小咄
とある3カップルの紅葉ドライブ
【キャスト】
mira商社 課長:真砂・清五郎 派遣事務員:深成
社員:捨吉・あき・千代
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
それはとあるお昼休みのこと。
ブースが空いていなかったので、自席でご飯を食べていた深成が、PC画面を見て歓声を上げた。
「わぁ、凄い。綺麗だねぇ~」
同じく隣でご飯を食べていたあきが、深成のPCを覗き込む。
旅行サイトの紅葉特集のようだ。
少し前に真砂に温泉に連れて行って貰ったことで、温泉にハマったらしい。
「紅葉かぁ。随分寒くなったし、もうそろそろ終わりかな?」
「場所によるだろうけどね。山のほうなら、もう終わりだろうね」
あきが言い、二人一緒に紅葉の写真に見入っていると、外回りに行っていた千代が、清五郎と帰って来た。
「おっ紅葉か。もうそんな時期だなぁ」
清五郎が後ろからPC画面を見て口を挟む。
「そういえば、清五郎課長のお家は日本家屋だから、紅葉とかに映えそうですねぇ」
いいなぁ、と羨ましがる深成に笑い、清五郎は、じ、とPC画面を見た。
「家は言っても街中だからな、情緒はないよ。どうせなら、それこそ誰も知らない秘境とかに行ったほうがいい。HPに載ってるところは、ダダ混みだろうしな」
「んでもそんなところ、知らないし。調べようもないでしょ」
「一つ、いいところを知ってるんだがな」
にやりと言い、清五郎は深成の机の上のカレンダーに目をやった。
月中の週末を指す。
「この辺りなら仕事も忙しくないだろう。紅葉もギリぐらいだが、シーズン終わりだから空いてるだろう。元々人もあまりいない。予定は空いてるか?」
後半は上座の真砂に目をやって言う。
ん、と顔を上げ、真砂は清五郎を見た。
「俺か?」
「派遣ちゃんが行きたいって言ってるんだぜ。俺が連れて行ってもいいのか?」
「千代が嫌がるだろう」
「ま、真砂課長っ!」
何気に際どい応酬を、千代が慌てて遮った。
それを、あきがにまにまと眺める。
真砂は特に慌てるでもなく、カレンダーを見た。
「……俺はいいが。皆で行くのか? メンバーはどうするんだ?」
「ま、スキーに行ったメンバーがベストだよな。人数もあれぐらいが丁度いいし。どうだ?」
清五郎に言われ、千代とあきも頷いた。
「じゃ、あとは捨吉だけか。場所を知ってるのも俺だし、また俺が車を出せばいいな」
「お前が嫌でなければいいが。でもまた一人ずつ拾って行って貰うのも悪い。今回は、そう早朝でなくてもいいんだし、皆捨吉の駅のロータリーに集合することにしよう」
「そうか? 別に構わんが、まぁそうして貰うとありがたいかな。お千代さんはちょいと遠いから、拾って行ってやるよ」
さらりと言い、良かったな、と深成の肩をぽんと叩く。
そして清五郎は二課のほうへと帰って行った。
その日、定時過ぎに上がったあきは、途中の大きな駅で、直帰の捨吉と落ち合った。
ご飯に誘われていたのだ。
「紅葉ドライブ、聞いた?」
居酒屋でご飯を食べながら、あきが言うと、捨吉は頷いた。
「うん。清五郎課長からメールが来てた」
「捨吉くんの最寄り駅に集合ってことだわね。そっちのほうがいちいち拾って行くより確かに効率いいし」
「俺、一回も車出してないから悪いなぁ。けど小さい軽だし、六人も乗れないしな」
「あれ捨吉くん、車持ってたっけ」
捨吉の家とあきの家は、そう離れていない。
この二人はまだ遠出もしたことがないので、もっぱら公共交通機関での移動だったらしい。
おそらく、そう遅くなることもなかったのだろう。
健全である。
「持ってるよ。でも小さいからさ、やっぱり二人ぐらいがいいんだよね」
言ったあとで、少し捨吉は照れ臭そうに頭を掻いた。
「あのさ。今度、二人でちょっと遠出しようか」
「え、あ、そうね。車持ってるんだったら、行動範囲も広がるわね」
遠出、というのがどこまでを指すのか。
お泊り旅行も含まれるのか、と、いろいろ邪な考えが浮かんだが、あきはそれを悟られないよう、チューハイをごくりと飲んだ。
「楽しみだな~。一泊するんだよね? また温泉だ~」
