小咄
「う〜ん、やっぱりちょっと大変だった」

 よろよろしている深成から、大きなほうの袋を取り、捨吉が笑う。
 負けじと六郎も、もう一つの袋を持とうとするが、生憎六郎は、自分の荷物が結構でかい。
 当の深成から、いいよ、と言われてしまう。

「六郎兄ちゃん。電車の時間は大丈夫なの? そろそろ行かないとだよね?」

「そうだね。でも、そんな大きな荷物抱えてたら大変だから、見送りはいいよ」

 そう言って、六郎は少し考えた。
 元々六郎は、別のところに行くついでに、深成のところに立ち寄っただけだ。
 それでもわざわざ途中下車までして深成に会いに来たのは、深成に会いたかったからなのだが。

 ただそれが、本気の恋愛故なのか、単に長年会っていない幼馴染に会いたかっただけなのかはわからない。

---実際に会うまでは、ほんとに妹としてしか、見てなかったけど……---

 相変わらず子供っぽくて、全然変わってないのだが、周りの状況が変わっているのだ。
 思えば昔から、深成は可愛かった。
 男の子にも人気があったが、それは周りの男の子も小さかったので、あくまで『お友達』の範囲内だった。

 だが今周りにいる男どもは、そうではない。
 それなりの男女が、そうそう『お友達』などでいられるだろうか。
 事実、宣戦布告をされているのだ。

 六郎は大きく息を吸い込んで、気を落ち着けた。
 意を決して、深成の頭に手を置く。

「会っておいて良かった。深成ちゃん、気を付けるんだよ?」

「え?」

 優しく頭を撫でる六郎に、深成が小首を傾げる。
 深成は可愛い、と気が付くと、こういう仕草も堪らない。

 同時に不安で堪らなくなる。
 同じように、真砂や捨吉も思っているかもしれないのだ。

「同じ家に、男の人もいるんだからね。深成ちゃんだって、もう子供じゃないだろ」

 いかにも心配そうに言う六郎だったが、深成は突然、嬉しそうに笑った。

「そうっ? やっぱり六郎兄ちゃんは、わらわをちゃんと見てくれてる。わらわも大人になったでしょっ?」

 ずいずいっと伸び上がって言う。

「いっつも真砂に、お子様お子様って言われるからさ。そりゃ真砂よりは大分下だけど、あんな馬鹿にしなくたっていいじゃんね」

 ぶーぶー言う深成だが、そういうことじゃない、と六郎は、ちょっと困った顔をした。

「ていうか、夕べも言ったけど、あんまり男の人にべたべたするんじゃないよ」

「してないよぅ」

「か、簡単に男の人の部屋で寝ちゃ駄目だって言ってるんだよ」

「ああ。だってあれは、しょうがないよ。大丈夫だよ、普段だったら真砂の部屋なんて、入れないもん。何が飛んでくることやら」

 千代だってクッション食らってるし、ときゃらきゃら笑う深成と一緒に笑いつつ、捨吉は、ちらりと六郎を窺った。
 そして、面白そうに口を開く。

「確かに千代姐さんは、いろんな攻撃食らってるけど、深成だったらどうかな。案外何もしないかもよ?」
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