小咄
「お待たせ~」
会社から二駅ほどの改札で、捨吉は深成と落ち合った。
「さっきまで課長と一緒だったからさ、課長も誘ったんだけど。まだ仕事があるって会社に戻っちゃった」
「え、そうなの? あんちゃんは良かったの?」
「うん。お子様を待たせるなって言われた」
あははは、と笑い、捨吉は駅からほど近い居酒屋に入った。
「深成はどうする?」
「う~ん……。軽いの。サワーだったら大丈夫だよね」
梅酒サワーとビールで乾杯し、適当に食べ物を頼んでから、早速捨吉が話を切りだした。
「あのさ。深成、彼氏いるの?」
「へっ? ……えええっ?」
明らかに狼狽える。
「ななな、何でっ?」
「いや、別に。いるのかなって思っただけ。バレンタインも深成、さっさと帰ったじゃない。誰かと約束があるのかなって」
「い、いや。そういうんじゃないよ」
へら、と笑って、深成はごくりとサワーを飲んだ。
どっと噴き出た汗が、サワーで冷えて行く。
「えと、そんなこと聞くために、わざわざご飯食べに来たんじゃないよね」
あまり突っ込まれたらぼろが出てしまう。
嘘をつくのは苦手だ。
早々に、深成は話題を変えた。
「うん、まぁ。う~ん、でも深成に聞いてもわかるかなぁ。課長もそう言ってたし」
「な、何っ。課長が何言ってたのっ」
真砂のことには反応してしまう。
深成が言うと、捨吉はちょっと驚いた顔をした後、にやりと笑った。
「深成さぁ、今日課長とも言ってたんだけど、課長のこと好きだよねぇ」
ぶは、と深成がサワーを噴く。
「なな、何さ、いきなりっ!」
「あれれ、珍しい反応だねぇ。深成、誰が好きって結構いつも軽く言うじゃん。俺のことだって、好きだって言ってくれるよ? 何でそんなに本気にするの」
捨吉にしては珍しく、にやにやしながらぐいぐい突っ込む。
うう、と深成は赤くなって、サワーのグラスを握りしめた。
「深成さぁ、何かちょっと、女の子っぽくなったよねぇ。そういう反応、今までなかったじゃない? 深成も好きな人が出来たら変わるんだね」
うん、と何か一人で納得しながら、捨吉は唐揚げを口に放り込んだ。
「えっと。あ、あんちゃん、なな、何でそんな風に思うの」
「何となくだよ。そういや深成が反応するのって課長だけだね。そっかぁ」
うわわわ、どうしよう、と焦る深成は真っ赤だ。
何と誤魔化せば逃げ切れるのか、もうわからない。
はたしてここまでバレているのに、誤魔化すことは可能なのか。
「しかし凄いところに惹かれたもんだよね。課長は千代姐さんでも落とせないのに」
あんちゃんどこまで気付いてるんだろう。
わらわと課長が付き合ってるってとこまでわかってるの? とぐるぐる考えつつ、深成はひたすら小さくなる。
下手にバラしていいことでもないだろう。
「でもさ。意外に課長も、深成を採用して正解だったって言ってたよ。相当気に入ってるよね」
「そ、そうかな……」
「課長の態度を考えてみてもさ、うん、意外と脈ありかもよ? 夏と冬の旅行のときだって良い感じだったし。そうだ、冬なんて深成、課長と同じ部屋だったじゃん。チャンスだったのに、何も言わなかったの?」
「え、えっと……」
捨吉の言葉をよくよく聞いて、よくよく考える。
この流れ。
どうも捨吉は、深成が真砂を好いている、とは思っているが、付き合っているとまでは思っていないようだ。
「あんちゃんこそ、あきちゃんとおんなじ部屋だったじゃん」
ようやく反撃に出る。
捨吉は、うん、と言って、少し照れたように頭を掻いた。
「あのね。俺、あきちゃんと付き合ってるんだ」
照れ照れ、と告白する。
え、と深成が持っていたグラスを置いて、身を乗り出した。
「え、そうなの? えー、全然知らなかったぁ。あきちゃん、何も言わないし」
内心『でもわらわも言ってないし、お互いさまか』と思う。
しかしいつからなのだろう。
「いや、付き合いだしたのは最近。バレンタインからかな」
「あ、そうなんだ。おめでとう~」
ぱちぱち、と手を叩き、ようやく落ち着いて深成は箸を動かした。
「それでね。もうすぐホワイトデーだろ。お返し、何がいいかなって。付き合ってるんだし、さりげないものじゃなくて、もうちょっと……。何て言うのかな、ちゃんとしたものっていうか。深成も最近女の子っぽくなってきたし、そういうことわかるかなって」
「だ、だから。何でそこでわらわが出るのさ」
動揺を悟られないように、ひたすらサラダを頬張りながら、深成は赤くなる顔を隠した。
だが深成も、そういえばホワイトデーだな、と密かに思う。
真砂は何をくれるだろう。
---今んとこ、何も聞かれてないな。何をくれるつもりだろ。いや真砂、覚えてるかなぁ。そういうイベントとかに興味なさそう……。んでも真砂、わらわのことはちゃんと一番に考えてくれるし---
折角捨吉との会話での動揺が収まってきたのに、自分の考えでまた顔が赤くなる。
ごくごくと梅酒サワーを飲み、とにかく熱を冷ます。
