思いつつ、てこてこと歩いていた深成は、何か背後に殺気を感じて振り向いた。
そして目を見開く。
「せ、先輩?」
凄い勢いで走ってくるのは真砂だ。
深成が回れ右して逃げたくなるほど恐ろしい空気を纏っている。
真砂は深成に追いつくと、腕を掴んで引きずるように電車に乗った。
駅でも電車でも、通学途中で真砂を知ったのであろう他校の女子が、チョコ片手に真砂に近づこうとしたが、声をかける前に、真砂の鋭い視線に追い払われてしまう。
そんな妙な空気のまま、真砂と深成は、いつもの図書館の前に来た。
「……中で待ってろ」
それだけ言い、真砂は図書館と反対側へ歩いていく。
模試を受けた塾は駅の裏側だ。
今日は結果を貰うだけなので、すぐ終わるのだろう。
何だか怖い雰囲気だが、とりあえず深成は、言われた通り図書館に入った。
てこてこと、深成は教室を出て正門に向かっていた。
今日も真砂はいない。
一昨日の模試の結果を貰いに行く、と聞いていた。
その真砂は、相変わらずチョコを持ってくる女子たちを蹴散らしながら、教室を出ようとしているところだった。
そこへ、六郎が立ちはだかる。
「ちょっと待ちたまえ。君のその態度は何なんだ」
思いっきり胡乱な目で、真砂が六郎を見る。
が、六郎は深成までも傷つけた(と思い込んでいる)ことが許せない上に、その深成からチョコを貰ったことで、パワーが漲っているので怯まない。
「他の子に対してはともかく、深成ちゃんにまで同じ態度をとるのはおかしいではないか。やはり付き合っているとかいって、実は彼女を弄んでいるだけなのか」
「はぁ? 何を言っている」
眉間に皺を寄せて、真砂が六郎を睨む。
「君がそのつもりなら、やはり深成ちゃんは私が貰い受ける。いい加減深成ちゃんも、大事にしてくれないような奴よりも、ちゃんと自分を見てくれる私のほうがいいと思ったことだろう。深成ちゃんのチョコは、私が貰ったし」
「何だと?」
ただただ鬱陶しそうなだけだった真砂の表情が一変した。
鋭い視線には、殺気さえ含まれている。
「君が怒る資格はない。深成ちゃんのチョコを他の子と同じように、気遣いなく断ったのだろう? 可哀想に、泣いていたぞ」
「何のことだ。俺は一昨日から、あいつに会っていない」
僅かに六郎が、驚いた顔をした。
だが六郎の怒りは別の方向へ向く。
「だとしても! この時期だ。チョコを用意していることぐらいわかるだろう! 何でそんな時期に放っておくんだ! 受け取る気がないなら、前もって言ってやればいいではないか」
「受け取る気がないなど、誰が言った! 大体何故お前がそんなことに口を出すんだ! あいつと俺の問題だろう!」
「今まではそうだったかもしれん。だが今回のことで、深成ちゃんも君には愛想が尽きただろう。だから私にチョコをくれたのではないかな」
珍しく六郎が、ふふん、と鼻を鳴らした。
ぎっと六郎を睨むと、真砂は、ぱっと窓の外を見た。
ぽてぽてと正門を出ていく深成が目に入る。
真砂はリュックを引っ掴むと、教室を飛び出そうとした。
「待ちたまえ! 深成ちゃんは、もう私がいただくと言ったはずだ!」
「あいつは俺のものだ! 貴様なんぞにやるものか!」
思い切り六郎の手を振り払い、真砂は怒鳴ると、廊下を走っていった。
図書館に寄ろうかな、どうしようかな、と思いつつ、てこてこと歩いていた深成は、何か背後に殺気を感じて振り向いた。
そして目を見開く。
「せ、先輩?」
凄い勢いで走ってくるのは真砂だ。
深成が回れ右して逃げたくなるほど恐ろしい空気を纏っている。
真砂は深成に追いつくと、腕を掴んで引きずるように電車に乗った。
駅でも電車でも、通学途中で真砂を知ったのであろう他校の女子が、チョコ片手に真砂に近づこうとしたが、声をかける前に、真砂の鋭い視線に追い払われてしまう。
そんな妙な空気のまま、真砂と深成は、いつもの図書館の前に来た。
「……中で待ってろ」
それだけ言い、真砂は図書館と反対側へ歩いていく。
模試を受けた塾は駅の裏側だ。
今日は結果を貰うだけなので、すぐ終わるのだろう。
何だか怖い雰囲気だが、とりあえず深成は、言われた通り図書館に入った。