小咄
とある町医者での診察事情
【キャスト】
医師:真砂 看護師:あき 患者:深成(兄:捨吉)
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
小さなマンションに、うららかな朝がやってきた。
捨吉はいつものように、トーストを仕掛け、妹を起こすべく、ドアをノックした。
「深成。朝だよ」
返事はない。
おや、と思ってドアを開けると、布団に丸まったままの深成が目に入る。
「どうした? あれ、熱があるじゃないか」
「うう、あんちゃん。気持ち悪い」
「わーっ! ちょっと待て!」
慌てて捨吉は、深成を担いでトイレに駆け込む。
ひとしきり胃の中のものを出しても、深成はくたりとしたままだ。
「う~ん、何か悪いもの食べたかなぁ。昨日の夜も、俺と同じものしか食べてないし」
ぶつぶつ言いながら、とりあえず深成をソファに寝かせ、一番楽そうなワンピースを渡した。
「ほら、これなら被るだけで着替えられるだろ? 病院行こう」
「……病院やだ。注射されるもん~」
「わかんないだろ。とりあえず、そんな酷い状態なんだから、病院には連れて行くよ」
渋る深成を抱え、捨吉は近くの小さな病院に駆け込んだ。
「あらこんにちは。どうされました?」
受付で、看護師のあきが、にこやかに声をかける。
捨吉は診察券を差し出しながら、ぜぃぜぃと息を切らせていた。
「あ、あの。妹の具合が悪くて。朝からずっと吐いてるんです」
「まぁ。ではこちらへどうぞ」
あきに促され、待合室を通り越して、一つの部屋へと通される。
「さ、ここで寝ててください。気持ち悪くなったら、ここに吐いてね」
点滴用の部屋でベッドに寝かされた深成を覗き込み、あきは、まぁ、と焦ったように声を上げる。
「顔色が悪いわ。大分具合が悪いようね」
「あ、それは……」
捨吉が言いよどむ。
深成が真っ青なのは、いきなり点滴用の部屋に入れられたことと、ただでさえ苦手な病院に連れ込まれたことによる。
注射の恐怖が、ダブルで襲っているのだ。
「大丈夫だって。ここに入ったのは、待合室では寝てられないからだし、何も病院に来たからって、絶対注射されるとは限らないんだからね」
子供に言い聞かすように、捨吉は深成のすぐ横に座り込んで言った。
あきが出て行ってしばらくしてから、廊下を歩いてくる足音が聞こえてきた。
しゃっとカーテンが開けられる。
「……どうした?」
片手を白衣のポッケに突っ込んだ医師が、深成を見下ろして口を開いた。
朝一で同じ言葉を捨吉にも言われたが、感情の入れようで、ここまで変わるのか、というほど冷たい声音だ。
普通はお医者さんのほうが優しく聞くもんじゃないの、と思いつつ、おずおずと深成は、自分のすぐ横に立つ医師・真砂を見上げた。
無表情に見下ろす真砂は、まさに深成を『見下している』感じだ。
真砂はちらりと、傍らに立つあきを見た。
「あ。あの、えっと。患者さん、気分が悪いそうです」
「そんなことはわかっている」
真砂の視線を受けて報告するあきを、ばっさりと切る。
焦ったためか、阿呆な受け答えになってしまったあきだったが、ようやく自分の立場を思い出し、ささっと体温計を取り出した。
手早く深成の熱を測る。
「38.5度。高いですね」
ようやく真砂は、ふむ、と頷き、深成の横の椅子に腰掛けた。
医師:真砂 看護師:あき 患者:深成(兄:捨吉)
・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆・:・★・:・☆
小さなマンションに、うららかな朝がやってきた。
捨吉はいつものように、トーストを仕掛け、妹を起こすべく、ドアをノックした。
「深成。朝だよ」
返事はない。
おや、と思ってドアを開けると、布団に丸まったままの深成が目に入る。
「どうした? あれ、熱があるじゃないか」
「うう、あんちゃん。気持ち悪い」
「わーっ! ちょっと待て!」
慌てて捨吉は、深成を担いでトイレに駆け込む。
ひとしきり胃の中のものを出しても、深成はくたりとしたままだ。
「う~ん、何か悪いもの食べたかなぁ。昨日の夜も、俺と同じものしか食べてないし」
ぶつぶつ言いながら、とりあえず深成をソファに寝かせ、一番楽そうなワンピースを渡した。
「ほら、これなら被るだけで着替えられるだろ? 病院行こう」
「……病院やだ。注射されるもん~」
「わかんないだろ。とりあえず、そんな酷い状態なんだから、病院には連れて行くよ」
渋る深成を抱え、捨吉は近くの小さな病院に駆け込んだ。
「あらこんにちは。どうされました?」
受付で、看護師のあきが、にこやかに声をかける。
捨吉は診察券を差し出しながら、ぜぃぜぃと息を切らせていた。
「あ、あの。妹の具合が悪くて。朝からずっと吐いてるんです」
「まぁ。ではこちらへどうぞ」
あきに促され、待合室を通り越して、一つの部屋へと通される。
「さ、ここで寝ててください。気持ち悪くなったら、ここに吐いてね」
点滴用の部屋でベッドに寝かされた深成を覗き込み、あきは、まぁ、と焦ったように声を上げる。
「顔色が悪いわ。大分具合が悪いようね」
「あ、それは……」
捨吉が言いよどむ。
深成が真っ青なのは、いきなり点滴用の部屋に入れられたことと、ただでさえ苦手な病院に連れ込まれたことによる。
注射の恐怖が、ダブルで襲っているのだ。
「大丈夫だって。ここに入ったのは、待合室では寝てられないからだし、何も病院に来たからって、絶対注射されるとは限らないんだからね」
子供に言い聞かすように、捨吉は深成のすぐ横に座り込んで言った。
あきが出て行ってしばらくしてから、廊下を歩いてくる足音が聞こえてきた。
しゃっとカーテンが開けられる。
「……どうした?」
片手を白衣のポッケに突っ込んだ医師が、深成を見下ろして口を開いた。
朝一で同じ言葉を捨吉にも言われたが、感情の入れようで、ここまで変わるのか、というほど冷たい声音だ。
普通はお医者さんのほうが優しく聞くもんじゃないの、と思いつつ、おずおずと深成は、自分のすぐ横に立つ医師・真砂を見上げた。
無表情に見下ろす真砂は、まさに深成を『見下している』感じだ。
真砂はちらりと、傍らに立つあきを見た。
「あ。あの、えっと。患者さん、気分が悪いそうです」
「そんなことはわかっている」
真砂の視線を受けて報告するあきを、ばっさりと切る。
焦ったためか、阿呆な受け答えになってしまったあきだったが、ようやく自分の立場を思い出し、ささっと体温計を取り出した。
手早く深成の熱を測る。
「38.5度。高いですね」
ようやく真砂は、ふむ、と頷き、深成の横の椅子に腰掛けた。