会社から二駅ほどの改札で、捨吉は深成と落ち合った。
「さっきまで課長と一緒だったからさ、課長も誘ったんだけど。まだ仕事があるって会社に戻っちゃった」
「え、そうなの? あんちゃんは良かったの?」
「うん。お子様を待たせるなって言われた」
あははは、と笑い、捨吉は駅からほど近い居酒屋に入った。
「深成はどうする?」
「う~ん……。軽いの。サワーだったら大丈夫だよね」
梅酒サワーとビールで乾杯し、適当に食べ物を頼んでから、早速捨吉が話を切りだした。
「あのさ。深成、彼氏いるの?」
「へっ? ……えええっ?」
明らかに狼狽える。
「ななな、何でっ?」
「いや、別に。いるのかなって思っただけ。バレンタインも深成、さっさと帰ったじゃない。誰かと約束があるのかなって」
「い、いや。そういうんじゃないよ」
へら、と笑って、深成はごくりとサワーを飲んだ。
どっと噴き出た汗が、サワーで冷えて行く。
「えと、そんなこと聞くために、わざわざご飯食べに来たんじゃないよね」
あまり突っ込まれたらぼろが出てしまう。
嘘をつくのは苦手だ。
早々に、深成は話題を変えた。
「うん、まぁ。う~ん、でも深成に聞いてもわかるかなぁ。課長もそう言ってたし」
「な、何っ。課長が何言ってたのっ」
真砂のことには反応してしまう。
深成が言うと、捨吉はちょっと驚いた顔をした後、にやりと笑った。
「深成さぁ、今日課長とも言ってたんだけど、課長のこと好きだよねぇ」
ぶは、と深成がサワーを噴く。
「なな、何さ、いきなりっ!」
「あれれ、珍しい反応だねぇ。深成、誰が好きって結構いつも軽く言うじゃん。俺のことだって、好きだって言ってくれるよ? 何でそんなに本気にするの」
捨吉にしては珍しく、にやにやしながらぐいぐい突っ込む。
うう、と深成は赤くなって、サワーのグラスを握りしめた。
「深成さぁ、何かちょっと、女の子っぽくなったよねぇ。そういう反応、今までなかったじゃない? 深成も好きな人が出来たら変わるんだね」
うん、と何か一人で納得しながら、捨吉は唐揚げを口に放り込んだ。
「えっと。あ、あんちゃん、なな、何でそんな風に思うの」
「何となくだよ。そういや深成が反応するのって課長だけだね。そっかぁ」
うわわわ、どうしよう、と焦る深成は真っ赤だ。
何と誤魔化せば逃げ切れるのか、もうわからない。
はたしてここまでバレているのに、誤魔化すことは可能なのか。
「しかし凄いところに惹かれたもんだよね。課長は千代姐さんでも落とせないのに」
あんちゃんどこまで気付いてるんだろう。
わらわと課長が付き合ってるってとこまでわかってるの? とぐるぐる考えつつ、深成はひたすら小さくなる。
下手にバラしていいことでもないだろう。
「でもさ。意外に課長も、深成を採用して正解だったって言ってたよ。相当気に入ってるよね」
「そ、そうかな……」
「課長の態度を考えてみてもさ、うん、意外と脈ありかもよ? 夏と冬の旅行のときだって良い感じだったし。そうだ、冬なんて深成、課長と同じ部屋だったじゃん。チャンスだったのに、何も言わなかったの?」
「え、えっと……」
捨吉の言葉をよくよく聞いて、よくよく考える。
この流れ。
どうも捨吉は、深成が真砂を好いている、とは思っているが、付き合っているとまでは思っていないようだ。
「あんちゃんこそ、あきちゃんとおんなじ部屋だったじゃん」
ようやく反撃に出る。
捨吉は、うん、と言って、少し照れたように頭を掻いた。
「あのね。俺、あきちゃんと付き合ってるんだ」
照れ照れ、と告白する。
え、と深成が持っていたグラスを置いて、身を乗り出した。
「え、そうなの? えー、全然知らなかったぁ。あきちゃん、何も言わないし」
内心『でもわらわも言ってないし、お互いさまか』と思う。
しかしいつからなのだろう。
「いや、付き合いだしたのは最近。バレンタインからかな」
「あ、そうなんだ。おめでとう~」
ぱちぱち、と手を叩き、ようやく落ち着いて深成は箸を動かした。
「それでね。もうすぐホワイトデーだろ。お返し、何がいいかなって。付き合ってるんだし、さりげないものじゃなくて、もうちょっと……。何て言うのかな、ちゃんとしたものっていうか。深成も最近女の子っぽくなってきたし、そういうことわかるかなって」
「だ、だから。何でそこでわらわが出るのさ」
動揺を悟られないように、ひたすらサラダを頬張りながら、深成は赤くなる顔を隠した。
だが深成も、そういえばホワイトデーだな、と密かに思う。
真砂は何をくれるだろう。
---今んとこ、何も聞かれてないな。何をくれるつもりだろ。いや真砂、覚えてるかなぁ。そういうイベントとかに興味なさそう……。んでも真砂、わらわのことはちゃんと一番に考えてくれるし---
折角捨吉との会話での動揺が収まってきたのに、自分の考えでまた顔が赤くなる。
ごくごくと梅酒サワーを飲み、とにかく熱を冷ます。