小咄
 平日の、まだ夜も明けてないような時間だ。
 幸い人通りもない。

「そういえばさ、課長のお家は? 確か一人暮らしだって、千代が言ってた」

 ああ、と呟き、真砂は通りに出たところで、タクシーを止めた。

「一人なんだったら、あんなところじゃなくても、課長のお家でも良かったんじゃないの?」

「馬鹿。俺の家で吐かれたら堪らん」

「あ、なるほど」

 納得したところで、タクシーに乗り込む。
 九度山町、と真砂が告げ、時計を軽く指した。

「まぁ頑張れば、九時に出社できるな」

「えっ」

 忘れていた。
 今日はまだ金曜日だ。

 深成は時計を見た。
 六時前。

「ま、間に合うかなぁ」

「頑張ることだな」

 冷たく言う真砂に、運転手のほうが可哀相になったのか、タクシーは風のように九度山町に向かった。
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