小咄
帰りの車の中では、話題はもっぱら年末の話だ。
「紅葉が終われば年末なんてあっという間だなぁ。今年の納会では、何をやらされるんだか」
「また何か時代劇のキャラにされるんじゃないか?」
清五郎と真砂が、前で渋い顔をする。
そういえば、と深成はあきと千代を見た。
年末年始は、それぞれどう過ごすのだろう。
---わらわ、結構ずっと真砂と過ごしてるよなぁ。今年は一緒に住んでるんだから、別に考えることなく、ずぅっと一緒だけど---
付き合う前から、年末年始は一緒に過ごしてきた。
いや、今になってみると、付き合ってないわけではなかったのかもしれない。
はっきりと彼女だ、と言われたのが最近(でもないが)なだけで、関係性としては随分前から恋人のそれだった。
真砂も前からそう思っていた、とも言っていたし、とか昔のことをぐるぐる考えていると、捨吉が、あきに顔を向けた。
「そうだ。あきちゃん、今年もカウントダウン、行こうよ」
「あ、そうね。うん、予定しとく」
几帳面に携帯に予定を入れるあきに、深成は不思議そうな目を向けた。
「そんなの携帯に入れなくてもさ、ずっと一緒にいればいいじゃん」
「……えっ」
「二人とも一人暮らしなんだしさ。まぁお掃除とかあるかもだけど」
首を傾げて言う深成に、あきと捨吉は顔を見合わせた。
双方顔が赤い。
「い、いや。いやいやいや。それはちょっと……」
「そそ、そうよ。それにお互いワンルームだし、そんな狭いところに二人でって……」
二人とも、ぶんぶんと顔の前で手を振る。
わらわのところも狭かったけど、真砂は来てくれたけどなぁ、と、ちょっとずれた思考で考えつつ、深成はなおも首を傾げた。
「どうせカウントダウン一緒にするんだったら夜中じゃん。その日は一緒に過ごすでしょ? じゃあ一緒じゃない?」
「そ、それはそうだけど……。深成ちゃんは、課長と一緒に過ごすの?」
あきが声を潜めて言うと、深成は、あ、と少し口を押さえ、ちらりと助手席の真砂を見たあと、小さくこくりと頷いた。
「だって、一緒にいたいじゃん」
小さくなって、ぼそ、と言う。
---ということは! 深成ちゃんは、すでにお泊り済みってことよね! えっ、てことは? 深成ちゃん、もう課長と……。そっか、胸元にキスマークあったし、ていうか身体にキスマークがあるってことは、そういうことよね!---
お泊りどころか一緒に住んでいるし、そもそもお泊りなど、とっくの昔に経験済みなのだが。
---そりゃ恋人なんだし、見かけはともかく大人なんだから、そういうことやっててもおかしくないけど。やっぱりお泊りってことは、そういうことやるってことよねぇ。え~……で、でもなぁ……---
あきだって経験がないわけではない。
が、どうも捨吉と、と考えると照れてしまう。
捨吉がぐいぐい引っ張ってくれるタイプではないからだろうか。
---何か、課長だったらこっちがぼーっとしててもスムーズに事が進みそうだけど。ていうか、むしろ深成ちゃんが嫌がっても、真砂課長だったらやりそうだわ---
的確ではある感想だが、何気に相当失礼である。
---まぁ……この深成ちゃんの態度からして、嫌がるってことはなさそうだけど。あ、うるうるって泣きながら見つめられたら、さすがに真砂課長でも躊躇するのかも! 何と言ってもあの課長がベタ惚れだもんね!---
妄想が走り出すと、自分のことなどたちまち脳みその隅に追いやられてしまう。
さっき赤くなっていたことなどすっかり忘れ、あきはにまにまと深成を見た。
そうこうしているうちに、車は捨吉の最寄り駅のロータリーへ。
「ご苦労さん」
「お疲れ様で~す」
「ありがとうございました」
口々にお礼を言い、捨吉にあき、真砂と深成が降りる。
軽く手を挙げて、千代を乗せたまま清五郎は車を出した。
「さて。じゃあ帰るか」
「うん。じゃあね、あきちゃん」
当たり前のように言った深成に、あきは、え? と首を傾げ、深成と一緒に歩き出す。
それを、深成だけでなく真砂までもが妙な顔で見た。
「何だ? 帰るのか?」
「え? だって、もう遅いし」
