小咄
夕食は部屋にど~んと各々膳が置かれるタイプ。
一応会社の交流なので、真砂と清五郎は上座の社長のお相手だ。
「深成。ご飯おかわりする?」
「うん。美味しいねぇ~」
千代にお茶碗を差し出しながら、深成が満面の笑みで言う。
「千代姐さん。俺にもお願い出来ますか?」
深成の前に座っていた捨吉も茶碗を差し出す。
その横で、ゆいがきょろきょろと辺りを見回した。
「高山建設って男の人ばっかりね。誰かいい人いないかしら」
狙っていた捨吉はあきと付き合ってしまったので、早々に次を探し始めたようだ。
捨吉と付き合い始めてすぐに、あきは意を決してゆいに打ち明けた。
あれだけぐいぐい捨吉に迫っていたわりには、あきから報告を受けると、ゆいはあっさりと諦めたのだ。
『あんたが捨吉くんを好いてるのは知ってた。ていうか、あんたもちゃんとあたしに言ったじゃない。だから、あとは捨吉くんがどっちを選ぶかってだけだったし。むしろあんたを選んでくれて良かった。あたしのほうだったら、何かあんたとの仲がぎくしゃくしそう。あたしはあんまり気にしないけど、あんたは結構内に秘めるでしょ』
そう言ったゆいは、捨吉よりもあきのほうが大事だったということだ。
あきはゆいに、深く感謝したのだった。
「そだねぇ、ゆいさんには高山建設の人みたいな、がっしりした頼りがいのある人が似合うと思うな。荷物とかも軽々持ってくれそうだし」
捨吉を挟んだ隣から、いつも荷物持ちにされている羽月が頷く。
そこに、ビールとジュースの瓶を持った六郎がやってきた。
「やぁ皆さん。久しぶり」
「あ、六郎さん。お久しぶりで~す」
皆のグラスにビールを注ぎ、深成のグラスにはジュースを入れる。
「深成ちゃんは、お酒よりもジュースだよね」
「そだね。課長も傍にいないし」
無邪気に六郎の心を抉り、深成はかちんとグラスを合わせた。
そういえば、研修の最後に六郎は深成に告白したはずだが、そんなことは深成の頭には残っていないのだろうか。
六郎を避けるでもないが、言葉の端々に『課長』が出る。
「深成ちゃん。さっき、ごめんね。怪我しなかった?」
とりあえず気を取り直し、六郎は深成に話しかけた。
ん、と深成が忙しく箸を動かしながら、六郎を見る。
「ああ、大丈夫。膝打ったけど、怪我はしてなかった」
「ほんとにごめん」
「いいって。気にしないで」
ひらひらと手を振りながら言っていると、斜め前からゆいがしきりに深成に目配せしているのに気付いた。
ゆいは深成と目が合うと、顎を僅かに動かして何かを示す。
しばし、じっとそれを見ていた深成は、ゆいが『六郎に紹介してくれ』と言いたいのだと気付いた。
「あ、えっと。六郎さん、二課のほうは清五郎課長しか知らないよね。こちら、ゆいさん。あきちゃんの先輩だったかな」
「ゆいで~す! 捨吉くんよりも一年先輩なんですよ。よろしく~」
深成が紹介するなり、ぐいっと身を乗り出して、ゆいが自己紹介する。
「あ、ああ。どうも」
ちょっと引いた六郎を、深成がぐい、と押した。
「折角だから、ゆいさんとお話して?」
「そうだね。私らとは歓迎会で飲みに行ったこともあるけど、二課の連中とはないだろうしね」
千代もさっさと席を立ち、ゆいの前だった自分の場所を譲る。
千代からしても、六郎は深成にとっての危険人物との認識らしい。
ここで渋るわけにもいかず、前に座った六郎に、ゆいががっつり食いついた。
一応会社の交流なので、真砂と清五郎は上座の社長のお相手だ。
「深成。ご飯おかわりする?」
「うん。美味しいねぇ~」
千代にお茶碗を差し出しながら、深成が満面の笑みで言う。
「千代姐さん。俺にもお願い出来ますか?」
深成の前に座っていた捨吉も茶碗を差し出す。
その横で、ゆいがきょろきょろと辺りを見回した。
「高山建設って男の人ばっかりね。誰かいい人いないかしら」
狙っていた捨吉はあきと付き合ってしまったので、早々に次を探し始めたようだ。
捨吉と付き合い始めてすぐに、あきは意を決してゆいに打ち明けた。
あれだけぐいぐい捨吉に迫っていたわりには、あきから報告を受けると、ゆいはあっさりと諦めたのだ。
『あんたが捨吉くんを好いてるのは知ってた。ていうか、あんたもちゃんとあたしに言ったじゃない。だから、あとは捨吉くんがどっちを選ぶかってだけだったし。むしろあんたを選んでくれて良かった。あたしのほうだったら、何かあんたとの仲がぎくしゃくしそう。あたしはあんまり気にしないけど、あんたは結構内に秘めるでしょ』
そう言ったゆいは、捨吉よりもあきのほうが大事だったということだ。
あきはゆいに、深く感謝したのだった。
「そだねぇ、ゆいさんには高山建設の人みたいな、がっしりした頼りがいのある人が似合うと思うな。荷物とかも軽々持ってくれそうだし」
捨吉を挟んだ隣から、いつも荷物持ちにされている羽月が頷く。
そこに、ビールとジュースの瓶を持った六郎がやってきた。
「やぁ皆さん。久しぶり」
「あ、六郎さん。お久しぶりで~す」
皆のグラスにビールを注ぎ、深成のグラスにはジュースを入れる。
「深成ちゃんは、お酒よりもジュースだよね」
「そだね。課長も傍にいないし」
無邪気に六郎の心を抉り、深成はかちんとグラスを合わせた。
そういえば、研修の最後に六郎は深成に告白したはずだが、そんなことは深成の頭には残っていないのだろうか。
六郎を避けるでもないが、言葉の端々に『課長』が出る。
「深成ちゃん。さっき、ごめんね。怪我しなかった?」
とりあえず気を取り直し、六郎は深成に話しかけた。
ん、と深成が忙しく箸を動かしながら、六郎を見る。
「ああ、大丈夫。膝打ったけど、怪我はしてなかった」
「ほんとにごめん」
「いいって。気にしないで」
ひらひらと手を振りながら言っていると、斜め前からゆいがしきりに深成に目配せしているのに気付いた。
ゆいは深成と目が合うと、顎を僅かに動かして何かを示す。
しばし、じっとそれを見ていた深成は、ゆいが『六郎に紹介してくれ』と言いたいのだと気付いた。
「あ、えっと。六郎さん、二課のほうは清五郎課長しか知らないよね。こちら、ゆいさん。あきちゃんの先輩だったかな」
「ゆいで~す! 捨吉くんよりも一年先輩なんですよ。よろしく~」
深成が紹介するなり、ぐいっと身を乗り出して、ゆいが自己紹介する。
「あ、ああ。どうも」
ちょっと引いた六郎を、深成がぐい、と押した。
「折角だから、ゆいさんとお話して?」
「そうだね。私らとは歓迎会で飲みに行ったこともあるけど、二課の連中とはないだろうしね」
千代もさっさと席を立ち、ゆいの前だった自分の場所を譲る。
千代からしても、六郎は深成にとっての危険人物との認識らしい。
ここで渋るわけにもいかず、前に座った六郎に、ゆいががっつり食いついた。