小咄
タクシーに乗っている間に酔いが醒めるどころか、車の揺れがさらに酔いを促進してしまったようで、深成はマンションに着いた頃には、すっかり夢の中だった。
とりあえずタクシーを降りた六郎は、深成を負ぶおうとするが、ほとんど目は開いていないくせに、何故か深成が拒否をする。
「いやほら、歩けないだろ?」
「いーやー」
「とりあえず、ほら、マンションには着いたから」
暴れる深成を無理やり抱え、六郎はエントランスに入った。
折よく鍵は深成が持ったままだったので、それを鍵穴に差し込みロビーに入る。
よくよく見ると、鍵に部屋番号が打ってあった。
「十階か……」
負ぶったほうがお互い楽なのだが、深成が頑なに拒否するので、仕方なく抱え上げている。
それでも若干暴れているのだが。
「ほら深成ちゃん。支えてあげるから、ちょっと大人しく掴まって」
「やーだー」
じたばたと暴れる深成を支え、何とかエレベーターで十階へ。
---そういや、あきさんだって深成ちゃんの彼氏の家がここだって、はっきり言ったわけじゃないよな。あきさんの知ってる深成ちゃんの家の場所ではなかったっぽいってだけで、憶測だろう。単に深成ちゃんが引っ越しただけかもしれないじゃないか---
あきも六郎も、真砂の家を知っているわけではない。
あきは真砂の最寄り駅が小松町駅である、というヒントを掴んでいるのでほぼ確信があっての発言だったのだが、六郎はそんなことまで知らない。
「深成ちゃん、ここに引っ越したの?」
聞いてみると、六郎に抱えられたまま、深成はすぐに、こっくりと頷いた。
「そっかぁ。何だ」
あからさまに、六郎は胸を撫で降ろした。
ここは真砂の家ではない。
単に深成がここに引っ越してきただけなのだ、と、ほっとする。
後半部分はその通りだ。
深成も嘘はついていない。
ただ大事な前半部分が、六郎の希望的観測によって消え去ってしまっただけで。
---あれ。じゃあ私は、一人暮らしの深成ちゃんの家に向かっているのか。このままだと家の中までちゃんと連れて行かないと危ないな……。いやでも、ちょっとマズいかな---
今更ながら、赤くなっていろいろ考える。
真面目故、この機会にどうこうしようという気はないが、状況的にはいろいろ発展可能な状態だ。
……ただあくまで、六郎の考えている通りの状況であれば。
そんなことを考えているうちに、六郎は一つの部屋の前まで来た。
部屋番号を確かめる。
「深成ちゃん、開けるよ」
鍵は持っている。
一応断ってから、六郎は鍵穴に鍵を差し込んだ。
軽い手応えと共に、ロックが外れた。
その途端。
いきなりドアが開いた。
危うくドアに額をぶつけそうになった六郎が、目を見開く。
中からドアを開けたのは真砂だった。
「……っ」
真砂の目が、瞬時にこの上なく鋭くなった。
そして、六郎に抱えられている深成に目を落とす。
「まさごぉ~~~~」
うわあぁ~ん、と泣きながら、深成がまた、じたばたと暴れて真砂に手を差し伸べる。
まるで六郎に捕まって、助けを求めているようだ。
実際深成的には、そうかもしれない。
頑なに六郎を拒否していたのも、はっきり言うと必要以上に触れられたくなかったのだ。
もっとも一人では歩けなかったので、六郎が抱えたのも仕方なかったのだが。
「な、何故あなたがっ……。ここは深成ちゃんの家では?」
思わず後ずさり、六郎が言う。
まさか深成の家に入り込んでいるのではあるまいか。
が、真砂は六郎が下がった分だけ、ずいっと前に出た。
そして深成の腕を掴む。
「自分の家にいて何が悪い」
真砂が六郎を睨んだまま言う。
ぴき、と六郎が固まった。
そういえば、真砂はTシャツにパーカーという寛いだ格好だ。
