小咄
そして十五日の月曜日。
六郎は前を歩く深成を見、ぎょっとした。
大きな紙袋を持って、よろよろ歩いている。
「おはよう深成ちゃん。何、それ、えらい凄い荷物だね」
実際はさほど大きくなくても、深成が小さいので、可哀想なほど大荷物に見えることもあるのだが。
くるりと振り向き、深成はにこりと笑った。
「おはよう六郎兄ちゃん」
とても元気だ。
にこにことして機嫌も良い。
---良かった。やっぱりあんな奴とは別れて正解だ。これからは、私がこの笑顔を守るんだ---
決意も新たに、六郎は横を歩く深成を見た。
「深成ちゃん、荷物持ってあげるよ。大変だろう?」
深成の持っている紙袋に手を伸ばした六郎は、ふとその紙袋から覗くものに目をやった。
「あ、いいよ。これは大事なものだから」
深成が慌てて少し下がる。
「それは?」
訝しげな顔で、六郎は紙袋をじっと見た。
さっきちらりと見えたのは、可愛いラッピングを施されたものだった。
「う~ん、もうちょっと折りたたまないと見えちゃう。でもあんまり折ったら折角のラッピングが台無しになっちゃうし……」
えいえい、と紙袋の中に見えていた部分を押し込みながら、深成が呟く。
「何かやけに綺麗にしてるね。何? それ」
六郎が聞くと、深成は六郎に笑顔を向けた。
「えへ。昨日あげられなかったから、今日持ってきたんだ」
え、と六郎の目が僅かに見開かれる。
---み、深成ちゃん……! 金曜日にくれたのに、わざわざちゃんとバレンタイン当日にもくれようとしていたのか! しかもこんな立派なものを---
じぃん、と胸が熱くなる。
そこまで己のことを想ってくれているのか、と感激していると、あっと深成が弾んだ声を上げた。
「せんぱぁ~いっ!!」
身体が前のめりになり、ぶんぶんと手を振る。
駆け出したいのだろうが、荷物が重いらしい。
少し前で、真砂が足を止めて振り向いた。
「よいしょ、よいしょ。ちょ、ちょっと待ってね」
荷物を下げて、深成がいそいそと真砂のほうに行こうとする。
が、六郎は驚いて深成の前に出た。
「おい、今更何の用だ。もう深成ちゃんに用はないはずだろう?」
すっかり深成は自分のものだ、と思っている六郎が強気に出る。
いつもならこのようなことを言われると、殺気を含んだ目で睨む真砂だが、何故か今は特に反応しない。
ばかりか、僅かに口角を上げて六郎を見た。
「深成ちゃん、大丈夫だよ。こんな奴に挨拶しなくても、今後は私が守ってあげるから」
真砂の態度には気付かず、六郎は背後の深成に言う。
深成が、ん? と六郎を見た。
「別れ話がちゃんと出来てない、とかで、気を遣ってるんだろう? 大丈夫、こいつには私から、ちゃんと言っておいたから」
「あ~、そうだ。もぅ六郎兄ちゃん、変なこと先輩に言わないでよぉ。まぁお蔭で金曜日のうちに仲直り出来たってのもあるけどさ」
あはは、と笑い、深成がぽん、と六郎の背を叩く。
そして、よいしょ、と紙袋を持って真砂のほうに歩いて行く。
「何だ、凄い荷物だな」
真砂が深成の紙袋に目を落として言う。
「あ、これはね……」
にこにこと深成が口を開こうとした途端、六郎が割り込んだ。
「どうだ! 凄いだろう! これが本命の証だ!」
ずいっと前に出、胸を張る。
六郎はそれを自分が貰えるものだと思っているので思い切り自慢したわけだが。
「そうだよ! 凄いでしょ? わらわ、昨日頑張って作ったんだ! 先輩、今日は一緒に帰れるよね?」
六郎の横をすり抜けて、深成が嬉しそうに言った。
え、と六郎が固まる。
「作ったって……。どんだけでかいものなんだよ」
「おっきいチョコケーキにしたの。食べるときにね、粉砂糖をかけようと思ったから、それは別に持ってきたし。荷物が多くなっちゃった」
固まる六郎を置いて、深成は嬉しそうに真砂に喋りかけている。
真砂が、ちらりと六郎を見た。
「六郎兄ちゃんも褒めてくれたし、自信作だよ」
「それは楽しみだ」
「えへ。大好きな先輩のためだから頑張っちゃった。やっぱり作ったものあげたいし」
駄目押しの一言を、満面の笑顔で言う。
その深成の笑顔に、六郎の心はがっつり抉られた。
「じゃあね、六郎兄ちゃん。いろいろ心配してくれてありがとね」
にこにこと手を振り、深成は真砂にくっついて歩いて行く。
真砂はもう一度六郎を見、思い切り口角を上げた。
ざまぁみやがれ
そんな真砂の心の声は、六郎にだけは、ばっちり届いたのであった。
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
バレンタイン学生バージョン。こっちゃ爽やかです(そうか?)。
そう長くならないと思ってましたが、六郎が出張ってくるとそれなりに長くなりますな。
あんま出る予定はなかったんですが、深成が泣いたら出て来てしまいました。
出てきたら出てきたで落とされるんですけど( ̄▽ ̄)
良い奴なんですけどね、何か……馬鹿なんですよ。
いえ、ここではね。
本編では頭も切れるし優秀な忍びですよ。
と言わないと何か最近可哀想だ( ̄▽ ̄;)
真砂の深成以外の女子のあしらいかたは、課長バージョンと変わらないです。
これでもモテるってどうよ。
2015/02/25 藤堂 左近
