小咄
とある派遣社員・深成の出向体験
【キャスト】
mira商社 派遣事務員:深成 課長:真砂 社員:羽月
高山建設 社員:六郎
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
「ねぇ真砂。何でわらわが社長に呼び出されるの」
エレベーターの中で、深成が不安そうに真砂に言う。
普段通り仕事をしているところへ、いきなり社長からの呼び出しがかかったのだ。
もっとも一人ではなく、真砂と一緒なのでまだマシだ。
「わらわ、何かしたかなぁ」
「そんなことはないと思うが。何かあっても、責任は俺が取るし」
深成は派遣社員なので、何かしでかした場合の社内での責任は、上司である真砂に全て行く。
社長からの叱責となると、真砂だけのはずであり、そこから派遣会社の営業に行くはずである。
「ま、万が一お前を切れってことになっても、後は俺が面倒見てやるよ。心配すんな」
真砂にとっては、むしろそっちのほうがいいかもしれない。
結婚に進める最大の口実だ。
「でも、真砂に迷惑がかかるかもだし」
しょぼん、と項垂れていると、ちん、と軽い音を立てて、エレベーターが開いた。
深成は来たことのない最上階。
いきなりきんきらきんの御殿が目に飛び込んでくる。
「……うわぁ……」
ぽかーん、と深成の口が開く。
眉間に皺が刻まれる真砂の頭上で、うぃーん、と電子音が響いた。
『名乗りなはれ』
「営業部一課、課長・真砂。ミラ子様のお召しにより参上仕りました」
顔はしかめたままだが、慣れた風に真砂が名乗る。
そして、横の深成に視線を落とす。
「ほれ、お前も」
「えっ。えーとえーと。営業部一課、派遣社員・深成。ミラ子社長のお召しにより、参上仕りました」
焦りながらも、真砂の言った通り名乗ってみる。
ぷくく、と小さく笑い声が響いた。
『よぅ出来ました。入りなはれ』
笑いを含んだ声と共に、目の前のきんきら扉が開く。
「ね、いっつもこんな挨拶してるの?」
「ああ言わないと先に進めん」
ぼそぼそと話しながら、二人は社長室に入った。
「お越しやす。まぁそう固くならんで。保護者付きやし、気楽に聞いてや。派遣ちゃんはコーヒー派か?」
レトロなドレスに身を包んだミラ子社長が、これまたレトロなコーヒーメーカーをぽんぽんと叩きながら言う。
「えーと。わらわ、コーヒーは苦くて飲めないです」
「そうか。真砂課長と同じく紅茶派やな。いや良かった。実はこれ、豆から挽かなあかんから面倒なんや。淹れるからには美味しいやつを淹れたいけど、面倒なのも嫌やしなぁ」
「だからネス○フェアン○サダー♪にしましょうって言ってるのに」
横から秘書のラテ子が口を挟む。
何故か一部音程がついているのは気のせいか。
「あれも魅力的やけどなぁ、あれ買うてもうたら、もうこれ使わんやろ。折角骨董市で見つけたのに、勿体ないやんか」
「とか言って、滅多に使わないじゃないですか。一緒ですよ」
「いやいや、このうち自ら豆を挽くんや。うちにそこまでさせるほどのお人やないと、このコーヒーは飲めんっちゅーことやで。でもこのコーヒーを飲める権利のある真砂課長は、残念ながら紅茶派やっちゅう悲劇。こうなったら、もううち自らスリランカに行って茶葉摘みや」
「ここは日本茶で手を打ってもいいのでは? 宇治に茶摘みに行きましょう」
「そやな。宇治と静岡。真砂課長のために、日本の高級茶をうち自ら作るで!」
何やら秘書と盛り上がるミラ子社長を眺め、深成はこそりと真砂を見上げた。
mira商社 派遣事務員:深成 課長:真砂 社員:羽月
高山建設 社員:六郎
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
「ねぇ真砂。何でわらわが社長に呼び出されるの」
エレベーターの中で、深成が不安そうに真砂に言う。
普段通り仕事をしているところへ、いきなり社長からの呼び出しがかかったのだ。
もっとも一人ではなく、真砂と一緒なのでまだマシだ。
「わらわ、何かしたかなぁ」
「そんなことはないと思うが。何かあっても、責任は俺が取るし」
深成は派遣社員なので、何かしでかした場合の社内での責任は、上司である真砂に全て行く。
社長からの叱責となると、真砂だけのはずであり、そこから派遣会社の営業に行くはずである。
「ま、万が一お前を切れってことになっても、後は俺が面倒見てやるよ。心配すんな」
真砂にとっては、むしろそっちのほうがいいかもしれない。
結婚に進める最大の口実だ。
「でも、真砂に迷惑がかかるかもだし」
しょぼん、と項垂れていると、ちん、と軽い音を立てて、エレベーターが開いた。
深成は来たことのない最上階。
いきなりきんきらきんの御殿が目に飛び込んでくる。
「……うわぁ……」
ぽかーん、と深成の口が開く。
眉間に皺が刻まれる真砂の頭上で、うぃーん、と電子音が響いた。
『名乗りなはれ』
「営業部一課、課長・真砂。ミラ子様のお召しにより参上仕りました」
顔はしかめたままだが、慣れた風に真砂が名乗る。
そして、横の深成に視線を落とす。
「ほれ、お前も」
「えっ。えーとえーと。営業部一課、派遣社員・深成。ミラ子社長のお召しにより、参上仕りました」
焦りながらも、真砂の言った通り名乗ってみる。
ぷくく、と小さく笑い声が響いた。
『よぅ出来ました。入りなはれ』
笑いを含んだ声と共に、目の前のきんきら扉が開く。
「ね、いっつもこんな挨拶してるの?」
「ああ言わないと先に進めん」
ぼそぼそと話しながら、二人は社長室に入った。
「お越しやす。まぁそう固くならんで。保護者付きやし、気楽に聞いてや。派遣ちゃんはコーヒー派か?」
レトロなドレスに身を包んだミラ子社長が、これまたレトロなコーヒーメーカーをぽんぽんと叩きながら言う。
「えーと。わらわ、コーヒーは苦くて飲めないです」
「そうか。真砂課長と同じく紅茶派やな。いや良かった。実はこれ、豆から挽かなあかんから面倒なんや。淹れるからには美味しいやつを淹れたいけど、面倒なのも嫌やしなぁ」
「だからネス○フェアン○サダー♪にしましょうって言ってるのに」
横から秘書のラテ子が口を挟む。
何故か一部音程がついているのは気のせいか。
「あれも魅力的やけどなぁ、あれ買うてもうたら、もうこれ使わんやろ。折角骨董市で見つけたのに、勿体ないやんか」
「とか言って、滅多に使わないじゃないですか。一緒ですよ」
「いやいや、このうち自ら豆を挽くんや。うちにそこまでさせるほどのお人やないと、このコーヒーは飲めんっちゅーことやで。でもこのコーヒーを飲める権利のある真砂課長は、残念ながら紅茶派やっちゅう悲劇。こうなったら、もううち自らスリランカに行って茶葉摘みや」
「ここは日本茶で手を打ってもいいのでは? 宇治に茶摘みに行きましょう」
「そやな。宇治と静岡。真砂課長のために、日本の高級茶をうち自ら作るで!」
何やら秘書と盛り上がるミラ子社長を眺め、深成はこそりと真砂を見上げた。