小咄
 次の日の朝、捨吉がリビングに起き出していくと、すでに真砂と六郎の姿があった。

「おはようさんです。深成は?」

 ぽりぽりと頭を掻きながら、辺りを見回す。
 昨夜のことは、実はあまり覚えていない。
 何だか真砂と六郎が深成を取り合ってたな〜と思いつつ、真砂の部屋をちらりと見る。

「まだ寝とる」

 キッチンに立っていた真砂が、ぼそ、と言う。
 真砂はともかく、六郎は何だか元気がない。
 もしかして、結局六郎はリビングで寝るハメになったのだろうか。

---真砂さんなら、無慈悲に追い出すことも十分あり得る---

 そう思うが、深成がいたはずだ。
 何となく、真砂は深成が頼めば、そう無体なことはしないような。

---何だかんだで、深成は可愛いもんな---

 皆に可愛がられている、という意味だ。
 捨吉も大概呑気である。

「おはよう、六郎さん。昨日はよく眠れた?」

 さりげなく聞いてみた捨吉に、六郎は顔を上げた。
 目の下にはクマが出来ている。

「ええ……まぁ」

 目も充血しているし、寝ていないのは一目瞭然だ。
 あれれ? と捨吉は、真砂を見た。
 真砂は普通だ。
 いつもと変わらず、冷蔵庫から出したフルーツを切っている。

「昨日は、真砂さんのところで寝たんでしょ?」

「……ええ」

 確かめてみる捨吉に、六郎は力無く頷いた。
 追い出されたわけではないようだ。

 一通りフルーツを切った真砂が、ちらりと己の部屋のほうへ視線を投げた。
 次いで窓の外に目をやり、キッチンから出て部屋へ向かう。

 六郎が顔を上げた。
 真砂の部屋では、まだ深成が寝ているのだ。
 そこに再び入るつもりか、と腰を浮かしかけるが、そもそも真砂の部屋なのだ。
 止めたいが、止めたらまた、あの氷の瞳で見られるのだろう。

 やきもきしているうちに、真砂は部屋に入って行った。
 一応六郎は、真砂を追って部屋の前へ移動する。
 その様子を、捨吉は面白そうに眺めた。

 ドアは開けたまま、真砂はぐーすかと健やかな寝息を立てて眠っている深成を見下ろしていた。
 六郎の見る限り、その表情には、特に愛情というものは感じられない。
 あくまで無表情だ。
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