六郎は前を歩く深成を見、ぎょっとした。
大きな紙袋を持って、よろよろ歩いている。
「おはよう深成ちゃん。何、それ、えらい凄い荷物だね」
実際はさほど大きくなくても、深成が小さいので、可哀想なほど大荷物に見えることもあるのだが。
くるりと振り向き、深成はにこりと笑った。
「おはよう六郎兄ちゃん」
とても元気だ。
にこにことして機嫌も良い。
---良かった。やっぱりあんな奴とは別れて正解だ。これからは、私がこの笑顔を守るんだ---
決意も新たに、六郎は横を歩く深成を見た。
「深成ちゃん、荷物持ってあげるよ。大変だろう?」
深成の持っている紙袋に手を伸ばした六郎は、ふとその紙袋から覗くものに目をやった。
「あ、いいよ。これは大事なものだから」
深成が慌てて少し下がる。
「それは?」
訝しげな顔で、六郎は紙袋をじっと見た。
さっきちらりと見えたのは、可愛いラッピングを施されたものだった。
「う~ん、もうちょっと折りたたまないと見えちゃう。でもあんまり折ったら折角のラッピングが台無しになっちゃうし……」
えいえい、と紙袋の中に見えていた部分を押し込みながら、深成が呟く。
「何かやけに綺麗にしてるね。何? それ」
六郎が聞くと、深成は六郎に笑顔を向けた。
「えへ。昨日あげられなかったから、今日持ってきたんだ」
え、と六郎の目が僅かに見開かれる。
---み、深成ちゃん……! 金曜日にくれたのに、わざわざちゃんとバレンタイン当日にもくれようとしていたのか! しかもこんな立派なものを---
じぃん、と胸が熱くなる。
そこまで己のことを想ってくれているのか、と感激していると、あっと深成が弾んだ声を上げた。
「せんぱぁ~いっ!!」
身体が前のめりになり、ぶんぶんと手を振る。
駆け出したいのだろうが、荷物が重いらしい。
少し前で、真砂が足を止めて振り向いた。
「よいしょ、よいしょ。ちょ、ちょっと待ってね」
荷物を下げて、深成がいそいそと真砂のほうに行こうとする。
が、六郎は驚いて深成の前に出た。
「おい、今更何の用だ。もう深成ちゃんに用はないはずだろう?」
すっかり深成は自分のものだ、と思っている六郎が強気に出る。
いつもならこのようなことを言われると、殺気を含んだ目で睨む真砂だが、何故か今は特に反応しない。
ばかりか、僅かに口角を上げて六郎を見た。
「深成ちゃん、大丈夫だよ。こんな奴に挨拶しなくても、今後は私が守ってあげるから」
真砂の態度には気付かず、六郎は背後の深成に言う。
深成が、ん? と六郎を見た。
「別れ話がちゃんと出来てない、とかで、気を遣ってるんだろう? 大丈夫、こいつには私から、ちゃんと言っておいたから」
「あ~、そうだ。もぅ六郎兄ちゃん、変なこと先輩に言わないでよぉ。まぁお蔭で金曜日のうちに仲直り出来たってのもあるけどさ」
あはは、と笑い、深成がぽん、と六郎の背を叩く。
そして、よいしょ、と紙袋を持って真砂のほうに歩いて行く。
「何だ、凄い荷物だな」
真砂が深成の紙袋に目を落として言う。
「あ、これはね……」
にこにこと深成が口を開こうとした途端、六郎が割り込んだ。
「どうだ! 凄いだろう! これが本命の証だ!」
ずいっと前に出、胸を張る。
六郎はそれを自分が貰えるものだと思っているので思い切り自慢したわけだが。
「そうだよ! 凄いでしょ? わらわ、昨日頑張って作ったんだ! 先輩、今日は一緒に帰れるよね?」
六郎の横をすり抜けて、深成が嬉しそうに言った。
え、と六郎が固まる。
「作ったって……。どんだけでかいものなんだよ」
「おっきいチョコケーキにしたの。食べるときにね、粉砂糖をかけようと思ったから、それは別に持ってきたし。荷物が多くなっちゃった」
固まる六郎を置いて、深成は嬉しそうに真砂に喋りかけている。
真砂が、ちらりと六郎を見た。
「六郎兄ちゃんも褒めてくれたし、自信作だよ」
「それは楽しみだ」
「えへ。大好きな先輩のためだから頑張っちゃった。やっぱり作ったものあげたいし」
駄目押しの一言を、満面の笑顔で言う。
その深成の笑顔に、六郎の心はがっつり抉られた。
「じゃあね、六郎兄ちゃん。いろいろ心配してくれてありがとね」
にこにこと手を振り、深成は真砂にくっついて歩いて行く。
真砂はもう一度六郎を見、思い切り口角を上げた。
ざまぁみやがれ
そんな真砂の心の声は、六郎にだけは、ばっちり届いたのであった。
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
バレンタイン学生バージョン。こっちゃ爽やかです(そうか?)。
そう長くならないと思ってましたが、六郎が出張ってくるとそれなりに長くなりますな。
あんま出る予定はなかったんですが、深成が泣いたら出て来てしまいました。
出てきたら出てきたで落とされるんですけど( ̄▽ ̄)
良い奴なんですけどね、何か……馬鹿なんですよ。
いえ、ここではね。
本編では頭も切れるし優秀な忍びですよ。
と言わないと何か最近可哀想だ( ̄▽ ̄;)
真砂の深成以外の女子のあしらいかたは、課長バージョンと変わらないです。
これでもモテるってどうよ。
2015/02/25 藤堂 左近