小咄
 さてその頃、男子チームは。

「お前、あきちゃんと付き合ってるんだろう? なのに何かよそよそしいな」

 あきと同じように、捨吉が清五郎に突っ込まれていた。
 女子チームと違うのは、それぞれ普通に起きていて、酒を飲んでいる点だ。

「ええっ。そ、そうですか? ていうか清五郎課長まで、何で知ってるんです」

「お千代さんに聞いた。ま、わかってたがな」

 涼しい顔で日本酒を飲みながら、清五郎が言う。
 そして赤い顔で視線を彷徨わせる捨吉のコップに酒を注いだ。

「何だかんだで、あきちゃんよりも派遣ちゃんを構うし。構いやすいのはわかるが」

「あいつは無防備過ぎる。すぐ食い物に釣られるしな」

 真砂が渋い顔で言う。
 ははは、と清五郎が笑った。

「でも態度は結構徹底してると思うな。羽月とかには、やっぱりどこかよそよそしいし」

「羽月かぁ。まぁ深成に惹かれるのもわかりますけど。いっつもゆいさんにこき使われてるし、あいつには珍しい、自分より小さい子だし」

 何も他の女子皆が皆羽月よりも大きいわけではないのだが、ぱっと見で低い、とわかるには結構な差が必要なのだ。
 となると、相当小さくないといけない。
 バランス的には深成はぴったりなのだ。

「それでなくても、深成は可愛いですしねぇ」

「そうだな。真砂が落ちるぐらいだからな」

 酒を飲みながら、さらりと清五郎がバラす。
 がば、と捨吉が食いついた。

「そうだ、課長。やっぱり課長は深成のことが好きなんですね。いやぁ、気に入ってるとは思ってましたけど、そうかぁ、やっぱりね」

 にまにまと笑いつつ、うんうんと頷く。

「てことは、課長は深成に一目惚れしたから、採用したんですか?」

「いや、一目惚れではない。他の奴とは違ったからだな」

「確かに他の子とは、ちょいと違いますね。何だろう、あの可愛さは」

 う~む、と考え込む捨吉を、真砂は訝しそうに見た。

「そんなにあいつを可愛い可愛いと言うのに、お前はあきが好きなのか」

「えっ。いやぁ、深成の可愛さは、何というか。俺からしたら子犬的というか。何だろう、賑やかな深成の横にいる大人しいあきちゃんのほうが、返って気になるというか」

 ぽりぽりと頭を掻きながら照れ臭そうに言う捨吉を、じ、と見、真砂はちょっと心配になった。
 清五郎の言うように、真砂から見ても捨吉とあきは、どこかよそよそしい。
 自然に二人でいる、という空気がないのだ。

「お前、あきとはどこまでやってるんだ」

 ずばりと聞かれたことに、捨吉が固まった。
 一瞬後に、真っ赤になって狼狽える。

「えええええっ!! かか、課長っ! な、何てこと聞くんですっ!」

「そんなに狼狽えることか? 何かお前を見てると、男として心配になる。こういう旅行でも、手を繋ぐでもないしなぁ」

「手を繋ぐなんて、口実はいくらでもあるぜ。けど真砂、お前だって、別に派遣ちゃんをエスコートするわけでもないじゃないか」

 やはり清五郎の中では、女性は男がエスコートするもの、という考えのようだ。

「あいつは手を繋ぐよりも、腕に貼りつくほうが好きみたいだ」

 真砂が言うと、また清五郎は、あはは、と笑い声を上げた。

「派遣ちゃんらしいな。何か常に引っ付いていたいタイプじゃないか? 確か結構な山の中の古いマンションだったし、真砂、引き取ってやれよ」

「……」

 これには何も言わず、真砂は酒を傾ける。

「ま、明日はお前のための別行動だ。頑張れよ」

 ぽん、と捨吉の背を叩き、清五郎は爽やかに笑った。
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