小咄
 その日は、深成は六郎と町に出た。
 真砂は用事があったので一緒ではないが、捨吉がついてきている。

「真砂が一緒だったら、車出して貰えるのに〜」

「……深成ちゃん、あの人と仲良しなんだ?」

 深成が歩きながら、何の気なしに言ったことにも、六郎は反応してしまう。
 途端に深成は、大きく首を振った。

「仲良しじゃない。どこ見てそう思うのさ」

「え、だって……」

 抱き合って寝たではないか、と言いそうになるのを、ぐっと堪える。

「とんでもないよ。真砂、いっつもわらわの部屋に、信じられない罠仕掛けるしさ。わらわのことは馬鹿にするしさ。何かっちゃ子供扱いするしさ。口は悪いわ性格は悪いわ」

 ぷんすかと怒りながら、深成は真砂の欠点を挙げていく。
 うんうん、と六郎は、深く頷いた。
 まさしく、仰る通り。

「でも何だかんだで、真砂さんは深成を可愛がってるよ」

 捨吉が、にこにこと言う。
 ええ? と不満そうに見上げる深成だが、六郎は密かに渋い顔をした。
 確かに男からしたら、『好きな子ほど苛めたい』という感情に見えなくもないのだ。

「深成は反応が面白いしさ。何より可愛いからねぇ」

 ぐりぐりと頭を撫でる。
 昨日から、捨吉のこういう態度は最早見飽きた。
 ここまで自然に可愛いと言えるのは凄いことだが、本気で好きな子にそう言っても、この調子では軽く流されるだろう。

 ふと、六郎は捨吉を見た。

「そういえば君も、深成ちゃんと仲良いね。君は深成ちゃんのこと、好きなの?」

「ああ、うん」

 軽く、捨吉が頷く。
 ちょっと六郎は目を見開いた。
 軽過ぎて、本気なんだか何だかわからない。

 深成はと見ると、嬉しそうに笑っている。
 これまた告白されて嬉しいんだか、仲良しの延長なのかわからない。

---こう考えると、奴の態度のほうが本気っぽいかもしれん---

 捨吉のように、はっきり好きだとか可愛いとかは言わない。
 しかしむしろ、本気でそう思っているほうが、言えないものではないか。
 『可愛い』はともかく、『好き』というのは、本気で想っている者を前にしては、なかなか言えるものではない。

---私も言えない……---

 ということは、自分は本気で深成を想っているのだろうか、と気付き、六郎は一人で顔を赤らめた。
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