うきうきと、お風呂から上がった深成がリビングのソファで白くまと戯れている。
濡れた髪を拭きながら脱衣所から出てきた真砂が、どすんとその横に座った。
「あんちゃんのところに集合だったら、普通に一緒に行けるもんね」
「そうしないとヤバいだろ」
「そだね。んでも、もう付き合ってるのはバレてるよね? 千代だって、清五郎課長と一緒に住んでるかも」
「そういう話は、男はせんからなぁ」
「お部屋割りはどうなるんだろうね? また真砂と一緒がいいなぁ」
ぺとりと引っ付く深成の肩に手を回し、真砂はもう片方の手を深成の顎に添えた。
「今度は男と女で分かれるだろうよ。旅館だし」
「そっかぁ。残念」
「ま、やっぱり二人での旅行でないと、ちょっと気を遣うしな」
言いつつ、真砂は深成の唇を奪う。
「でも一緒のお部屋じゃなかったら、おやすみのキスも出来ないね」
「キスぐらいなら、ちょっと隠れりゃできるけどな」
「真砂、ほんとにやりそうで怖いよ」
「チャンスがあればな」
言っている間にも、深成の身体は斜めになり、ソファに押し倒される。
「なかなか二人っきりで旅行って出来ないなぁ」
前は二人っきりのはずだったのだが、うっかり宿泊先で強烈なお邪魔虫が入った。
あのような偶然は、もうないと思いたいところだが。
「でも、別に何されたわけでもないじゃん? 初めに会っただけでしょ? ていうか、真砂は会ったの?」
真砂の下で、深成がきょとんと言う。
前の温泉旅行のとき、六郎は散々な目に遭ったのだが、深成は全く知らないらしい。
最後に姿を曝したはずだが、それも深成には血塗れのおばけにしか見えなかったのだろう。
あまりの恐怖で真砂にしがみついて震えていたので、一瞬しか見ていないのだ。
まさかそれが六郎だとは思っていない。
六郎にとっては幸いかもしれないが。
「風呂場で会ったがな」
「そうなんだ? じゃ、六郎さんもあそこに泊まってたんだね。お仕事だろうけど、温泉にも入れるんだったらいいよねぇ」
「今度は工事中でないことを、ちゃんと調べて行こう」
「うん。でも今度の旅行も楽しみ」
にこにこと言い、深成は真砂に抱きついた。
mira商社 課長:真砂・清五郎 派遣事務員:深成
社員:捨吉・あき・千代
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
それはとあるお昼休みのこと。
ブースが空いていなかったので、自席でご飯を食べていた深成が、PC画面を見て歓声を上げた。
「わぁ、凄い。綺麗だねぇ~」
同じく隣でご飯を食べていたあきが、深成のPCを覗き込む。
旅行サイトの紅葉特集のようだ。
少し前に真砂に温泉に連れて行って貰ったことで、温泉にハマったらしい。
「紅葉かぁ。随分寒くなったし、もうそろそろ終わりかな?」
「場所によるだろうけどね。山のほうなら、もう終わりだろうね」
あきが言い、二人一緒に紅葉の写真に見入っていると、外回りに行っていた千代が、清五郎と帰って来た。
「おっ紅葉か。もうそんな時期だなぁ」
清五郎が後ろからPC画面を見て口を挟む。
「そういえば、清五郎課長のお家は日本家屋だから、紅葉とかに映えそうですねぇ」
いいなぁ、と羨ましがる深成に笑い、清五郎は、じ、とPC画面を見た。
「家は言っても街中だからな、情緒はないよ。どうせなら、それこそ誰も知らない秘境とかに行ったほうがいい。HPに載ってるところは、ダダ混みだろうしな」
「んでもそんなところ、知らないし。調べようもないでしょ」
「一つ、いいところを知ってるんだがな」
にやりと言い、清五郎は深成の机の上のカレンダーに目をやった。
月中の週末を指す。
「この辺りなら仕事も忙しくないだろう。紅葉もギリぐらいだが、シーズン終わりだから空いてるだろう。元々人もあまりいない。予定は空いてるか?」
後半は上座の真砂に目をやって言う。
ん、と顔を上げ、真砂は清五郎を見た。
「俺か?」
「派遣ちゃんが行きたいって言ってるんだぜ。俺が連れて行ってもいいのか?」
「千代が嫌がるだろう」
「ま、真砂課長っ!」
何気に際どい応酬を、千代が慌てて遮った。
それを、あきがにまにまと眺める。
真砂は特に慌てるでもなく、カレンダーを見た。
