小咄
「な、何を言ってるんだ。深成ちゃん、そんなの駄目だよ」

 六郎が慌てるが、深成はきょとんとした目を向ける。
 明らかに『何で?』と言う目だ。

 さっぱりわかってない深成に、男だから、と言ったところで理解しないだろう。
 それなら何故六郎は良いのだ、となる。
 そこを追求されたら、またややこしい。

「だって、真砂のお陰なんだから、真砂の言うことは聞くべきじゃん? 真砂が横に寝て欲しいってんなら、わらわはここで寝るべきだよ〜。いいじゃん、六郎兄ちゃんの隣でもあるんだし」

 真砂が僅かに眉を顰めた。
 隣に寝て欲しいわけではない、と言いたいのだろう。
 だがあえて口は開かず、真砂も横になった。

「ほら、六郎兄ちゃんも寝なよ。狭い?」

 深成が、ころりと少し転がって、真砂のほうへと移動した。
 六郎がまた慌てる。

「深成ちゃん、大丈夫だから。もうちょっと、こっちに来なさい」

 最早親のようである。
 そう? と言いつつ、深成がまた、ころりと六郎のほうへ転がるが、真砂がぐい、と深成の肩を掴んだ。

「俺のほうへ、そんなもん寄せるんじゃない」

 深成の抱えているぬいぐるみは、結構な大きさだ。
 深成自身が六郎のほうへ行けば、ぬいぐるみはどうしても、真砂のほうへ置くことになる。

「そんなもんって何さ。この子抱っこしてたら、よっく眠れるんだからっ」

「へぇ?」

 にやり、と真砂の口角が上がった。
 そして、ぎゅうっと後ろから深成を抱き締める。

「ちょっと。わらわじゃないって」

「お前もそれも、似たようなもんだろ」

 真砂が深成を抱き、深成がうさぎを抱っこしている状態だ。
 状況的には一緒かな、と思い(どこが)、まぁいいか、と深成はそのまま目を閉じる。
 それに、この状態のほうが、六郎も遠慮なく空いたスペースを使えるだろう。

 ……そう思っているのは深成だけで、深成の前では六郎が、口を大きく開けて固まっている。
 目の前で、可愛い深成が男に抱かれて眠っているのだ。

 あり得ない、と思考の停止した脳みそで呆然としている六郎を、真砂がちらりと見た。
 そして、僅かに目を細める。

 その僅かな笑みが、勝利宣言のようで、六郎は、がくりと両手をベッドに付いた。
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