少し前まで飲み会で一緒だったのに、今この格好ということは、普通にここに帰って来たということで、ここが真砂の家だという証明ではないのか。
とりあえずタクシーを降りた六郎は、深成を負ぶおうとするが、ほとんど目は開いていないくせに、何故か深成が拒否をする。
「いやほら、歩けないだろ?」
「いーやー」
「とりあえず、ほら、マンションには着いたから」
暴れる深成を無理やり抱え、六郎はエントランスに入った。
折よく鍵は深成が持ったままだったので、それを鍵穴に差し込みロビーに入る。
よくよく見ると、鍵に部屋番号が打ってあった。
「十階か……」
負ぶったほうがお互い楽なのだが、深成が頑なに拒否するので、仕方なく抱え上げている。
それでも若干暴れているのだが。
「ほら深成ちゃん。支えてあげるから、ちょっと大人しく掴まって」
「やーだー」
じたばたと暴れる深成を支え、何とかエレベーターで十階へ。
---そういや、あきさんだって深成ちゃんの彼氏の家がここだって、はっきり言ったわけじゃないよな。あきさんの知ってる深成ちゃんの家の場所ではなかったっぽいってだけで、憶測だろう。単に深成ちゃんが引っ越しただけかもしれないじゃないか---
あきも六郎も、真砂の家を知っているわけではない。
あきは真砂の最寄り駅が小松町駅である、というヒントを掴んでいるのでほぼ確信があっての発言だったのだが、六郎はそんなことまで知らない。
「深成ちゃん、ここに引っ越したの?」
聞いてみると、六郎に抱えられたまま、深成はすぐに、こっくりと頷いた。
「そっかぁ。何だ」
あからさまに、六郎は胸を撫で降ろした。
ここは真砂の家ではない。
単に深成がここに引っ越してきただけなのだ、と、ほっとする。
後半部分はその通りだ。
深成も嘘はついていない。
ただ大事な前半部分が、六郎の希望的観測によって消え去ってしまっただけで。
---あれ。じゃあ私は、一人暮らしの深成ちゃんの家に向かっているのか。このままだと家の中までちゃんと連れて行かないと危ないな……。いやでも、ちょっとマズいかな---
今更ながら、赤くなっていろいろ考える。
真面目故、この機会にどうこうしようという気はないが、状況的にはいろいろ発展可能な状態だ。
……ただあくまで、六郎の考えている通りの状況であれば。
そんなことを考えているうちに、六郎は一つの部屋の前まで来た。
部屋番号を確かめる。
「深成ちゃん、開けるよ」
鍵は持っている。
一応断ってから、六郎は鍵穴に鍵を差し込んだ。
軽い手応えと共に、ロックが外れた。
その途端。
いきなりドアが開いた。
危うくドアに額をぶつけそうになった六郎が、目を見開く。
中からドアを開けたのは真砂だった。
「……っ」
真砂の目が、瞬時にこの上なく鋭くなった。
そして、六郎に抱えられている深成に目を落とす。
「まさごぉ~~~~」
うわあぁ~ん、と泣きながら、深成がまた、じたばたと暴れて真砂に手を差し伸べる。
まるで六郎に捕まって、助けを求めているようだ。
実際深成的には、そうかもしれない。
頑なに六郎を拒否していたのも、はっきり言うと必要以上に触れられたくなかったのだ。
もっとも一人では歩けなかったので、六郎が抱えたのも仕方なかったのだが。
「な、何故あなたがっ……。ここは深成ちゃんの家では?」
思わず後ずさり、六郎が言う。
まさか深成の家に入り込んでいるのではあるまいか。
が、真砂は六郎が下がった分だけ、ずいっと前に出た。
そして深成の腕を掴む。
「自分の家にいて何が悪い」
真砂が六郎を睨んだまま言う。
ぴき、と六郎が固まった。
そういえば、真砂はTシャツにパーカーという寛いだ格好だ。
少し前まで飲み会で一緒だったのに、今この格好ということは、普通にここに帰って来たということで、ここが真砂の家だという証明ではないのか。