小咄
 そう思った通り、真砂は、むんずとシーツを掴むと、力任せにそれを捲った。
 乗っていた深成は、反対側に転がって落ちる。
 六郎は慌てて駆け寄った。

「あ、危ないなぁっ」

 六郎が助け起こすよりも早く、ぴょこんと深成が、ベッドの向こうから顔を出して声を上げる。
 どうやら素早く受け身を取ったらしい。
 あんなにぐっすり眠っていたわりには、素晴らしい反応だ。
 それに真砂は、満足そうに笑った。

「人の部屋で、いつまでも寝てるんじゃない」

 笑ったものの、特に深成の反応を褒めるわけでもなく、淡々と言う。
 いまいち深成が受け身を取ることを見越していたのか、本気で落とそうとしたのかわからず、六郎は戸惑った。
 そんな六郎に、深成が目を向ける。

「あ、おはよう、六郎兄ちゃん。よく眠れた?」

「あ、ああ……。うん……」

 曖昧に答える。
 実際は、真砂と深成が気になって、眠るどころではなかった。
 深成はあの後、驚く程すぐに眠ってしまったが、その深成を抱き枕よろしく、真砂が後ろから抱き締めていたのだ。

 まして寝るときは、深成はパジャマだった。
 多分下着も付けていない、薄い布地一枚だったはずだ。

 真砂はハーフパンツにTシャツを着ていたが、それとて薄い。
 お互い薄い布地を隔てただけで、密着していたのだ。

 ……と、ここまで考えて、六郎は火が出る程、頭の芯が熱くなった。
 想像が過ぎてしまったらしい。
 若干目眩を覚え、六郎は壁に手をついた。

「ん〜? 調子悪い? 何か目、充血してるよ?」

 ずい、と深成が顔を近づけて覗き込んでくる。
 警戒心など全くなく、至近距離に近づく深成に、また六郎は慌てた。

「あんな状態で眠れるのなんて、お前ぐらいだ」

 ほんのり甘やかな空気になりそうだった六郎と深成だったが、そんな二人に容赦なく抑揚のない声が浴びせられる。
 視線を動かせば、真砂が剥ぎ取ったシーツを丸めて部屋を出るところだった。

「え〜、何でよ。真砂もうさちゃん抱っこしてたじゃん」

 てこてこと真砂のほうに歩きながら、深成が持っていたぬいぐるみを突き出す。

「俺が抱いてたのは、うさぎじゃなくて、阿呆な猫だ」

 いや、阿呆な豆柴かな、と言う真砂に、しばしきょとんとしていた深成だが、それが自分のことだとわかると、むきーっと真砂に飛びかかった。

「どーいう意味よっ! ていうか、何で絶対『阿呆』って付いてんのっ?」

 ぎゃーぎゃー言いながら真砂と出て行く深成を、六郎は呆然と眺めた。
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