「……俺はいいが。皆で行くのか? メンバーはどうするんだ?」
「ま、スキーに行ったメンバーがベストだよな。人数もあれぐらいが丁度いいし。どうだ?」
清五郎に言われ、千代とあきも頷いた。
「じゃ、あとは捨吉だけか。場所を知ってるのも俺だし、また俺が車を出せばいいな」
「お前が嫌でなければいいが。でもまた一人ずつ拾って行って貰うのも悪い。今回は、そう早朝でなくてもいいんだし、皆捨吉の駅のロータリーに集合することにしよう」
「そうか? 別に構わんが、まぁそうして貰うとありがたいかな。お千代さんはちょいと遠いから、拾って行ってやるよ」
さらりと言い、良かったな、と深成の肩をぽんと叩く。
そして清五郎は二課のほうへと帰って行った。
その日、定時過ぎに上がったあきは、途中の大きな駅で、直帰の捨吉と落ち合った。
ご飯に誘われていたのだ。
「紅葉ドライブ、聞いた?」
居酒屋でご飯を食べながら、あきが言うと、捨吉は頷いた。
「うん。清五郎課長からメールが来てた」
「捨吉くんの最寄り駅に集合ってことだわね。そっちのほうがいちいち拾って行くより確かに効率いいし」
「俺、一回も車出してないから悪いなぁ。けど小さい軽だし、六人も乗れないしな」
「あれ捨吉くん、車持ってたっけ」
捨吉の家とあきの家は、そう離れていない。
この二人はまだ遠出もしたことがないので、もっぱら公共交通機関での移動だったらしい。
おそらく、そう遅くなることもなかったのだろう。
健全である。
「持ってるよ。でも小さいからさ、やっぱり二人ぐらいがいいんだよね」
言ったあとで、少し捨吉は照れ臭そうに頭を掻いた。
「あのさ。今度、二人でちょっと遠出しようか」
「え、あ、そうね。車持ってるんだったら、行動範囲も広がるわね」
遠出、というのがどこまでを指すのか。
お泊り旅行も含まれるのか、と、いろいろ邪な考えが浮かんだが、あきはそれを悟られないよう、チューハイをごくりと飲んだ。
「楽しみだな~。一泊するんだよね? また温泉だ~」
うきうきと、お風呂から上がった深成がリビングのソファで白くまと戯れている。
濡れた髪を拭きながら脱衣所から出てきた真砂が、どすんとその横に座った。
「あんちゃんのところに集合だったら、普通に一緒に行けるもんね」
「そうしないとヤバいだろ」
「そだね。んでも、もう付き合ってるのはバレてるよね? 千代だって、清五郎課長と一緒に住んでるかも」
「そういう話は、男はせんからなぁ」
「お部屋割りはどうなるんだろうね? また真砂と一緒がいいなぁ」
ぺとりと引っ付く深成の肩に手を回し、真砂はもう片方の手を深成の顎に添えた。
「今度は男と女で分かれるだろうよ。旅館だし」
「そっかぁ。残念」
「ま、やっぱり二人での旅行でないと、ちょっと気を遣うしな」
言いつつ、真砂は深成の唇を奪う。
「でも一緒のお部屋じゃなかったら、おやすみのキスも出来ないね」
「キスぐらいなら、ちょっと隠れりゃできるけどな」
「真砂、ほんとにやりそうで怖いよ」
「チャンスがあればな」
言っている間にも、深成の身体は斜めになり、ソファに押し倒される。
「なかなか二人っきりで旅行って出来ないなぁ」
前は二人っきりのはずだったのだが、うっかり宿泊先で強烈なお邪魔虫が入った。
あのような偶然は、もうないと思いたいところだが。
「でも、別に何されたわけでもないじゃん? 初めに会っただけでしょ? ていうか、真砂は会ったの?」
真砂の下で、深成がきょとんと言う。
前の温泉旅行のとき、六郎は散々な目に遭ったのだが、深成は全く知らないらしい。
最後に姿を曝したはずだが、それも深成には血塗れのおばけにしか見えなかったのだろう。
あまりの恐怖で真砂にしがみついて震えていたので、一瞬しか見ていないのだ。
まさかそれが六郎だとは思っていない。
六郎にとっては幸いかもしれないが。
「風呂場で会ったがな」
「そうなんだ? じゃ、六郎さんもあそこに泊まってたんだね。お仕事だろうけど、温泉にも入れるんだったらいいよねぇ」
「今度は工事中でないことを、ちゃんと調べて行こう」
「うん。でも今度の旅行も楽しみ」
にこにこと言い、深成は真砂に抱きついた。