小咄
「俺は元々、そんな会話が上手いわけではない。話題も豊富じゃないしな。そういう意味で、毎日なんか話せないんだ。まして電話だろ。会ってるなら沈黙も苦痛ではないが、電話なんて、会話が途切れたら終わりじゃないか」

「……そっか。そうだね」

「電話するぐらいだったら、会いたいと思う」

 つまり、毎日学校帰りでも会えていたから電話の必要がなかったのだ。

「これからは、毎日は会えないし、そう考えると電話の回数も増えるかな、とは思うが。でも……電話は自信がない。言ったように、俺は話題豊富じゃない。基本的に、用事がないと電話はしないかもしれない」

「うん……」

「ただ話したいだけってのも、ないとは言わないが……。やっぱり話すだけなら会いたいし。そう考えると、毎日電話で話してしまうと、いざ会ったときに話題がなくなる」

 困ったように言う真砂に、深成は吹き出した。
 涙はすっかり乾いている。

「あははっ! うん、ちょっとね、わらわもそう思う。もちろん電話くれたら嬉しいけど、確かに毎日は、話すことないかも!」

 そう言って笑う深成に、真砂は、ほっと息をついた。
 もしもこれで、六郎の言う通り深成も毎日電話が欲しいとか言ったら困る。
 相当な苦痛になるだろう。
 別れの原因になりかねない。

「……帰ろうか」

 きゅ、と深成の手を握って、真砂が言った。
 こくりと頷き、二人で駅に向かう。

「先輩と一緒に帰るの、最後だね」

 ちょっとしょぼんと言うと、真砂は握った手に力を入れた。

「まぁな。でも受験も終わったし、一応自由にはなった。合格発表の日は学校に行くし、その辺は結構登校するぜ」

「え、ほんと?」

 卒業式が終わっても、合格発表はまだだし、駄目だった場合は後期試験などに追われる。
 結果を学校に知らせたり、後期試験に備えたりするのに、高校を利用するのだ。

「じゃああと何回かは、一緒に帰れるね」

「合格してしまえば、受験生でもなくなるしな」

「うん。先輩、発表はいつだっけ」

「十日」

「どきどきするね~」

 自分のことのように、深成が握った拳を胸に当てて深呼吸する。

「ま、やることはやったし。今更どうこう出来ないしな」

「先輩、落ち着いてるねぇ。わらわ、十日ももたないかも」

「確かに、合否がはっきりするまでは、ぱぁっと遊ぶ気にもなれんが。だから十日間は、またちょっと会えないな」

「ん、うん」

 合格発表までは、深成もどきどきして落ち着かないだろう。
 でも十日は長いな、とも思う。
 ちら、と深成は真砂を見上げた。

「その間は、寂しくなったら電話してもいい?」

 今までは毎日一緒に帰っていたし、会えないのは休日の二日だけだった。
 連休があっても、十日も開くことはなかったのだ。

「わらわもそんなお喋りじゃないから、そんな長電話はしないし」

「いいよ。俺も十日も連絡しないつもりはないし」

 ぱぁっと深成が嬉しそうな顔になる。
 電話は苦手だ、と言う真砂が、会えないときは連絡してくれるつもりだったのが、よほど嬉しいらしい。

「お前はもぅ……。そういう顔、海野に見せるなよ」

 うにうにと深成の頭を撫で、真砂は心底、六郎と同じタイミングで卒業することに安心するのだった。

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 高校生バージョン卒業式編。
 これ、WD高校生バージョンを書いてから気付いたんですよ。もしかして卒業式のが先じゃね? と。
 いやぁ、危なかった。

 高校の卒業式なんざ記憶の彼方に追いやられて、全く覚えておりませんよ。まして日付なんて。
 ただでさえ左近は記憶喪失なので、学生の記憶はほぼないのです( ̄▽ ̄)

 まぁ卒業式といっても大したイベントはなく、相も変わらず六郎にわけのわからん因縁をつけられて終わるという。
 考えてみれば、六郎は毎回深成を泣かせているような。愛情が空回りし過ぎだろ( ̄、 ̄;)
 そして毎回真砂の怒りを買う。

 今回は珍しく、深成に落とされることはなかったような気がしますが、その代わり置いてけぼりを食ってます。
 六郎の想いが報われることはないので( ̄▽ ̄)b

 それにしても、真砂の連絡に関する考え方は左近と一緒です。
 皆何喋るのさ……。用事がないと電話はしませんねぇ( ̄▽ ̄)

2016/3/25 藤堂 左近
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