遅いといっても七時過ぎだ。
確かにこれから遊ぶには遅いだろうが。
真砂はちらりと後方の捨吉を見た。
「……まぁ帰るんなら、別にそれでもいいんだが」
そう言って、改札のほうに歩いて行く。
「ん~と。じゃあね、あんちゃん」
どこか納得いかない顔の深成も、きょろ、とあきと捨吉を交互に見たあと、捨吉に手を振って真砂の後を追った。
何となく二人の言いたいことがわかったが、捨吉が何も言わないのなら、あきから動くのも躊躇われる。
やはり己のこととなると奥手なのだ。
気付かぬふりで、あきは真砂たちの後を追おうとした。
「あっ……。あの、あきちゃんっ」
ようやく捨吉が、あきを呼び止めた。
「えーと……。あ、あのさ。ご飯食べに行かない?」
「あ……。うん、そうしようか」
あきが立ち止まると、深成がくるりと振り向き、安心したように笑った。
そして、ぶんぶんと手を振る。
---深成ちゃんに心配されるようじゃ、あたしたち、ほんとにまだまだなのね……---
切符を買った真砂に飛びつく深成に手を振りながら、あきは若干温い目で捨吉のほうへ戻るのだった。
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
それぞれちゃんと付き合った上での、3カップルのトリプルデート再び。
というか、捨吉とあきは高校生レベルの青さ。
本編では何だかんだでやってたと思うんですが。いや番外か。
何かねぇ、どうもここが一番そういう甘さがないというか。
どうも想像できないんですよね。
捨吉だってしっかりしてるはずなんですけど、やっぱりここでもお兄ちゃんキャラが抜けてないからかも。
千代と清五郎もなかなか自然とべたべたできます。
スタンダードな恋人同士って感じが一番強い。
もっとも恋人らしいことをしてるのは真砂と深成なんですがね。
常に。
さて発破をかけられたものの、捨吉とあきの仲に進展はあるでしょうか。
年末年始はどう過ごすんでしょうね?
この後もご飯だけ……だろうな~( ̄▽ ̄)
2017/01/04 藤堂 左近
「紅葉が終われば年末なんてあっという間だなぁ。今年の納会では、何をやらされるんだか」
「また何か時代劇のキャラにされるんじゃないか?」
清五郎と真砂が、前で渋い顔をする。
そういえば、と深成はあきと千代を見た。
年末年始は、それぞれどう過ごすのだろう。
---わらわ、結構ずっと真砂と過ごしてるよなぁ。今年は一緒に住んでるんだから、別に考えることなく、ずぅっと一緒だけど---
付き合う前から、年末年始は一緒に過ごしてきた。
いや、今になってみると、付き合ってないわけではなかったのかもしれない。
はっきりと彼女だ、と言われたのが最近(でもないが)なだけで、関係性としては随分前から恋人のそれだった。
真砂も前からそう思っていた、とも言っていたし、とか昔のことをぐるぐる考えていると、捨吉が、あきに顔を向けた。
「そうだ。あきちゃん、今年もカウントダウン、行こうよ」
「あ、そうね。うん、予定しとく」
几帳面に携帯に予定を入れるあきに、深成は不思議そうな目を向けた。
「そんなの携帯に入れなくてもさ、ずっと一緒にいればいいじゃん」
「……えっ」
「二人とも一人暮らしなんだしさ。まぁお掃除とかあるかもだけど」
首を傾げて言う深成に、あきと捨吉は顔を見合わせた。
双方顔が赤い。
「い、いや。いやいやいや。それはちょっと……」
「そそ、そうよ。それにお互いワンルームだし、そんな狭いところに二人でって……」
二人とも、ぶんぶんと顔の前で手を振る。
わらわのところも狭かったけど、真砂は来てくれたけどなぁ、と、ちょっとずれた思考で考えつつ、深成はなおも首を傾げた。
「どうせカウントダウン一緒にするんだったら夜中じゃん。その日は一緒に過ごすでしょ? じゃあ一緒じゃない?」
「そ、それはそうだけど……。深成ちゃんは、課長と一緒に過ごすの?」
あきが声を潜めて言うと、深成は、あ、と少し口を押さえ、ちらりと助手席の真砂を見たあと、小さくこくりと頷いた。
「だって、一緒にいたいじゃん」
