小咄
「六郎兄ちゃん、やっぱり何かしんどい? 顔が赤い」

 深成が、少し心配そうに言う。

「い、いや、そんなことない。大丈夫だよ」

「ほんとに? なら良いんだけど」

 にこ、と笑い、深成は六郎を引っ張って、大きなお菓子屋さんに入った。

「えへ。ここでいっつも、お菓子買いだめするんだ」

 言いながら、籠にぽいぽいとお菓子の大袋を入れていく。
 楽しそうにお菓子を選ぶ深成をぼんやり眺めていると、六郎の傍に、ひょいと捨吉が近付いた。

「はは。ほんとに深成は、お菓子好きなんだから。ところで六郎さん。六郎さんの用向きは何だったの?」

「え?」

「いや、何か六郎さんと深成、ただならぬ関係なのかなって。六郎さんは、深成を迎えに来たのかなとか」

「ええええええ」

 狼狽える六郎に、捨吉は少し声を潜めた。

「だって、小さい頃からずっと深成のことが好きだったんなら、そろそろ手を付けようとか思うんじゃないの?」

 凄いことを言う。
 瞬間的に、六郎は真っ赤になった。

「な、何てこと言うんだ」

「だって深成は可愛いじゃん? うかうかしてたら、それこそ取られちゃうよ? 今は特に、シェアハウスにいるんだし。僕も、真砂さんもいるし」

「っっっ!!」

 思わぬ宣戦布告だ。
 さらりと言ったわりには、これは自分も狙っていると言っているも同然ではないか。

「き、君も深成ちゃんのことが好きなのか」

「そう言ってるじゃん」

 にこりと笑う。
 赤面もしなければ、隠そうともしない。
 恐ろしいほど自然で爽やかだ。

「そ、そうか……。でも、あの人はわからんだろ」

 何とか口を動かす六郎に、捨吉は、一瞬怪訝な顔になった。
 が、すぐにわかったようで、ああ、と軽く頷く。

「真砂さんか。そうだね、あの人は謎だけど……。でも真砂さんに本気出されたら、さすがに敵わないな」

 あははは、と明るく笑う。
 どこまで行っても本気なんだか冗談なんだか。

 というよりも、六郎だったら本気を出したところで負けない、ということだろうか。
 はっきり言って、真砂よりも捨吉のほうが、六郎にとっては謎である。

「何してるのさ。あんちゃんも、何かいらない?」

 てこてこと、深成が駆け寄ってくる。
 その手には、籠から落ちそうなほどのお菓子が詰め込まれている。

「そんなに買うの? 今日は真砂さんいないんだから、手荷物多くなったら大変だよ?」

「だって、真砂がいたら、また馬鹿にされるじゃん」

 ぶぅ、と膨れ、深成はそのままレジへ向かう。
 そして程なく、両手に大きな袋を抱えて戻ってきた。
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