小さくなって、ぼそ、と言う。
---ということは! 深成ちゃんは、すでにお泊り済みってことよね! えっ、てことは? 深成ちゃん、もう課長と……。そっか、胸元にキスマークあったし、ていうか身体にキスマークがあるってことは、そういうことよね!---
お泊りどころか一緒に住んでいるし、そもそもお泊りなど、とっくの昔に経験済みなのだが。
---そりゃ恋人なんだし、見かけはともかく大人なんだから、そういうことやっててもおかしくないけど。やっぱりお泊りってことは、そういうことやるってことよねぇ。え~……で、でもなぁ……---
あきだって経験がないわけではない。
が、どうも捨吉と、と考えると照れてしまう。
捨吉がぐいぐい引っ張ってくれるタイプではないからだろうか。
---何か、課長だったらこっちがぼーっとしててもスムーズに事が進みそうだけど。ていうか、むしろ深成ちゃんが嫌がっても、真砂課長だったらやりそうだわ---
的確ではある感想だが、何気に相当失礼である。
---まぁ……この深成ちゃんの態度からして、嫌がるってことはなさそうだけど。あ、うるうるって泣きながら見つめられたら、さすがに真砂課長でも躊躇するのかも! 何と言ってもあの課長がベタ惚れだもんね!---
妄想が走り出すと、自分のことなどたちまち脳みその隅に追いやられてしまう。
さっき赤くなっていたことなどすっかり忘れ、あきはにまにまと深成を見た。
そうこうしているうちに、車は捨吉の最寄り駅のロータリーへ。
「ご苦労さん」
「お疲れ様で~す」
「ありがとうございました」
口々にお礼を言い、捨吉にあき、真砂と深成が降りる。
軽く手を挙げて、千代を乗せたまま清五郎は車を出した。
「さて。じゃあ帰るか」
「うん。じゃあね、あきちゃん」
当たり前のように言った深成に、あきは、え? と首を傾げ、深成と一緒に歩き出す。
それを、深成だけでなく真砂までもが妙な顔で見た。
「何だ? 帰るのか?」
「え? だって、もう遅いし」
遅いといっても七時過ぎだ。
確かにこれから遊ぶには遅いだろうが。
真砂はちらりと後方の捨吉を見た。
「……まぁ帰るんなら、別にそれでもいいんだが」
そう言って、改札のほうに歩いて行く。
「ん~と。じゃあね、あんちゃん」
どこか納得いかない顔の深成も、きょろ、とあきと捨吉を交互に見たあと、捨吉に手を振って真砂の後を追った。
何となく二人の言いたいことがわかったが、捨吉が何も言わないのなら、あきから動くのも躊躇われる。
やはり己のこととなると奥手なのだ。
気付かぬふりで、あきは真砂たちの後を追おうとした。
「あっ……。あの、あきちゃんっ」
ようやく捨吉が、あきを呼び止めた。
「えーと……。あ、あのさ。ご飯食べに行かない?」
「あ……。うん、そうしようか」
あきが立ち止まると、深成がくるりと振り向き、安心したように笑った。
そして、ぶんぶんと手を振る。
---深成ちゃんに心配されるようじゃ、あたしたち、ほんとにまだまだなのね……---
切符を買った真砂に飛びつく深成に手を振りながら、あきは若干温い目で捨吉のほうへ戻るのだった。
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
それぞれちゃんと付き合った上での、3カップルのトリプルデート再び。
というか、捨吉とあきは高校生レベルの青さ。
本編では何だかんだでやってたと思うんですが。いや番外か。
何かねぇ、どうもここが一番そういう甘さがないというか。
どうも想像できないんですよね。
捨吉だってしっかりしてるはずなんですけど、やっぱりここでもお兄ちゃんキャラが抜けてないからかも。
千代と清五郎もなかなか自然とべたべたできます。
スタンダードな恋人同士って感じが一番強い。
もっとも恋人らしいことをしてるのは真砂と深成なんですがね。
常に。
さて発破をかけられたものの、捨吉とあきの仲に進展はあるでしょうか。
年末年始はどう過ごすんでしょうね?
この後もご飯だけ……だろうな~( ̄▽ ̄)
2017/01/04 藤堂 左近